おはようございます。ブログを閲覧いただきありがとうございます。
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自身で小説を書き、声優さんに朗読していただいたものに動画編集をして公開しております。
たまに作者自身の北条むつき朗読もございます。
今回ご紹介の朗読動画は、ラブコメのお話です。
良かったら聴いていただけると嬉しいです。
・朗読動画もご用意しております。
・文字をお読みになりたい方は、動画の下に小説(文字)がございます。
◉モテたい男子の自虐日記
作者:北条むつき
朗読:木下アルヴィン
第一話 自虐の唄
俺、増山要《ますやまかなめ》はモテたことがない。最後にモテた記憶、それは幼少の頃、女の子とままごとをして夫婦役をして遊んだ時にモテた記憶だ。だが、そのままごとのお嫁さんにも、いつの間かに逃げられた。
それ以降、小中高とモテた記憶は全くない。小学生の頃は、背が小さく女子と変わらない背丈か、むしろ女子にも負けていた。そんな俺にも好きな女子が出来た。学級委員長の女子、財田優希《さいだゆき》だ。学校終わりに呼び出して告白をした。だが、「チビとは付き合えない」と罵られて俺の恋は終わった。
中学に入っても、背は低く、全くモテない。
小学生の頃の告白に懲りて、もう好きになるものかと思った。だが、そんな中でも、普通に話してくれる女子もいた。それに家にも遊びに行ったりする仲。部活も一緒のバレー部、金田朋美《かねだともみ》だ。俺は背が小さくてレギュラーになれなかったが、朋美は背も高く、すらりと伸びた足と長い腕でレギュラーだ。そんな朋美に憧れていた。朋美の事が徐々に気になり出した中学二年の夏。
昼の休憩時間に、突然、朋美とその友達たちの女の子が近寄ってきて、俺に尋ねた。
「ねえ、カナブンってさ? 好きな女の子いるの?」と朋美が言う。
カナブンとは、俺のあだ名だ。
「はあ? 何突然」
「ねえ、カナブンはこのクラスの女子でキスしたい子いる?」
頭の中で、思わず妄想している俺がいた。
朋美とキス。キス、キスキスキスキス。そんな思いに狩られると、赤ら顔になってしまった。
固まってしまったが、頭の中は朋美を思い思わず見てしまった。すると、朋美が突然俺の顔を覗き込み……。
「顔真っ赤。もしかしてわたしかな。かわいい! キャハハハアハハ。する? してもいいわよぉ?」
うおおお!
心の叫びが雄叫びとして漏れそうになり、思わず口を抑えた。
その口を抑えた態度が、吐きそうだと見えたのか、朋美はいきなり俺に言い放つ。
「な訳ねぇーだろ。バーカ!」
朋美は一瞬、嫌味な顔をして、俺に舌を出して友達と笑い合い教室から出て行った。
自業自得とは言え、女なんてみんなこんな感じだ。人の心をかきむしる。思わせるだけ思わせておいて、結局は馬鹿にする。所詮今回もそうなんだって思った。
極め付けは、クラスの図書委員をしていた時だった。クラスの女子図書委員、飯村葵《いいむらあおい》と一緒に先生に呼ばれて、クラス全員の教科書を二人で運んでいた時だった。重たいからと飯村の分を優しさで半分ぐらい持って階段を上がっていた。突然ふらついた飯村を俺は助けるために、教科書を投げ出して、飯村の腕を掴んだ。だが、階段の下へと落ちていく俺たち。飯村が危ないと思い、俺は飯村の体を抱えて、下敷きになって助けた。するとその場で、飯村は恥ずかしそうに頭を下げて、「助けてくれてありがとう。嬉しい!」と言っていた。
俺も照れながら返事を返す。初めて触れた女の子の体に思わず鼓動が高鳴っていた。
意識をしてしまった俺だったが、誰にも言わずにおいた。だが、その日のうちに飯村が好きだと言う情報が何故か広まった。翌朝学校に言ってみると、俺のあだ名、「カナブン大好き」と言う言葉が、教室の黒板全面にいっぱい書き込まれていた。
そして教室には女子しかおらず、ニヤニヤとして、突然女子全員で俺に向かって叫んだ。
「カナブーン。大好きだよ」
またもや、俺は硬直してしまい、動悸が鳴った。だが、その次の言葉でまたもやどん底に落とされた。
「アハハハッハ可愛い。固まってやんの。馬鹿だね。カナブン。意識しすぎ」
期待した俺が馬鹿だった。やはり馬鹿にされた。俺はその時思った。女に馬鹿にされて生きていくのが嫌になった。だから高校は男子校に進むことにした。
でも、思春期の俺は、またもやどん底に落とされることになるとは、思っても見なかった。
第二話 時出俊平
女子に馬鹿にされた俺は、女という生き物が心底嫌いになった。もう硬派に生きてやろう。この先、女など絶対に好きになるもんかと……。そんな思いで俺は高校生活に男子校を選択した。
中学時代から続けていたバレー部にも入った。決してモテたい訳ではない。俺は硬派を選ぶために日々部活に力を注いだ。
朝練。それが終わると授業。そして夕方から夜遅くまで、白いボールを追いかけた。
ある日の部活終わり、部活仲間でもあり、同じクラスの時出俊平《ときでしゅんぺい》が天然ではない、軽くウェーブのかかかった髪を手で巻ながら俺に言ってきた。
「なぁ、来月の県大会の合宿後には、俺たちもっと男らしく成長してんだろうな! 先輩たちに揉まれて、バレーもうまくなって、もしかしたら大会にも出場できるぐらいのレベルにもなれるかも。頑張ろうぜ!」
「ああ! 俺たちは硬派を貫くんだろ!?」
「そうだよ。そのために、この高校に来たんだから!」
だが、運命は残酷だった。
夏休みの県大会が始まると、準レギュラーとして、時出俊平がコーチに呼ばれてコートに立った。
そして見事バックアタックを決めると会場からどよめきと悲鳴にも近い歓声が挙がった。
それは、まぎれもない若い女子の歓声だ。
必死に立ち向かっていた時出が急に笑顔に変わり、体育館の二階席に向けてガッツポーズを送る。
するとまたもや歓声が挙がる。
何故だ! こいつは何を目論んでいる。こいつ女好きなのか? そう思わせる程の時出のガッツポーズ振りに、俺は少し機嫌が悪くなった。
試合後、体育館から出ると時出を待ち受ける女子の波。
握手や写真を求める俺たちと同じ高校生か、中学生女子の姿があった。
俺はというと、試合に出れずにただそれを眺めるしかなかった。
時出は、試合を追うごとに、準レギュラーとして出場する。
益々帰り際のバスの乗り口前には、女子の人だかりが時出を求めてやってきているのがわかった。
俺の県大会出場はというと、途中出場の二試合のみ。俺は活躍どころか、ロクに得点を演出する事なく、試合が終わった。
残念ながらウチの学校は準決勝で敗れてしまったが、一年の俺たちが出場できたのは、それなりに嬉しかった。
試合後、時出とともに涙を流した。
「来年は俺たちが先輩たちの分まで、大会を盛り上げていこうな!」
そう俺は、時出に声を掛けた。時出もその言葉に頷いた。
だが、時出は裏切った。
急に成長した時出自身と、活躍の歓声が響いたこの大会の出来事で、時出は女子に走った。
あれだけ、「硬派に生きような!」と誓った男の友情は無残にも崩れ去った。
県大会終了後、時出は、俺に「たこ焼きパーティがあんだけど、一緒に行かね?」と誘ってきた。
「裏切り者! 硬派に行こうぜと言ったじゃんかあ!」
「馬鹿野郎! 俺たちだけでつまんねー夏休み送るより、女の子も混ぜた友好関係作るのも良いだろう!? お前行かないなら俺だけで行く……。折角の誘いだ。無下に断るな! お前も彼女できるかもしれん。チャンスだぞ」
その言葉に俺は躊躇ったが、渋々言葉に釣られて、たこ焼きパーティに参加した。いや、内心は息巻いていた。彼女が欲しい!
俺にはもう理性がないのかと思えるほど今度は硬派な気持ちは消し去っていた。
第三話 桃華
時出俊平、俺の親友と言ってもいいぐらいの硬派なやつ。
だったが、バレーの県大会の活躍により、女子高生たちが群がる中に飛び込むと、こうも簡単に男の友情と言うのは、裏切られるものなのかと思った。
だが、誘われたたこ焼きパーティは、ある意味俺の女子恐怖心を克服する絶好のチャンスだと思い、参加することを決意した。
否、単なるモテたい……。
という不純な動機は敢えて隠しておこう。だって俺ももう16歳の思春期真っ盛りだもなぁ!
「何ニヤついてんだ! カナブン! かすみちゃんの家前で!」
そうもうすでに県大会で知り合ったという、たこ焼きパーティの場所でもある、竹中かすみちゃんの家の前だった。
この口角が右上に挙がった状態を右の人差し指で何気に戻し、何事もなかったように笑顔になる。
時出はチャイムを鳴らしていた。
暫くすると、ロングヘアにタータンチェックの目元がクリッとした女子が返事よく出てくる。
「ああ! 来てくれてありがとう。みんなお待ちかね。ささっ、入って」
「こちらこそだよ。お邪魔しまーす」
時出と共に二人、声をあげながら、かすみちゃん家に上がり込む。するともうすでに他のメンバー三名は、たこ焼きを焼きながら俺たちを待っていた。
「日向《ひなた》でーす!」
「私、燕《つばめ》です」
「あたし、姉の桃華《ももか》!」
「どもぉーーはじめまして、増山要です」
「俺は、時出俊平。よろしくね」
「二人とも知ってますよお。この有名人!」
そんな日向ちゃんの言葉に驚いた俺は聞き返した。
「俊平の事は毎試合出てたから知ってる思うけど、俺もなん?」
その問いに対しての女性陣の答えは一様に笑顔でYESだった。たった二試合しか出ていない俺を知っている女子がいた。
そう思うだけで、胸は高鳴り笑顔に満ち溢れた。そして、俺のそんな思いは再度乾杯の掛け声に現れていた。
「ヒュー! その図太い俊平ちゃんとは違い、ちょっと甲高い乾杯もいいね?」
褒められているのかいないのか、どっちとも取れる言い回しだったが、笑顔でグイッとジュースで喉を鳴らし、焼き加減を見るために、ピックをくれとかすみちゃんに要求した。
「要いっきまーす!」
意気揚々にピックをたこ焼きに差し込み、半分焼けたたこ焼きをひっくり返す。このピックさばき、うまくいった。
「おぉ、うまいじゃん! その手つきは手練《てだれ》だね?」
姉の桃華さんが、俺の肩に腕を乗せて迫る。片手には一人だけビールジョッキ。高校生の中に一人、二○歳を迎えた大人の色香。
たこ焼きの臭いとは別にいい匂いを醸し出している感じがしていた。
燕ちゃんが一人、わたしにもできますと俺に対抗心を燃やして、メイド服のような格好でたこ焼きと格闘し始める。
そんな楽しくもあり、戦いでもあるタコパが始まった。
男性二人だけで他4名は女性というハーレム状態。
俺は終始笑顔を振りまいていた。いやいつの間にか笑顔というより、鼻の下が伸びる。
そんな態度を察してか、かすみちゃんが俺を避けて、やはりというか俊平とべったり話すようになった。そのうち、俺を放ったらかしにして、二人二階へと挙がっていった。もちろん男は俺一人。ハーレムがよりハーレムになった。
かすみちゃんの両親も外出中で、三人の女性に囲まれた俺は少し照れくさくなり、トイレに席を立った。
キッチンを抜けて、用を足してトイレから出ると洗面所に、姉の桃華さんが、色目つきで俺の前に立ちふさがった。
「あっ、桃華さんもトイレですか。ごめんなさい。お待たせしました」
そんな言葉を軽く聞き流し、桃華さんは俺に向けて、ピストルのように手を向けて言った。
「バーン! ねぇ? ちょっとお酒買いに行くのついて来てよ」
第四話 感触
トイレから出た俺を待ち受けた姉の桃華さん。誘われるがまま、たこ焼きを焼いている燕ちゃんと日向ちゃんを尻目に玄関口へ。
階段上の二階にはとっくに上がって降りてこない俊平とかすみちゃん。何をやってるんだかと気になりながらも、そんな二人が羨ましくもあった俺は、姉の桃華さんに誘われるがままに扉を開けた。
外は晴天。
散歩するにはもってこいの日差しだ。でも期待するのは、年上女性との少しのデート気分だった。
前を見て歩いていると横にいる桃華さんの視線を斜め下から感じた。俺の身長はバレー部では低いが165cmだ。
だが桃華さんはそれより10cm程、下からの熱し線をあびた……。
唐突に右腕を組まれて、ドキッとした。
「どうしたの? 緊張してる?」
「……」
「アハハハッ、年上の女は嫌い?」
「……いっいえ……」
肘が丁度、肩越しから胸元へと当たる感覚。中学生の時に味わった女子の感じとは違う大人な色香に思わず笑みと、鼻の下が伸びた。
それに気づいたのか、突然組んだ腕を払いのけ、その場から小走りに走りだす桃華さん。
「アハハハッ、捕まえてよ。鬼ごっこ!」
「あっ! 酔っ払ってますか? 余り走ると公道で危ないっすよ」
その言葉をかけた瞬間、路地から唐突に出てくる自転車が見えて、慌てて前を走る桃華さんの腕を掴んで引き寄せた。自転車のおじさんが俺たちに睨みを利かせて罵声を浴びせた。
「アホンダラ! 昼間っから、イチャイチャすんな。ボケッ! 邪魔じゃ!」
「すっすみません……」
「……」
俺は、おじさんに謝りを入れたが、桃華さんは俺の腕の中で無言だった。自転車のおじさんは罵声を浴びせると、キコキコとペダルを鳴らし消えていった。その場で数秒の時間が停まる。
「だっ大丈夫っすか?」
俺の言葉に、コクリと首を縦に振る桃華さんだったが、俺は下から覗き込まれた大人の色気と少し怯えた表情が堪らなく可愛く思えた。昼の日中。顔を数センチまで付き合わせた状態のまま、固まっている俺たち。
「いつまでこうしてたい?」
その言葉にハッと我に返った。
「ごっごめんなさい……」
「アハハハッ、冗談よ。さぁ、お酒! 重たいから、持ってよね?」
路地を曲がると、すぐにコンビニだった。抱き寄せた柔らかい感覚がまだ手に残りながらも、桃華さんに言われるがまま、レジを済ませると袋詰めのお酒を抱えて歩き出す。コンビニを出ると、桃華さんが俺に突然言い放った。
「さっき私のおしり触ったから、罰ゲームね。家までその状態で、走って私に勝つことができたら、みんなに黙っておいてあげる。負けちゃうと、みんなに言いふらしてやるからね?」
「えっ……ちょ!」
そう言い放つと桃華さんは、家までまた駆け出した。
第五話 騒ぎ
酒を両手に抱えさせられた状態で、駆け出した桃華さんを追う。
必死に走ったが、追い抜いた瞬間、桃華さん家の扉の前。開けようとしたら鍵がかかっていた。何故だと疑問符が飛ぶ。
行きは鍵などかけていなかったはず。
そして「ごめん、退いてね」と言われ後ろに下がる。桃華さんが鍵を開けると、俺を先に入れることなく、自分が先に玄関口へと入って行った。
「勝ち!」
「えっ?嘘。そりゃないよ桃華さん!?」
「うそ、うそ。ありがとうご苦労様」
酒を片方持ちキッチンへと行く。すると日向ちゃんと燕ちゃんがテレビを見ながら、怠そうに言う。
「どこ行ってたの? 待ちくたびれて、もうたこ焼きもないよ? それにあの二人も二階から降りてこないし。何やってんだか?」
一瞬、桃華さんが悪そうな顔つきになった。そして……。
「あの二人もいちゃついてんじゃないの? ねぇ? 要くん」
「ああ! だめだめだめだめ!」
慌てた様子で先ほどお尻を触ったことを言われると思い、俺は焦って声を挙げた。すると燕ちゃんたちが首をかしげながら言う。
「何? 桃華さん、増山くんにイヤラシイことでもされたの?」と問いただす。
「ああ! 桃華さーん?」
「あのね、さっきさぁ? 抱き寄せられて、お尻触られちゃった!?」
終わった。俺の青春が終わった。そう感じた瞬間だった。
「ええ!? エロいことされたの? 増山くんイヤラシイ」
「増山くんも意外に年上好き? 意外だなぁ、このエロ男!」
燕ちゃんと日向ちゃんが容赦なく俺に鋭い視線を送り言い放つ。
「ちっ、違う! そんなつもりじゃなくて、助けたんだってば。腕を引き寄せて、自転車に当たらないように」
「でも、私を抱いたわよね? 要くん?」
「アアアア! あの……。桃華さん? それは、言い過ぎでしょ?抱いてないし……」
「抱き寄せてお尻触った事実は、どうしてくれるの?」
「だから、それは誤解……、誤解なんだってば……」
「誤解、どう誤解なのか……。説明してくれないと……」
そんなやり取りを騒がしくしていると、二階からかすみちゃんと俊平が気になったのか、降りてきた。
「どうしたんだよ? 騒がしいなぁ!?」
「聞いてよ、俊平ちゃん! 私、要くんにお尻触られたんよ?」
桃華さんは俊平に泣きついた。
「えっ? お前、カナブン! 謝ったのか? どうも今日は鼻の下が伸びてるって、かすみちゃんとも話してんだよ! 何してんだよ。かすみちゃんの姉貴に!」
「俊平まで……。ち、ちがう……。誤解なんだって」
俺は俊平に反論する。
「カナブン! いいから頭下げろ。そして今日は帰ろう」
納得行かなかったが、俺は深々と頭を下げると、桃華さんが、やれやれと言う表情を浮かべた。
俊平と玄関口まで行くと、後ろにチラッと少しだけ、桃華さんのふざけて舌を出している笑顔の桃華さんが目に入った。
それを見た瞬間。やはり馬鹿にされてたんだあ!
俺は、結局そんな役回りだ。と頭《こうべ》を垂れた。
その姿に俊平は、ポンと肩を叩き、かすみちゃん家を後にした。
帰り際、俊平がずっと二階にいたことが気にかかり尋ねた。
「お前ら、何やってたの? エロいことでもしようとしてたんじゃねーだろうな?」
その言葉に、真面目な顔つきで、俊平は、「ああ! そうだよ。お前たちの件がなければ、最後までイってたのにさぁ?ってか、もっとうまくやれよ。お前も」
何故か俊平に責められてしまった。もう誰も信用できない。そんな思いが俺の中に駆け巡った日だった。
第六話 ひとり部活の青春
その後、夏休みも終わったある日……。
朝から顔つきが異様に爽快な時出俊平の姿があった。それが気になり、思わず声をかけた。すると驚きの言葉が返ってきた。
「ああ、お前も早く済ませろ? エッチって本当に良い。心も身体《からだ》も一体になれる」
「……それって……お前……」
こっ、こいつはもう大人の階段を上がりやがった。俺はキスもまだな子供のままだ。
畜生! この雲泥の差は何なんだよ! 卑怯だ。
そう思ったが、来週の文化祭に俺は桃華さんを誘ったが、仕事だと断られた。
そんな悲しい週末のある日のこと……。
バレーの練習が早く終わり、体が鈍ると思い、夜にランニングをしていた。
夜の公園。
暗がりの中、前から女性悲鳴。慌てて前方へと駆け出した。人影が二つ。女性らしき人物と男らしき人物がいた。
俺は男らしき人物に突進した。体当たりで男の鈍い悲鳴が聞こえた。
「グオッ!」
そして、女性の悲鳴ももう一度聞こえた。見るとそこには桃華さんと知らない男性がうずくまっていた。
「ちょっと、何してくれてんのよ! 良いところだったのに」
突然桃華さんが俺に声を荒げた。聞けば二人ベンチに座りお茶を飲んでいたペットボトルを落としかけたと言う。
「顔と顔を近づけてお茶お飲むということはありえないでしょ!」
「そこら辺は、高校生にもなったら察しなさいよ! あんた私の何!?」
その言葉を言われてしまった俺は、男に殴り飛ばされた。
力無くして地面に叩きつけられた。
桃華さんもそれを見ても助けようともせずに俺に言い放った。
「二度と私の前に現れんな! 勘違い野郎!」
男と二人消えて行った。俺の高校生活で夢見ていた青春は終わりを告げた。
一応にバレーは続け、卒業できた。
青春の一ページと呼べるものは、一年の夏以降、部活の汗だけだった。
「畜生! モテてぇ!」
巻き髪の時出は、かすみちゃんと楽しんでいた。
俺は卒業まで彼女も作れず一人で過ごした。もう女子など信用するものかと自分に誓った。
生身の人肌が恋しくなる油も乗った十八歳から二〇歳の思春期なの男なのに……。
俺は大学に進学しても、飲み会、コンパなどにも目もくれず、部活とバイトに勤しんだ。
バレーのお陰で、中学時代より十八センチも背が伸びて、百八十三センチの長身なっていた。
それがまさかな展開になるとはその時は思ってもみなかった。
二〇歳になる頃。
実家に帰ると小中学校の合同同窓会のハガキが届いていた。懐かしさで思わず参加に丸をつけた。
冬になる前のパーティ会場で俺は、懐かしい人物たちと再会することになる。
第7話 再会
あるホテルの同窓会パーティ会場に着く。
今日は、俺が通っていた小中学校の合同同窓会だ。
会場は広い。小中一貫校だったからか、顔なじみの連中がいる。
……が、俺を見てもみんな目をキョトンとさせて誰が来たのかわかっていないらしい。
「よぉ! お前、村沢だろ?」
そう声をかけるが、「お前? 誰だ?」と返される始末。
確かに大人になったら顔つきは変わるが、一番変わったのは俺の身長が随分伸びたこと。
「俺だよ、増山要」
そう言うとみんな目を見開き、一様に雄叫びのような声を挙げた。
その雄叫びで、女性陣たちが俺の方に近く。みんな大人な女性へと変貌していた。その中に一人目を輝かせて近づく一人の女性がいた。
「うわっカナブン。大っきくなったね? わかる? 私よ。財田優希」
一瞬、戸惑いを見せた。
あの小学生の頃。学級委員長を勤めていた頃のような男勝りな印象は全くなくなり、フリフリのスカートドレスだったからだ。
「良ければ少し話さない?」と促された。
俺は会場の外バルコニーへと財田を連れ出した。
懐かしく話し込んでいると、後ろから声がかかる。振り向くと一瞬で俺の目が輝いた。
うお! この美人は、もっもしや!?
「わかる? 私、金田朋美。見違えたわよ! 増山要くんでしょ?」
「ああ、わかるんだ。ありがとう。そうだよ!」
「当たり前じゃない。私と中学の時、仲良かったでしょう?」
その朋美の言葉の掛けように、負けじと更に俺の話を引き出そうとする財田。
何だこの展開は……。
不思議な気持ちになっていると、間を割るように、またもや聞き慣れた声がする。
「大きいくなったねぇ! カナブン!」
スーツ姿の飯村葵だと、名乗るロングヘアの落ち着いた黒髪の美女だった。
三人の女性に一気に囲まれたことにより、俺の鼓動は高鳴り、頂点に達した。
この展開は一体、何なんだ。
神様は俺をちゃんと見てくれていたのか? 一様にみんな背の高さを褒め称えて、俺に近づくこの女性たち。
何かが狂ってきたのか。それとも学生時代の復讐再来かと、俺はまた恐怖のどん底に落とされるのではと、不安な心とは別に、鼻の下が十センチも伸びそうになっていた。
「コラコラ! 伸びてる! サル顔してるぞ!」
躊躇なくツッコミを入れるのは朋美だった。朋美の笑顔は中学の時より一段と眩しく感じられた。
俺は朋美たちとの懐かしい再会に鼻息は荒くなりそうになっていた。
第八話 損な性分、結局自虐男子
さっきの金田朋美の言葉に何故だろう。
女性陣が俺を間にして、空中で火花を散らしているようにも思えたのは、俺の妄想だろうか。
「なぁ皆で、あっちのベンチでゆっくり話そうさない?」
優しくかけたつもりの言葉でさえ、飯村葵は不服そうに言い返した。
「ねえ、増山くん、お酒足りないんじゃい? あっちで一緒に探さない?」
「えっ……」
「ああ、もう! 食べ物美味しいから取ってきて一緒に食べようよ」
今度は財田が言い返す。
何だ。なんだ、この状況は。
しかし朋美はひとり俺から距離を取り始め、手を振り行ってらっしゃいと言わんばかりの態度だった。
おっ、俺は朋美と話したい。中学の頃と変わらなく細くてスタイルの良い高身長。今なら俺とはちゃんと釣り合いが取れる丁度良い高さだ。
朋美が、笑顔になり手を振っている。何故だ! 俺のことが嫌いになったのか。何故だ。
飯村と財田に腕を掴まれ、バルコニーから室内へと連れて行かれそうになる。俺の意思とは無関係に、引っ張られる腕の感触は心地良いものではない……。
「俺は朋美と話したい」
引っ張られていた腕の力が緩まり、飯村と財田が惚けた。
その瞬間だった。
「ごめん。俺はやっぱりあの頃から好きだった朋美と話したい」
はっきりと自分の意思表示をすることが出来た。手を振っていた朋美の元へ戻っていく。俺を見ると首を傾げて顔を片目を瞑り言った。
「いいの? モテキだよ?」
朋美はホッペを膨らませた。
その言葉に俺は、首を横に振った。
「中学時代から思いを寄せていたこと知ってた? 今更だけど、俺は朋美しか今は見えない」
真面目に答える。
すると朋美は、斜め上の夜空を見ながら言う。
「マッジメ。いいの? 私を乗りこなせる? 結構荒っぽい運転するよ?」
「事故車じゃなければそれでいいんです。てか、再会にまずは乾杯しようや?」
「今日は長い夜になりそうね?」
「ああ、いっぱい乾杯しないと。このホテルでも泊まろっか?」
「ああ、ヤダヤダッ引くわそんな言葉! もっとロマンティックだと思った」
口元を歪ませて、俺の立ち位置からスッと逃げていく朋美。バルコニーを抜けて室内へと入っていく。
失敗した。やばい。どうしよう……。
折角気に入ってくれたと思ったのに……。
所詮俺の魅力はそんなものか……。否、俺が悪いのか? そんなことはないはずだ。
どうせ俺はモテないんだ……。そう思い頭《こうべ》を垂れた。逃げていく朋美を追いかけずにいると、しばらくしてグラスを片手に朋美は戻って来た。そしてグラスの水を俺にフッ掛けた。
「なっ!? 何すんだよ!」
俺は息巻いた。
すると朋美は小さく俯きながら唇を曲げながら呟く。
「ずっと好きだったんじゃないの? 何で追いかけて来ないのよ馬鹿!」
ほぉら! やっぱり俺は女に馬鹿にされてる……。グスンッ損な性分だわ……。
俺は朋美に逆に告白をされているにもかかわらず、自分を攻めてしまった。自虐的な男だ。だが、気持ちは俺を付き動かした。
びしょ濡れになりながら俺は朋美の腕を引き寄せ言う。
「俺はずっと朋美が好きだった。けど、俺、自分が自虐的な心情をもった男だよ? それでもいい?」
朋美は、俺の性格をずっと知っていたかのように言った。
「中学の時から私とキスしたかったんじゃないの?」
俺はふと中学時代を思い出しながら、言い返した。
「ようやく横に並んでも支障ないくらいになったよ」
「バレーを続けた結果ね? おめでとう。私も好きよ?」
中学時代のようにキスという言葉だけでびびっていた俺は、どこかへ行っていた。俺は朋美の腕を取り、腕を腰に回し、満月の月の下、朋美にキスをした。
終わり。
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