家族の苦情と施設のギリギリな状況(すべての施設にあてはまりません)

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コラム

全身に影響を与える栄養状態の引き上げ


当施設のクレーマーとして有名なご家族様がいらっしゃいます。

県に電話をするなどして、施設への不信感を訴えているかなり癖の強いご家族様なのですが、
私の中では施設のやり方を正してくれる唯一の素晴らしいご家族様です。
実際、この方のクレームから改善されたことは幾つかあります。

しかし、施設の窓口である相談員はうんざりして話もしたくないようで、挨拶も早々に隙を与えないくらいの早口でこちらの用件を述べた後すぐに立ち去り、クレームの聞き役は私や看護職員、機能訓練指導員に任せて知らんぷりしています。

その態度がまたご家族様を怒らせるわけですが、ご家族様もテキトーな相談員の対応に半分諦めているから私たち他職種にクレームを言ってくるようになったのかなと思っています。

私は「栄養士さんなら信用できる」とそのご家族様に気に入られていて、他愛のないおしゃべりからご入居されているお母様のこと、施設のクレームを相談員やケアマネージャーの代わりに聞いています。

「わたし、嫌われてますよね、確実に避けられてますよね。ホントにひっどいよな」
との問いに、弁が立つ相談員のようにしゃべりが上手でない私は、そんなことありませんよとの白々しいセリフと絵に描いたような苦笑いで返しています。

私は一応施設の職員なので、
それは違いますよと見たまま感じたままをお伝えしたり、なんとなくオブラートに包んで返したり、すみませんと謝りますが、
自分がご家族様のお話にうっかり流されて、誘導されてしまいそうになるのは、ご家族様と同様に

「これでいいのか?」「野放しでいいのか?」「責任者が統括すべきなのではないのか?」というようなモヤモヤが常に在り、

癖の強い独特なご家族様なだけあり、私のそんな気持ちも見透かされているのだろうなと感じています。


ご家族様は月に一度、介護タクシーをご自分で手配し、お母様をかかりつけの病院にお連れしています。
先月、主治医から血糖値がひどく上がり注意を促されたのでどうなっているの?と報告を受けました。

お母様の血糖値が上昇した原因はハッキリしていました。
3ヶ月ほど前から原因不明の微熱が続き食事が食べられなくなり、みるみるまに痩せていかれたので栄養剤が処方されました。栄養剤は吸収が良く激甘で、当たり前のように高エネルギーですから、3ヶ月の服用は血糖値が上がるのに十分でした。


特別養護老人ホームでは基本的に年に一度の健康診断はあるものの、その後の定期的な採血やフォローなどはしないところが一般的だと聞いています。
栄養補助食品などを摂っていたら一年後の健康診断で血糖値が上昇していた、とはよくある話のようです。

また、協力医療機関で施設に往診に来てくださる医師の介入も入居者100名となると、(看護職員の話の持っていきかたにもよりますが)こちらから積極的に申し出ない限りスルーされてしまうことも多いようです。
また、内科医が精神科の薬を処方するといった専門外のことにも対応されるため、適した薬が処方されずになかなか症状が落ち着かないといったこともみられます。


特別養護老人ホームは専門職が揃ってはいますが、医療機関ではないので施設に入居できたからといって何から何まで安心はできないのです。

「痛い」という訴えや、数値で見ることができる「体温」「血圧」「脈拍」、転倒して「出血している」「腫れている」などは分かりやすく、
病院にお連れしましょう、という流れになりやすいのですが、

「飲めない」「食べられない」という状態や、「なんとなくダルい」という倦怠感など、ハッキリとした原因がわからず様子を見ているうちに気が付けば状態が悪化していた、というのは在宅でも施設でも起こりうることです。


たいていの人が風邪やストレスなど何かしらの原因で、飲めない食べられないといった経験をしたことがあると思いますが、たいていは日に日に良くなり数日のうちに落ち着くことがほとんどだと思います。

しかし、高齢者の「食べられない」というのは本当に致命的で、
ご入居者様がお看取り期だと判断するのに「食べられない」という状態は重要な判断材料になります。

少しでも口にできるうちに、高エネルギーの栄養補助食品などを召し上がっていただくと「食事が満足に摂れなかったのに、日を追うごとに食事量が増えていった」という方はとても多いです。

「栄養状態の引き上げは全身状態に影響する」ということは言うまでもありませんが、この考え方は、急性期病院の手術後の栄養管理から在宅で暮らす方まで同じです。


「手術に伴ってダメージを受けた損傷部位をいち早く回復させるための栄養」
「在宅での暮らしを続けていく身体を維持するための栄養」


高齢者が健康に暮らしていくためには、食べられない状態には敏感に反応して、常に栄養状態の引き上げをしていけるように対処していくことが望ましいと感じます。


先に述べたお母様はまだ3割ほどしか召し上がれないことを考慮して、施設往診医の了解のもと、食物繊維とMCT(中鎖脂肪酸:消化吸収が他の脂肪酸と異なりエネルギーになりやすい)を含んだ栄養補助食品を食事に付けて対応していくこととしました。

すると1ヶ月後の今月、血糖値がかなり低下したとの報告を受けました。
また、お母様の食事の様子にも変化が見られ、
ご自分で召し上がることができずほぼ介助で食事をされていましたが、スプーンを持ってご自分で召し上がることが増えてきて、食事も全量に近い量を食べられる時がみられるようになりました。


ご家族様が来る度に「施設の中はどうなってるの?」「介護職員はちゃんとやってるんですか?」「相変わらず職員が入っては辞めてを繰り返してるんですか?」などなど誘導尋問のような話も出てきますが、

今はきっとどこの介護施設も人員不足で、
入っては辞めてを繰り返したり、教育係となるような人材がなかなか獲得できず職員を育てられなかったり、残業は当たり前いつもギリギリな状態で介護している状況も、
だいたい一緒なんじゃないかなと思っています。


有料老人ホームやサービス付き高齢者住宅など、あちこちに高齢者を対象とした施設が出来ていますが、実際問題きちんと目が行き届いた需要と供給がバランスした介護が出来ているのかは疑問に思ってしまうところです。

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