小説『DNA51影たちの黒十字』(続ロザリンド物語) 〜14〜

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小説『DNA51影たちの黒十字』(続ロザリンド・フランクリン物語) 〜14〜
Rosalind Franklin Photo51


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 12月中旬になっても依然スモッグまみれ状
態の続く倫敦でロザリンドは自身の論文草稿
をまとめ上げていた。
 年が明けて、クリックから賢振寺大学側で
作成の論文草稿が倫敦大学側に送られて来る
と、ロザリンドの同僚研究者であるモーリス
・ウィルキンスは

「ぬぅっ、賢振寺でも螺旋体を提唱してきお
 ったか。螺旋体の予想と言えばワシら倫敦
 大学の十八番の研究領域やぁ・。ここは、
 ワシも論文一本書くでぇ」

とロザリンド作成の回折画像を使っての論文
を一本まとめ上げた。合計としては、なんと
3本もの論文が用意されることとなっていく。
ウィルキンスにすればロザリンドが論文発表
に積極的態度を見せてきたので、まずは思惑
どおりとなってきていると満足げであった。
しかも、ロザリンド作成のB構造結晶の回折
画像を使ってウィルキンスが論文を書くこと
をロザリンドが許したのである。
 倫敦大学側の論文草稿2本も賢振寺大学の
クリック方に送られて、相互の意見交換がな
されると、最終の調整段階へと事は進んでい
くのだった。
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 ロザリンドは論文執筆を進めていく中、ス
ミス・サミュエ商会のポール・スミスの提案
を思い出していた。まだ、ロザリンドはポー
ルの提案を保留としてはいたが、クリックの
生物分子の見地からの研究が今後さらに発展
していく状況ならば研究成果の『企業秘密』
も重要視されていく方向に向かうであろうと
想像した。

 ロザリンドは大学の研究所に所属する身で
あるので、論文発表の自由度は高いが、企業
の研究所に所属するお抱え科学者では企業秘
密に抵触するような部分での論文発表は御法
度であろう。製品分析から製造方法が他者に
容易に知れてしまうような場合においては特
許申請からの論文発表となる。
 さらに、軍事機密に関するような研究では
科学者である筈の研究者は論文発表すらしな
いことになる。
 かつて、日米でこんな事があった・・。
八木・宇田アンテナの発明者である八木秀次
博士たちは大学人として東北帝国大学を中心
に研究者活動をしており、八木アンテナの発
明は公開される経過を辿ったのだが、もし仮
に、発明した科学者が軍事関係での研究中に
高性能の “八木アンテナ” 同種モノ を発明
していたら、軍事機密として論文発表などは
してはいない・・・・。はからずも発表され
た八木アンテナは米国科学者の目に止まり、
広島原子爆弾の爆発位置(地上からの距離)を
測定するための高度確定装置としてその八木
アンテナが使われてしまう結果となった。

 ロザリンドは論文を執筆中に現在の研究支
援金提供者の顔も思い出していた。その時点
でロザリンドの研究支援者の中にはT&N社
(ターナー&ニューオール)がいた。T&N社と
言えば  “石綿(アスベスト)“   の生産大手
企業である。英国国内に留まらず、アスベス
トを国際的に拡販したのがT&N社であった。
アスベストは断熱材、防火材として評価が高
く、広く世間で利用される人気商品であった。
 当時の一般認識では、アスベストは安全な
物質だとの認識であった為、T&N社が未来に
おいてアスベスト健康災害を引き起こした張
本人として破綻する道に向かってしまうとは
誰も思ってはいなかったことだろう。もちろ
ん、ロザリンドもT&N社が危険物質アスベ
ストを扱う企業になってしまうことなどは当
時思ってもいなかった。今回の論文発表予定
の内容でT&N社に不利益が生じるようなこと
は無いとロザリンドは判断した。

 最終形としてのロザリンドの論文は画像51
番(Photo51)を使用してB型核酸の発見を主
体に発表する内容となっていく。それは英国
医学研究機構には既に報告済みのB型核酸で
ある。しかし、医学研究機構への報告書は未
公開書簡であったため、今回の論文発表をも
ってB型核酸とPhoto51の存在が初公開とな
る訳だ。また、クリックやウィルキンスと共
に “螺旋構造”   にも言及していくこととな
った。
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