小説『DNA51影たちの黒十字』(続ロザリンド物語) 〜13〜

記事
小説

小説『DNA51・影たちの黒十字』(続ロザリンド・フランクリン物語) 〜13

     14              ニューマーケット奇譚

 クリックは驚いているロザリンドに
   『新知見』 
を一刻も早くロザリンドに聞いてもらって見解が聞きた
いので自分から訪問して来たのだと告げると、核酸の
様態を分子結合の構造から浮かび上がらせる試みを繰り
返していたところ、
   “二重螺旋構造“
をとっているのではないかとの結論が出てきたと語るの
だった。

「分子結合を専攻する教授にアドバイスを色々もろうて
 模型製作も何回も試みたところ、とうとう・・、
 ついに・・・・・・・、なんと、
 この ”二重螺旋” に辿り着いたんですわ」

 クリックはロザリンドが英国医学研究機構に送った報
告書に関する事項は一切語らずに、分子結合の試行を繰
り返した結果、二重螺旋構造が表出されてきた事を強調
した。
A14C9B97-44F8-4067-BAAF-3857113A9CEE.jpeg

「分子結合の試行を何度も繰り返していましてね、
 これからは、生物の研究も分子単位で見ていかなあかん、
 つくづく、そう思うようになりましたわ。
 ロザリンドはん、どう思はります?」
そう語るクリックの口調は、何かを極めきった大家のようである。

「確かに、微細を見る方向へ行けば、行くほどに、分子に
 突き当たりますよってに、そないな視点は大切なんと
 ちゃいますかぁ」
ロザリンドもクリックの考えに意味なく同意した。

「この二重螺旋構造の結果でもってワシは論文一本書こう
 思いますのんやぁ。ロザリンドはんも今までの研究結果
 から一本書きはりません? 倫敦大学と賢振寺大学とで
 合同の論文執筆・・なんて、宜しおますやろ?」

「はぁ。何か、考えては・・・みますわ・・。
 クリックさんの新論文なんですけどなぁ・・・、
 草案稿がでけたら、キングスカレッジ倫敦の方へも
 その草稿、送ってくだはりますのん?」

キングスカレッジ倫敦グループでも、
ウィルキンスなどから螺旋形態は指摘されていたところなので、
クリックの辿り着いた二重螺旋構造説にはロザリンドも驚きと
強い関心を抱いた。

「もちろん草稿でけたら送りまっせ。是非ロザリンドはんも
 論文一本お願いしますわ。賢振寺大と倫敦大との合同で
 同時にネイチャー誌に論文送りまひょ」

クリックは実際の細胞を実験に使うことによって得られる
独自の実験データは持っていないので、唱える『新知見』が
どれほど画期的なものだとしても絵空事の域を出られていない
との自覚が有り、ロザリンドたちの実験データなど無しでは
裏付けのない『新規知見』の提唱論文となってしまうことなど
重々承知で、裏付けとなるロザリンドのデータはどうしても
必要となっていたのである。
一方、ロザリンドは賢振寺クリックの研究が突然にグイグイと
キングスカレッジ倫敦の研究域に迫って来ていると感じた。

                                    ◇

 クリックが帰った後、ロザリンドはこれまでに自身が取得して
いた画像データ値を見直してみて驚いた。クリックの螺旋予想値
と自身の獲得したデータ値がほぼ近似してくるのだ。

『これは・・。私も論文書かねば・・・』
そう思うようになったロザリンドは、翌日にはニューマーケットと
倫敦間を往復して必要と思われる資料をニューマーケットのホテル
に持ち込み、遂に、論文執筆の準備を始めるのであった。



★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★★ ★ ★ ★ ★★ ★ ★ ★ ★★ ★ ★ ★ ★★
サービス数40万件のスキルマーケット、あなたにぴったりのサービスを探す