ピントを合わせるってどういうこと? 被写界深度ってなに? いまさら聞けない初歩的な写真の疑問

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「写真撮影にはピント合わせが大事です」といいだせば、「当たり前過ぎる」と思われるかもしれません。しかし、世間でいわれる「ピント」には、「被写界深度」との混同があるようです。ピントについてちゃんと理解している人は少ないのではないでしょうか。

被写界深度を理解するのは、「正確なピント合わせ」「背景をしっかりぼかす」などへの近道です。つまり、写真表現の質は上がり、幅も広がります。

ここでは、「ピント合わせ」と「被写界深度」のかかわりについて解説します。

ピントが合っている距離は1点のみ

1枚の写真の中でピントが合っている範囲はどくらいだと思いますか?……というよりも「奥行き」で考えるものなので、「範囲」よりも「距離の幅」と表現すべきでしょう。ですから、言い直します。

1枚の写真の中でピントが合っている距離の幅はどのくらいだと思いますか?

実は、限りなくゼロです。2メートル先にピントを合わせれば、合っているのは、その2メートル先だけです。1メートル60センチや、5メートル15センチでも同様です。

しかし、実際に写真を見ると、「ピントを合わせたのは2メートル先だが、1メートル50センチあたりから、3メートルあたりの奥行きでボケていない。ピントが合っているように見える」といったことが大半です。

この「ピントが合っているように見える距離の幅」を「被写界深度」といいます。使うレンズを変えたり、絞り値を変えたりすることで、調整できます。

「絞り値」は別名「F値(えふち)」ともいいます。まだわからない人は、持っているレンズを正面からのぞき込んでみましょう。正確な話ではありません。しかし、とりあえずは、「絞り値とは、レンズの直径をいっぱいいっぱい使ったり、中央に近いところだけを使ったりする度合い」と理解しておけばいいでしょう。

「絞り値の数値が小さい」とは、「レンズの直径を大きく使う」と同じです。被写界深度は浅くなり、ぼかしの具合も大きくなります。あるいは、「F値が小さいレンズ」といった場合は、「大きな直径で作られたレンズ」を指しますます。当然、「絞り値の数値が大きい」「F値が大きいレンズ」はこれらの逆です。
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被写界深度は「絞り値」が大きいほど、深くなる。また、ピントを合わせた位置から見て、「前に1、後ろに2の割合」で広がる。
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被写界深度を利用し、奥行きのあるもの全体をはっきりと見せる場合には、レンズを絞り込む(絞り値を大きくする)と同時に、その「写したい全体」の前から3分の1のところにピントをおくといい。

いまさらながら、ピント合わせの目的とは

「ピント合わせ」と「被写界深度の調整」の最大の目的は、「1枚の写真の中で、注目してもらいたい部分を限定する」です。「ピント合わせ」だけではなく、「被写界深度の調整」がセットになっていることに注目してください。

ここでは、「招き猫」を人物に見立てて、ポートレート写真を撮る場合をシミュレーションします。

皆さんは、友人・知人の写真を撮るときに、どこにピントを合わせているでしょうか? 大半の人の回答は、「顔」でしょう。小さく写っているだけならば、それでOKです。しかし、「上半身」や「胸から上」といったアップ目になれば、「カメラに近い方の目」でなければいけません。その上で被写界深度の程度を調整します。
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1枚目は、招き猫の左目(向かって右側の目)にピントを合わせ、被写界深度は深めにしたものです。右目もぼけずに見えています。「右目も被写界深度の幅の中に入っている」ということです。無難な写真表現・説明的な写真表現といったところでしょう。

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2枚目もやはり左目のピントを合わせていますが、被写界深度は最大限浅くしています。見る人の視線は、確実に左目に着地するでしょう。ここまで極端なものは稀(まれ)ですが、芸能人のどアップなどで見られる撮り方です。

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3枚目は、2枚目とは逆に右目にピントを合わせています。1枚目ならば、左目から周囲に視線を走らせることもできるでしょう。これでは、どうにも窮屈で、すぐに写真から目を離してしまうのではないでしょうか。通常は失敗写真とされます。

「どこまで被写界深度を浅くすればいいか、深くすればいいか」は撮影意図次第です。背景にも気づいていほしいものがあったり、説明的な写真でよかったりするのならば、深くします。逆に、表情が印象的な写真にしたければ浅くします。

また、今回はひとこと触れるだけにしますが、「注目してもらいたい部分を限定する」とは逆に、「画面の中にある、すべての距離ものをはっきりと見せたい」場合もあるでしょう。そうならば、被写界深度は最大にします。この撮り方を、「パンフォーカス」といいます。

スマホがピントを合わせやすい理由

作例は用意しませんでしたが、鼻など近い方の目以外のところにピントを合わせたら、失敗写真です。

ただし、1枚目の撮り方ならば、失敗は表に出てきません。ここに、「デジイチは使いにくい。コンデジの方がいい。いや、それよりもスマホだ。1番きれいに撮れる」という人がいる理由があります。あるいは、他人に撮り方をアドバイスをする人の中にも、「できるだけ被写界深度を上げて(深くして)撮りましょう」という人がいる理由があります。

詳述しませんが、目でいえば網膜に相当するイメージセンサーが小さくなるほど、被写界深度は深くなり、ピントが合っているように見える距離の幅も広がります。デジイチに比べて、一般的なコンデジや、スマホは極小のイメージセンサーしか採用していません。

コンデジやスマホが、「少々雑に使っても、近いものにも遠いものにもバッチリとピントが合う。画面の中に写っているもののほとんどにピントが合っている(ようにみえる)」のはこのためです。これは、「狭い幅にだけピントが合っているように見せるのは無理。写真表現の有力な手段である被写界深度の調整は放棄しなければならない」と、抱き合わせです。

極論してしまうと、「コンデジやスマホで撮ると、常にパンフォーカスになる。パンフォーカスしか撮れない」と考えたほうがいいでしょう。
近年、スマホで「ポートレートモード」が急激に普及している。これを使えば、背景をぼかすことが可能だ。ただ、これは「被写界深度を浅くしている」のではなく、背景の分はサブのレンズで同時に撮って加工でぼかし、それをメインのレンズで撮った主題と合成している」ということらしい。たまに不得意な被写体もあるようだが、大半はかなりそれっぽく写っている。「評価が難しいな」が正直な感想だ。 

被写界深度を操りたいならば、標準ズームレンズからは卒業を

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フジフイルムのズームレンズ「XC16-50mmF3.5-5.6 OIS II」(左)と単焦点レンズ「XF50mmF2 R WR」。最もレンズ直径を大きく使ったときのF値を「開放値」という。ズームレンズを単焦点レンズと同じ焦点距離50ミリで使ったときの開放値はF5.6。一方、単焦点レンズの方はF2。この数値の違いは、「決定的な差」といっていい。当然のことながら、単焦点の方が被写界深度を格段に浅くできる。
被写界深度を浅くするには、カメラボディーやレンズには、次の3つが要求されます。

(1)イメージセンサーは大きほどいい。
(2)レンズは明るい(直径が大きい、F値が小さい)ほどいい。
(3)レンズの焦点距離が長いほどいい。

(3)では、「背景をぼかしたいから、広角よりは標準、標準よりは望遠を使う」という話になります。ありえることですが、初心者ではほとんど考えなくていいでしょう。

では、「デジイチの中でも、よく初心者向けに売られている『APS-Cサイズのイメージセンサーを採用したカメラボディー』&『標準ズーム』の組み合せではいいか?」です。

私なりの答えは……

・イメージセンサーは2倍強の面積のフルサイズ機の方が被写界深度の調整に有利なのは確か。だけども、単焦点レンズは大口径(直径が大きい)ものが多いので、これを選んでおけばOK。

・標準ズーム、中でも初心者向けは特に口径が小さいので、これはやめたほうがいい。値段は高くなるが、同じ標準ズームでも、口径の大きなものに替えたほうがいい。それよりも、やはり、単焦点レンズを選ぶべきだ。

……です。


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