出世とキャリア自律の関係を考える ~上昇志向を資源にするには~

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突然ですが、みなさんは出世に興味はありますか?「出世」。辞書を引いてみると、「世の中に出て立派な地位・身分となること。(広辞苑)」とあります。もし企業にお勤めの方であれば、「早く課長になりたい!」とか「いつかは役員になりたい!」とか、そんな言葉が出てくるでしょうか

 先日、「出世したいです。どうすれば出世できますか?」といった内容のご相談を受けました。中々ストレートではありますが、勇気を出して自ら言葉として表に出すことは、キャリア自律の点からも素晴らしいことです。誰かに言うことで、自分の中の何かが動き出すのですから。

 出世を望む背景は、人それぞれだと思います。会社での競争に勝ちたい、収入を増やしたい、自分を価値ある人間として認めてほしい、仕事をするために権限を持ちたい、部下を持って仕事を成し遂げたい、転職のために箔をつけておきたい、等々、何らかの目的を達成するために出世という手段に目を向けているはずです。(ひょっとすると、何だか分からないけど出世そのものが目的になっている方も少なくない?かも…)

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 キャリアの捉え方で、「外的キャリア」と「内的キャリア」があります。外的キャリアは、外側から見て分かるもので、肩書や、職種、技能、実績、年収など客観的に把握できます。または、誰かから与えられたりします。内的キャリアは、その人の内側にある価値観で、自分の仕事人生と役割についての主観的感覚です。仕事のやりがい、矜持、他者との関係性に対する満足感、どう生きるか、など一見分かりづらいものです。

 「出世」はまさに辞書的な意味で外的キャリアですよね。組織内でのキャリア発達について、E.H.シャインは職位の上昇下降(垂直)、職能や技術の次元の移動(外周)、組織内での中心性(放射)の3つの移動軸で、組織の3次元モデルをあらわし外的キャリアを可視化しましたが、まさに出世はその3次元のどこに自分はいるのか、階層の境界を越えてどこにいきたいのか、という話になります。

 出世を望むことは上昇志向でもあり、自分のエネルギー・資源を自己の上昇のために投入します。このこと自体は良いも悪いもありませんし、自ら(外的)キャリアの発達を促しているという点でキャリア自律の方向に向かっていると言えるでしょう。そのように意図を持って動こうとしている人から、「どうすれば出世できますか?」と問われた時に、問われた側はどのように支援的に応じることができるでしょうか。


 外的キャリアに目が向いている方の場合、例えば「課長という肩書を獲得した自分」のイメージを持っていると思います。「〇〇課長」という具合に、自分のことを外側から見たイメージではないでしょうか。

 ここで、その人には、ぜひ内的キャリアにも「同時に」目を向けてほしいのです。そのために、“「〇〇課長」になりたい〇〇さんは、「これまで、何をどのような思いで成し遂げようとしてきた」〇〇さんですか?”と訊ねます。

 その人が出世したい思いの底には、仕事に対する思いや情熱、価値観が必ずあるはずです。単に仕事の外形を評価されるのではなく、その人の自分の内側にあるものを他者に理解してもらう、認めてもらうということが大事ではないでしょうか。

 最近、とあるリーダーを決める選挙で見事当選となった方が「天網恢恢、疎にして漏らさず。お天道様は見て御座った。」とおっしゃっていました。その方は、常にご自分の内面を他者に分かるように誠実に伝えようとしていた方です。自分自身がどのように見られるかをマネジメントすることがいかに大切かを示すエピソードだと思います。 


さて、内的キャリアを涵養するには、その人自身の内面に問いを立てることが重要です。

 「自分はいったい何が得意か」

「自分は本当のところ何をやりたいのか」

「何をやっている自分に意味や価値が感じられるのか」

(E.H.シャイン著 「キャリア・アンカー」より)

 このような問いを立てることで、内的キャリアの発達が促進されますから、それが外的キャリアにまで影響を及ぼしてゆくことをイメージして、その人への支援的なかかわりをすることが求められると思います。

 次のような問いを続けて支援することも考えられます。

「今言っていただいた、ご自分の中にある資源を、どのように活かすことで出世できると考えますか」

「それでは、今から始められそうなことは何ですか」

 このように、その人自身に、自分の内面にじっくりと向き合ってもらい、進むべき道が見えてくるように、支援が役立つことを目指します。答えはその人自身が持っているのです。


キャリアの発達の究極の目的は、「個人の欲求と組織の要望とを適合させることにある」(E.H.シャイン)と言います。それは極めて達成が難しいことでもありますが、「出世したい」と思っている個人へのかかわり方について、これまでの話でお示ししました。

その人が、自分の内面を知り、磨き、他者に知ってもらう(とりわけ、上司は重要な対象となるでしょう)。このことについて自分自身でしっかりと責任を持ち行動できるように支援をすることです。まさに、その人のキャリア自律を育むことそのものと言ってよいでしょう。

 どちらが先でも構わないと思いますが、内的キャリアの発達と外的キャリアの発達が、相互に作用してより高いレベルに向かうのだと思います。例えば、内的キャリアの涵養が不十分な状態で出世をしたとしても(実は、よくあるケースと言えるのではないでしょうか)、立場が人をつくる、ということはありますから、外的キャリアから内的キャリアへの影響も当然考えられます。

 そのような想定のもと、企業の側でも1人ひとりの社員の内的キャリアと外的キャリアの相互作用を促進する方策をおこなうことで、社員のキャリア自律が促進され、その企業が求める人材が何人も育ってゆくのではないでしょうか。くれぐれも、「出世」でその人のキャリア自律が停滞してしまうようなことが無いようにしたいものです。

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今回は、出世とキャリア自律の関係を考える、についてお話しました。私は会社勤めとの複業でライフキャリアデザインカウンセラーとして個人や世帯の職業生活設計や資産設計のお手伝いを志しております。保持資格としては国家資格キャリアコンサルタントとAFP(日本FP協会会員)をコアスキルとして、これまでの会社生活や人生経験で学んできたことを活かして会社内や地域社会に向けた価値創造につなげてまいります。ご関心を持っていただいた方、ご相談事がある方は、どうぞお声がけください。

 最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
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