連続小説『DNA51影たちの黒十字』24

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連続小説『DNA51影たちの黒十字』24

連続小説『DNA51影たちの黒十字』第24回
Rosalind Franklin Photo51
Rosalind Franklin Photo#51


      25       ウラジミール・ルイセンコ

 ウラジミール・ルイセンコという学生の存
在がロザリンドの眼中に入ってきたのにはそ
れなりの理由があった。ロザリンドの研究室
に学生として所属しているケネスホームズと
いう学生をルイセンコが頻繁に訪ねてくるか
らである。ルイセンコ自身はロザリンド研究
室の所属学生ではなく、ケネスホームズの知
人・友人としてしばしば訪ねて来るようなの
だ。ケネスホームズが研究室に不在の時にも
度々訪ねて来ては研究室の休憩用・来客用の
ソファーに座ってケネスホームズが来るのを
待っているルイセンコの姿をロザリンドは目
撃している。そんなルイセンコにロザリンド
が出会うと、ルイセンコは愛想よく挨拶をす
る。いたって人当たりが柔らかく好感度の高
い人物のようではあるのだが、部外者である
ルイセンコの研究室滞在時間は異様に長い。
まるでロザリンド研の所属学生であるかのよ
うな振る舞い方になってきている。
 ルイセンコ本人が言うところでは自身の本
来の専攻は農業経営学であるらしいのだが、
最近ではウィルスにも関心が高まっていると
の様子で、ケネスホームズが研究室に来ない
日でもルイセンコは来室してしきりに休憩所
の学生たちを相手に研究内容を興味深く聞い
ている。遠目から観察するにルイセンコは二
重螺旋形態にも唯ならぬ強い関心を寄せてい
るようにロザリンドは感じた。
 生物の核酸の形態が二重螺旋をとっている
のではないかとのロザリンド等の論文発表を
農業経営学専攻のルイセンコは既に知ってい
るのであろうか・・・・。
 クリック等の二重螺旋モデルの模型につい
て生物学分野の研究者たちの間では話題とは
なっているものの、農業経営学専攻の学生の
興味までをも引き出すような対象となってい
るのだとすれば、それはロザリンドにとって
意外な出来事であるといえるかもしれない。

 そんな夏の時分にバークベック・カレッジ
のロザリンド研究室をポール・スミスが久し
ぶりに訪問して来た。相変わらずユダヤ人に
とっては安息日でも何でもない日曜日の人の
気配の少ない午前中のことである。

 「ロザリンド先生!、
  例のNature誌発表の論文についてなん
  ですが、論文発表の前にロザリンド先生
  たち撮影のPhoto51と分析データ情報が
  部外者に漏洩していたとの証言を耳にし
  ました。キングス・カレッジで研究補助
  員をしているユダヤ系レバノン人から伝
  わってきた噂のような情報によりますと
  ねぇ、どうやらウィルキンスが賢振寺の
  ワトソンに論文執筆時期以前にPhoto51
  データを見せていたのを目撃していた人
  がいるらしいとのことですなぁ」

 このポール・スミスの情報はロザリンドに
とって衝撃的な内容であった。データ漏洩に
関してロザリンドはエプソム競馬場でピンザ
号を取り囲む人輪の中に見かけたクリックと
ペルーツを疑っていたところであるのだが、
ポール・スミスの得たという情報ではデータ
の漏洩者がなんと前同僚のウィルキンスであ
るというだ。漏洩者が身内であったという新
情報にロザリンドは
『ホンマかいな〜!!』
と眩暈を起こさんばかりの衝撃を受けるので
あった。
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