朗読動画:勇者の戯言【ファンタジー小説11話まとめ】

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 youtubeにて「語り部朗読BAR」というチャンネルを運営しております。
 自身で小説を書き、声優さんに朗読していただいたものに動画編集をして公開しております。
 たまに作者自身の北条むつき朗読もございます。
 今回ご紹介の朗読動画は、ファンタジー小説11話まとめたお話です。
 良かったら聴いていただけると嬉しいです。

・朗読動画もご用意しております。
・文字をお読みになりたい方は、動画の下に小説(文字)がございます。
◉勇者の戯言
作 者:北条むつき
朗 読:マツブー

◆第一話 誕生

「俺は勇者だ!」
「俺は勇者だ!」
「俺は勇者だ!」
「俺は勇者だ!」
「俺は!」
「俺は!」
「俺は勇者……」

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 ある時から、魔王という存在が人々を恐怖に陥れていた。
 剣を振り乱し、魔法を使い、モンスターを使い、人々の生活を邪魔し、街を破壊していく。
そういう中世の世界。

 そんな日々の中で、ある街に男の子が生まれた。
 男の子の尻には、☆印がついており、それが赤く染まっていた。
 村の村長に見せる。

「これは勇者の紋章!」

 代々引き継がれた古本により判明したその☆印。

 伝説の勇者の子をアンソニーと命名した。突然変異によって生まれた勇者の子供を大事に育てていった。すくすくと育っていくアンソニー。

 アンソニー14歳の春。アンソニーは、村人達を集めて、英雄団と呼ばれる組織を作った。

 街の兵達《つわものたち》が集う集団。剣術や、武術、格闘技や、魔法やモンスター使い。各々が役割を持ち、打倒魔王に向けて、訓練が始まった。

 日々、打倒魔王として、厳しい鍛錬。
最初は、街近くのモンスターが出現するエリアでの戦闘のみであったが、
モンスターを倒していく毎に噂は広まって行った。
 世界中の猛者たちが、情報を聞きつけて、集まりをみせた。
先生が良ければ、訓練や鍛錬も日々進化していく。
そして、たった3名で始まった英雄団はどんどん膨れ上がった。

 徐々に、地域ごとのモンスター達を、殲滅できるまでに強くなる。人数も30名へと膨れ上がる英雄団。だが、厳しい鍛錬で抜けていくものも多い。そしてモンスター退治で死す者も多かった。アンソニーが18歳を迎える頃には、たったの7名になっていた。

 アンソニーは仲間に言った。

「世界中を探索し、もっと強くなりたい。いずれ魔王を退治する!」
 仲間もそれに賛同し、みんなアンソニーに向け、杯《さかずき》を交わした。

「お前が、勇者の隊長になるんだ!」

 そして旅立ちの日。村長がアンソニーたち7名のパーティに、ある先代勇者が残していった刀鍛冶の話をした。

「まだ生きていれば、お前達の刀も最強にしてくれるよう。めげずに世界を救ってくれ!」

 旅立って10日が過ぎた。
 街の近くのダンジョンでは無く、さらに奥地の初めて踏み入れるダンジョンにいた。
 ある程度、これまでは帰ってこれる距離で鍛錬していた。だが、旅立ちから10日も過ぎれば、帰る村や街もない。回復魔法のMPだより。薬草も底をつきかけていた。

 そんな中でのダンジョン行動。アンソニーのパーティである、魔法使いや、モンスター使いは、ダンジョン攻略は、「薬草をためてからだ」と言っていたが、アンソニーはそれを無視して、強行突破を図った。
 なんとか抜ける事が出来たアンソニー達だったが、モンスター達の攻撃は予想以上で、ダンジョンで2名の死者を出してしまった。

 まだ、死者を蘇らせる魔法を身につけていなかったアンソニーは、身勝手な思いでパーティ2名を失った事に戦意喪失した。

 泣き暮れる日の夜……。
 アンソニーは、仲間を受け入れずに一人、外れの宿に泊まった。それを聞きつけた一人の同じパーティの女性魔法使いクララッカス。夜な夜なアンソニーの部屋に入る。

「アンソニー? 起きてる?」

 部屋に入ると灯りも灯らない暗がりの部屋の中、アンソニーがブツクサと独り言をつぶやいていた。

「俺は、勇者……」
「俺が、勇者……」
「俺だから、勇者……」

「アンソニー? 大丈夫?」

「だっ? 誰だ!」
「誰って、クララッカスよ?」
「あぁ、君か……」

 一瞬強張った顔つきのアンソニーを見てクララッカスは不思議に思った。
だが、クララッカスは、慰めの言葉と、暗がりの部屋を利用して、身につけていた羽衣も脱いだ。暖かい曲線美が月光にあたり、アンソニーを温めた。

◆第二話 クララッカス

「パーティのみんなには内緒……」

 クララッカスは、そう言うと子守唄を歌い、アンソニーを眠りに就かせた。
 独り言を発していたアンソニーはどこへ行ったのやら。アンソニーは、そのクララッカスの癒し方が良かったのかすぐに眠った。

 朝、次の戦地へ向けて旅立った。朝、クララっカスと顔を合わせる。するとクララっカスは軽くウインクをした。その仕草で気持ちが入りそうになったアンソニーだった。仲を深めようと、戦闘空域でも、クララっカスを自分の後ろ側に守らせる。

 その突然の、戦法方法変更に、同じパーティのモンスター使い、ハイジャンが口火を切った。

「なんで、今まで私があなたの後ろだったのに、クララッカスなの?」

「どうと言う意味はない! ただ、新しい戦法も必要だろ?」

 端的に答えるアンソニーに不服を申し立てたハイジャン。納得が行かずにクララッカスとは、口も効かなくなった。そんな仲間割れで、ピンチに陥ることもあった。先日、森林を抜けた新しいダンジョンでの出来事だ。

 ドウクーツに潜むモンスターが強く、レベルを上げなければ、先に進めないと判断がついた。ドウクーツ一匹目のモンスターでいきなり、パーティ全員のHPが半分になると言う窮地に陥った。

 一旦、森林に引き返す。各自それぞれHP回復と、その後レベル上げに力を注いだ。
 そしてレベルも4ほど上げたある夜、各自宿に泊まっていた。その夜も月明かりが照る午前0時を回った頃……。
 一人の女性がアンソニーの部屋をノックする。その女性こそ、クララッカスだった。その夜、行為は、明け方近くまで続けられた。

 また、「みんなには内緒ね?」と言って部屋を出て行くクララッカス。

 そんな戦いで、窮地に陥るとレベルを上げて宿に泊まる。
 泊まると、またクララッカスとの行為は、3ヶ月も続けられた。そんなある日の朝。ダンジョンに向かうために、森林前での集合場所でのことだった。

 次の戦地、森林前に足を進めるアンソニー。他のパーティメンバーをそこで待った。だが、現れたのは、昨夜相手をしたクララッカス以外のメンバーだけだった。幾ら待とうが、クララッカスは現れず、メンバーも呆れ顔だった。ただクララッカスが一人姿を消しただけの事件だった。

 その中でも、女性モンスター使い、ハイジャンだけはアンソニーに睨みを効かせていた。

◆第三話 ハイジャン

 一人、睨みを効かせていたハイジャン。パーティの中で女性は一人になってしまった。だが、定位置に戻れた嬉しさでハイジャンは、パーティ内でも、頭角をあらわしていった。

 勇者であるアンソニーが惚れるぐらいのレベルアップだった。一人で強敵ゴーレムをハイジャンの手持ちモンスター、ドラキュラッチを操り倒す。
 そんな強さから、勇者の次に強いのではと、パーティ内で権限を持つようになる。

「俺は、勇者だ」
「俺が、勇者だ」
「俺だから、勇者だ」

 アンソニーは、またクララッカスが、いなくなった夜から、独り言を発するようになった。

「俺は、勇者だ」
「俺が、勇者だ」
「俺だから、勇者だ」

 そんな宿に泊まっていたある夜……。
 ハイジャンがノックをして部屋に現れた。ベッド脇で夜空を見ているアンソニーの隣りに座り口を開く。

「この旅は、いつ終りを告げるの?」
「どうしたの? ハイジャン……」
「あなた、自分を追い込んでない?」
「俺が?」
「自分が勇者だからって、余りにも頑張り過ぎないで……」
「ありがとう……」
「いいのよ。ねえ……。魔王を倒したら、どうしたい?」
「唐突にどうしたハイジャン」
「あなたが進む未来の人生に興味があって……」
「そうか。俺は、世の中をもう一度、再生したいな」
 アンソニーは月夜の空を眺めなら言葉に力を込めた。
「あなた自身が?」
 優しい目つきでハイジャンはアンソニーを見る。
「ああ、世界を正したい」アンソニーは真剣な眼差しで応える。
「それが、あなたの野望ね?」ハイジャンは嬉しそうに返答した。

「野望という程、たいしたものでない。ただ、今、世の中は支配されている」
「それをあなたが、解放したいと……」
「そうだな!」
 空を見上げ声を張るアンソニー。
「ねえ? 魔王を倒したらさ? 私たち結婚しない?」
 上目遣いで、アンソニーを見ていうハイジャンがいた。
「えっ? プロポーズは、男からするもんじゃ……。普通逆だろう?……」
「私のこと嫌い?」
「嫌いじゃないけど……」
「だったら、いいじゃない? 私、あなたの子供が欲しいの!」
 寄り掛かるようにハイジャンはアンソニーの手をとった。
「おっおい! 急に……」
 ハイジャンを怪訝に見つめるアンソニーがいる。
「いいじゃない……。今は二人きり……」
 それでもハイジャンは食い下がらない。

 ハイジャンは、以前のクララッカスより強引に勇者との行為を求めた。それに対して、断れない意志の弱い勇者アンソニーが顔を出す。
 否、ただ欲求不満解消のためなのか、アンソニーもそれに応えた。

 戦いに出る。
 生き残る。
 宿に泊まる。
 夜になると、ハイジャンとの行為……。

 それは、もう日常化していった。
 3ヶ月も経とうという頃。

 ハイジャンからの突然のプロポーズ。
 アンソニーは、それに応えた。ある街で、勇者御一行の盛大な結婚パーティが開かれた。

 街中、祝福ムードだ。ハイジャンのお腹の中には、アンソニーの子の命がやどっていた。

 ハイジャンは、戦闘に出ることより、街の病院に入院する。パーティは、一人減って3名になった。だが、アンソニーは打倒魔王を目指し、戦地に赴く。新たな戦地で、新しいパーティ仲間を探すことにした。

◆第四話 ペーター

 ハイジャンが抜けてから、ある戦地で、ペーターという大男を仲間に引き入れた。ペーターは格闘家だった。

 パーティ全体のレベルが28という中、23までのレベルがあったペーター。だからアンソニーも安心して仲間に引き入れたのだった。だが、このペーターは、少しやんちゃだった。

 戦いが終わり、新しい街で休息していたある夜。酒場で事件が起きていた。ペーターが酒場の酒場ガールたちを襲っているという情報がアンソニーの耳に入った。駆けつけてみると、酒場ガールを自分の女にしようと、必死にチョッカイをかけていた。

 見れば、警察隊までも出動する始末。勇者一行ということで、逮捕までには至らなかったが、素行が荒すぎるからと注意を受けていた。

 一度ならずも二度、三度……。それは戦いが終わる毎に行く街々でペーターは、酒場ガールに手を出していった。そんな素行の悪さを正すために、アンソニーは、ある夜も飲んでいたペーターを呼び出した。

「なんだ? アンソニー。俺は今、心地よく飲んでんだ!」
「ペーター。お前のその女好きはどうにかならないか? 悪さだけはやめてくれ!」
「はぁーい?」
 ペーターは、意気揚々と飲んでいるところを邪魔されたからなのか、不機嫌ヅラをしてアンソニーに言い返す。
「だから、勇者一行というだけで、お咎め《おとがめ》を食らわずにすんでるんだよ」
それでもアンソニーはペーターを宥めようとするが、言葉の行き違いか、反論を喰らう。
「オメーの方こそ女好きの外道じゃねーのか?」
「なんだとぉ!?」
 言われた言葉に歯向かいそうになるアンソニー。ペーターはその顔を見てか、言葉を荒々しく続けた。

「おらぁ、知ってるぜぇー! 前にこのパーティにいた女のことをよぉ!」
「何!?」
 そう言われて、タジタジになるアンソニーがいた。
「クララッカスとハイジャンだっけなぁ? モテ男さん?」
 ペーターはアンソニーをこき下ろそうと嫌味な言い方をしてアンソニーを睨みつけた。
「それが、どうした!」
 アンソニーは反論すべく、端的に言葉尻をとる。それも承知の上か、ペーターは、徐々にアンソニーの内面に追い込みをかけるように続けた。
「どっちの女も、お前が寝取ったんだってな? えぇ!?」
「なんだとぉ!? そんなことはしていない」
 と反論するアンソニー。
「じゃあ、俺と何が違うっての? 俺の方がまだマシ。オラァ、同じ仕事仲間であるパーティ仲間には、手は出さねぇ!」
「なっなんだとお!」
「オラァそこまで、外道じゃねぇ!」笑いながら応えるペーターがいた。
「……」それに反論できず押し黙るアンソニーだった。
「ただ、戦闘に行って、休息の場でおねえチャンたちと、少し戯れたいわけ……。わかるだろ?」
笑いながらけしかけるペーターがいる。
「……」
 アンソニーは反論せずにおしだまったままだ。
「少しの癒しの時間なんだよ……。取って食おうってんじゃねーんだ! 黙ってろ!」



 俺は、勇者だ!
 俺は、勇者だ!
 俺が、勇者だ!
 俺だから、勇者だ!

 アンソニーは心の中で、ずっと言葉を叫んだ!

◆第五話 外道

俺は! 勇者だ!
俺は! 勇者だ!
俺は! 俺は! 俺は!
俺は!勇者だー!

 呪文を唱えるようにアンソニーは言葉を小さく漏らす。それに対して、ペーターはあざ笑うように嫌味な態度で続けていう。

「外道が! 俺にも、夜を楽しむ権利はあるんだよ。ハハハハハッ!邪魔すんなよ?」

 その言葉を聞いた時だ。
 アンソニーの中で何かが吹っ切れた。そして何かが吹っ飛んだ。頭の中の線と、格闘家ペーター自身の体が吹っ飛んでいた。

 そして……。

「俺は、勇者だー! 逆らうんじゃねー!」

 勇者とは思えぬ目つきと汚いセリフをアンソニーは吐き捨てていた。

 酒場から近くの夜の森林付近……。
 一瞬で戦いはついた。背中に背負っていた剣が、仲間のペーターに向けられただけの話だった。岩場に真っ二つになり転がるペーターの姿。もちろんペーターは身動きすらせずに真っ二つに割れていた。大量の赤い血飛沫が岩場に散っていた。

「無念だよ……」

 アンソニーは小さく悲しげに呟く。端的な言い回しのあと、魔法でペーターの体を焼き尽くした……。その行為は、勇者の優しさなどカケラも見当たらなかった。

 朝を迎えた。パーティメンバーの中にペーターの姿はもちろんなかった。他の仲間が不審に思い、アンソニーに尋ねる。

「素行が悪かったから、パーティを抜けてもらった」
 アンソニーは先ほどの悲しげな言葉とは別に、晴々と言い切っていた。
「そう、そうなのか?」
 そのアンソニーの言葉に疑問を持つパーティメンバーもいた。だが次の言葉で、メンバーは納得せざるを得なかった。
「あぁ、実家に帰るだってさ」

 アンソニーに、罪悪感の欠片は微塵もなかった。

◆第六話 刀鍛冶

 アンソニーは、レベル35を超えた。パーティメンバー2名も32を迎えていた。ゴールドゴーレムが出現する、魔王の城付近のダンジョンでのことだ。

 ダンジョン最後のラスボス。ゴールドゴーレムが出現した。しかし今のレベル35でも剣を真っ二つに折られてしまった。

 魔法で何とか対応をしようとした。だが、格闘家が抜けた戦力に乏しいパーティは、敢え無く撤退をするほか無かった。撤退後、ダンジョン前の街、クルージャに戻った勇者一行……。

 クルージャで、刀鍛冶の話を聞いた。刀鍛冶は、以前の魔王が出現した際、現れた勇者の剣を研ぎ澄ませたという噂の刀鍛冶。その刀鍛冶が、まだ生きていて、次の勇者を待っているといううわさを聞きつけた。

「会ったほうが良いぞ? 君たち勇者なんだろ?」
 アンソニーたちは刀鍛冶の居場所を聞き、向かった。クルージャの街はずれ。小さな藁葺き屋根の小屋がある。

「すみませーん!」

 声をかけるが、返答はなし。また明日にでもと思い、引き返そうとした時だった。

「きゃあー!」

 藁葺き屋根の裏側から女性の悲鳴が聞こえた。慌てて駆けつけてみると、10名ほどの山賊に、囲まれるひとりの女性がいた。

「なんだ? お前ら? 戦闘員みたいな格好しやがって!」

 山賊が、アンソニーたちの姿を見て、声を張り上げた。
◆第七話 魔剣

 女性がひとり山賊に襲われていた。その状況、刀も折れた状態で、もう魔法でどうにかするしか無かった。

 一瞬の出来事。アンソニーが呪文を唱え叫んだ。

「イカヅチ!!」

 魔法で、山賊たちを一瞬で一掃する勇者のパーティー。
 山賊たちは、敢え無く退散していった。

「助けてくれてありがとう。あなたたちは、ここの主人に御用?」
「ああ、俺たちは、打倒魔王に燃えているパーティだ。剣を折られてしまってね」
アンソニーたちが応えると女性は大きく目を開いて応えた。
「もっもしかして、あなたたち……。あなたたちの中に☆印の紋章がある人っている?」
 それは勇者の紋章……。もちろんアンソニーにその印はある。
「あぁ、俺だが……」

 アンソニーはすぐに答えた。その女性はすぐさま、小屋近くの岩場に案内する。岩場には、一本の剣が突き刺さっていた。

「これは、魔剣。これを抜けるのならば、魔王との戦いに挑むことを許されるわ」
女性は何かを知っているふうにパーティメンバーに問う。
「……」
 アンソニーは黙ったままだった。だが、女性は続けた。
「抜いてみて。この魔剣は、魔王が現れるたびに出現する不思議な剣なの。別名勇者の剣!」
「……魔剣じゃないのか?」
「いえ、これを持ち、魔王に戦いを挑んだものは、必ず勝利できるという代物よ!」
 全てを知っているふうに応える女性はなぜか笑顔だった。

「なるほど……」
 アンソニーは、不思議に思いながらも、岩場に突き刺さっている魔剣を、力一杯抜こうと精一杯力を込めて引き抜こうとする。
「ウヌヌヌググヌヌグヌヌグ!!!」
 だが、中々抜けない。
「あんたじゃなかったか……」
と、女性がアンソニーを勇者じゃないと思った時だった。

 岩場に刺さる剣から光が放たれ、ゆっくりだが引き抜かれる魔剣。
「ウヌヌヌグググヌヌヌグヌ!」
アンソニーの渾身の力を込めて叫ぶ。

 魔剣を全てを引き抜いた時、魔剣とそう呼ばれる訳がわかった。
 黒く怪しい光が剣を占めた。それが剣を持つ腕から、体全身に光放ち、アンソニーの全身を覆った。

「うわああ!」
「大丈夫か!? アンソニー!」

 叫ぶアンソニーにパーティメンバーが心配して声をかける。

 怯えて、立つことができなかった。
だが、再度挑戦しないと、先に進むことができないとアンソニーは、自分自身にハッパをかけた。

◆第八話 魔王城

 叫んだ! 力が抜けた。魔剣の重みが、全身に力を抜けさせた。抜いた剣だったが、振り下ろせなかった。アンソニーの鎧が黒光りしたかに思えた。だが、すくに元に戻る。

「だっ大丈夫だ……」

 一体さっきの衝撃は、なんだったんだ?
 痛みが全身に走り、力が抜けた。そして光り輝いた時、自分の中の何かが吹っ切れた。吹っ切れたというより、何かこれまで抑えていた感情が欠落したような気分だ。

「許せないのは、魔王だ! こんな世の中にしたのは、魔王がいるからだ! 俺は勇者!」
 そう言った強い観念のような思いが余計に満ち溢れていった。山間に見えるのは、城だった。……魔王城。そう、だから無性にそこへ行きたくなった。

「行くぞ。魔王城へ!」

 さっきまで魔剣の恐ろしさに震えていたアンソニーの姿と違う姿に、メンバーは不安に思った。だが、刀鍛冶の小屋にいた女性だけは違っていた。

「真の勇者の誕生ってわけね! 今すぐにでも、あの城に向かいたいでしょう?」
「なぜそれがわかるんだ?」
 アンソニーの言葉に女性は不気味な笑みを浮かべ言った。
「うううん、何となくよ。うふふふ! 気をつけて! 魔王はかなり強いらしいから!」
「ああ、そうだろう! 世界を牛耳っているんだからな。行ってくる!」

 意気揚々とアンソニーは、魔王城を目指した。だがまずはその手前のダンジョンをクリアに着手した。

 パーティメンバーの心配をよそに、アンソニーは魔王城に急ぐ形を取った。クルージャの街を抜けて、すぐさま敗れたゴーレムダンジョンに入る。
ラスボスまで、たどり着くと、またゴールドゴーレムが出現した。
しかし、魔剣と呼ばれるものを2、3回振ると氷、時には炎、時には空圧の風が吹き荒れ、敵を蹴散らす。その戦法でゴールドゴーレムも、一瞬のうちに倒してしまった。

 残るは、一つのダンジョンを抜けると、目の前は、コウモリたちが飛び立つ、魔王城。魔王城にあがる階段を勇者パーティの3名でゆっくりと上がる。

「ようやく、来たか! 勇者よ!」

 魔王城から、聞こえる大きな魔王と思われる声がした。

「ワシのところまで辿り着けるかな?」

 その言葉を聞くと、無性に叫びたくなったアンソニーだった。

「俺は、お前を倒しにココに来た! すぐにでも倒す! 待ってろ!」

◆第九話 決着

 俺が、勇者だ!
 俺が、勇者だ!
 俺が、勇者だ!

 アンソニーは、心の中で何度も言葉を連呼していた。

 だが、その心の動きも、心で叫んだ言葉も、思いも全部魔王には筒抜けなだった。

「今、『俺が、勇者だ!』と叫んでおろう!?」魔王はアンソニーに言い返す。
「なぜ、それを!!」
 驚くそぶりをみせたアンソニーに魔王は続けた。
「フフフフッ……。単純なこと……。だが、邪魔者がまだいる! さっさと吹き飛べ!」

 魔王は、パーティメンバーのアンソニー以外を、腕の一と振りで一瞬にして2名を吹き飛ばした。

「お前ら大丈夫かぁ!?」
 戦闘力の違いに驚きながら、パーティメンバーを庇うアンソニーがいた。
「……」
 だが、そのアンソニーの声に返事はなかった。
「もう、声など聞こえん! 死者を蘇らせる魔法で、蘇らせるか? だが、すぐにでもワシは、ドローンと言って、そいつらを殺すがな。どうする?」

 くそっ、俺の行動も、お見通しか。どうする?俺、アンソニーよ!

 アンソニーは躊躇した。だが、魔剣の威力を信じた。魔王城に入って、魔王と戦うまで、優にレベルは20上がったはずだった。現在のレベル59だ。だから、パーティメンバーなど居なくとも、魔王ひとりどうということはない……。
 アンソニーは自分の力を信じ魔王に向けて魔法陣を地面に描く。

「ブリザード!」
「フレイヤー!」
「フォーチューン!」

魔剣から、3種類の攻撃を繰り出し、魔王を切りつけた。

「ウヌヌヌヌヌヌ! やりおる。だが……」
 魔王も必死に打ち返す。しかし、勇者の一太刀には到底及ばない。

「最後の一太刀だ! 喰らえ!」

 アンソニーが言葉を発した時、魔王は自分の保身のためか、奇妙な言葉を吐いた。

「まっ待て……。ワシは勇者だ! ワシは、勇者!」
慌てるように手を差し出し、アンソニーの攻撃を静止する。
「何を訳のわからんことを! 喰らえ!」

 勇者アンソニーは、最後の渾身の一太刀を魔王に浴びせた。魔王は、奇妙な言葉を連呼して息絶えていった。

「ワシが、勇者だ!」
「ワシは、勇者だ!」
「ワシが、勇者だ!」
「ワシは、勇者だ!」
「ワシこそ!」
「ワシこそ……ゆ・う・しゃ……」

 アンソニーはやっと、魔王を倒すことに成功した。見事世界の平和を取り戻すことができた。……と思った。

 だが、ある日……。世界は変わった。そう……。

 勇者アンソニーが、見事魔王に勝った日から世界はまたひとつ変貌した。魔王は倒れたはずだ。だが世界中のモンスター達は消えなかった。魔王を倒した事で、消えるはずのモンスターが消えない。モンスターたちが、村や街を襲う事件が多発していた。金品を盗んだり、人々の命を狙ったり……。そんな光景が、以前にも増して世界中で繰り広げられていた。

もうとっくに魔王は滅んだはずなのに……。

◆第十話 俺が勇者だ

 魔王を倒したアンソニー。

 だが、モンスターたちは世界中から消えなかった。安息の地を求めて、ハイジャンの元へ帰るはずのアンソニーは、未だに原因を探るべく魔王城に居た。

 魔王城から、世界の行く末を見ていた。勇者として、モンスター退治に出るものいいだろう……。と思ったアンソニーだったが、アンソニーの独り言は、魔王討伐により、更に極みを増していた。

「俺は、勇者だ!」
「俺が、勇者だ!」
「俺が、世界中を救ったんだ! だから俺が偉い!」
「俺が、俺が、俺が、世界に示してやる!」
「俺が勇者だということを!」

 魔王を倒したと、情報が世界中に流れたにもかかわらず、世の中のモンスターたちが消えないのは、不思議だとまたモンスターを倒すための組織が世界各地で増えていった。

 各地に現れる「俺こそが勇者だ!」という人物たち。今度は、アンソニーたち以外に大勢の勇者が出現した。世界の平和を守るために、世界各地に「俺は勇者だ!」と言う人たちが集結した。そして、モンスターたちが、次々と倒されていく。

 人々は各地に点在する勇者を崇めた。そんな人々が崇めた事によって、
本当の勇者であるはずのアンソニーが怒りを露わにした。

「俺は力も名誉もある偉大な勇者だ! 何故もっと俺様を崇めない」と……。

「真の勇者は俺だ! 世界に点在する勇者など、俺が滅ぼしてやる!」
 勘違いをした勇者アンソニーがいた。それはあたかも魔剣を握りしめた時に味わった何かを失った時と同じ感覚。優しさ溢れた以前のアンソニーの感情など無くなっていた。
 そして、世界に点在する勇者の元へ行き、首を狩る日々が続けられた。

 人々は、その勇者だったアンソニーの事を恐れた。

「奴は、本当に勇者なのか!? 村長! このまま放っておいていいのか?」
「うむ。しかし、わしらが手を出せる相手ではない……」

 世界各地で、暴動が起きた。

「勇者アンソニーを殺せ!」と……。

◆第十一話 勇者の戯言

 そして、人々は勇者に反旗を翻し、剣を取った。だが、流石は勇者。一般市民の剣など、受け付けない。流石は魔王を倒した事のある勇者だった。
続々と増え続ける「勇者を狩れ!」と言う世界の言葉に勇者だったアンソニーは本気を出した。

 ある朝。ある村。村人が起きると、街に買い出しに出た。そこへ突然、突風が吹き荒れた。一瞬で姿を見せた勇者アンソニー。その街の建物ごと、村人達を一太刀の剣で一掃した。

 そして、勇者アンソニーは言った。

「お前らが悪い……。俺は勇者だぞ!」と……。

 世界中の人々は、ほとんど亡くなって、生き残った人々は地下に潜った。勇者アンソニーは勇者としてではなく、支配者として君臨した。

 それはもう、勇者と呼べる存在ではなかった。新たな魔王だと地下に潜る人々が語っていた。次の勇者が現れるまで、元勇者……。否、新しい魔王は君臨する事になった。

 それから10数年の時が流れた。勇者アンソニーの城、元魔王の城に、新しい勇者が現れた。

「俺は、勇者ソドム! お前が、魔王か! お前を成敗してやる!」
「ちがう! 俺が勇者だソドム! 俺の名は、ラシーン!」

 二人の戦士が同時にアンソニーがいる魔王城に姿を見せ言い合いをしていた。

 いずれも、元勇者アンソニーの好きだったクララッカスとハイジャンの息子たちだった。それを知ってか知らずしてか、元勇者アンソニーは、その新たに現れた勇者2人に質問をする。

「お前たち、魔剣を持っているのか?」

 新しい、勇者は2人とも頷いた。そして2人で一気に攻撃を始めた。

「因果なものだな……」

 魔王だと思っていたものが、本当は、勇者で。勇者だったものが、魔王になる。これが、今の世の中の常か?

 世界を取れば、こいつらもいずれ、魔王として君臨するのか?
悲しい歴史だな……。強さを持ったものの証なのか、それとも、偶然の賜物なのか……。

 否、自身の弱さが作り出したものなんだろうな……。

 だが、こいつらをそのまま勝たせるわけにはいかん!
 俺が、勇者だ!
 俺が、勇者だ!
 俺が!

「俺が、勇者だ!」
 魔王に成り下がったアンソニーが叫んだ!

 すると、ラシーンとソドムが高笑いをする。

「お前みたいな奴が、勇者な訳ないだろう! 母さんが惚れる訳ないだろう! 馬鹿野郎が!」

 母さん……だと……?
 あぁ、懐かしい……。クララッカス……。そして、ハイジャン……。元気にしてるかな?

「散っていけ! 魔王よ!」

 新勇者ラシーンとソドムたちの渾身の一撃が放たれた!

「俺が、勇者だ!」
「俺は、勇者だ!」
「俺が、勇者だ!」
「俺は、勇者だ!」
「俺が、勇者だ!」
「俺は、勇者だ!」
「俺だから、勇者だ!」

 魔王になった勇者は、ずっとその言葉を吐き続けて倒れていった。
 魔王討伐後、魔王の城を後にしたラシーンとソドム。各自母親の待つ街へ戻っていった。

 だが……。その数日後……。黒い光に包まれた街は、一瞬にして消え去る。

 世界の2箇所で大きなテロ事件が起きたのだった。こうして、歴史は繰り返される。一向に、中世時代を抜けきれないのは、こういった世界の不思議があるからだ。そして、その後10年先にもまた同じ声が城で鳴り響く……。

「俺が、勇者だ!」
「俺は、勇者だ!」
「俺が、勇者だ!」
「俺は、勇者だ!」
「俺が、勇者だ!」
「俺は、勇者だ!」
「俺だから、勇者だ!」

「否、俺たちだから……。勇者だ!!」
「俺たちだから……。俺たちだから……。俺たちだから……」

「勇者だ! 勇者だ。勇者だ。勇者なんだから、何をやってもいいんだろう?」

 そう言った勇者の戯言は、代々引き継がれている。魔王を倒した人物たちの言葉は皆同じだ。

 否、ただの戯言。
 勇者と呼べる人間など、この世に存在などしない。この世にあるのは、正義も悪もどちら側にでもなれる人間だけなのだから……。正はいつでも悪になる。それが、世の常なのだ。


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