掛け算(×)の半分(⋊)のお話 ~中学校の幾何を添えて~

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掛け算の性質と聞いて皆様はどのようなものを思い浮かべますか?
十人十色で色々なものがあるかとは思いますが、共通する性質はこれでしょう。

(結合法則) : (a × b) × c = a × (b × c)

ここでの a, b, c は数字を考えていましたが、集合を取ってきても話は進みそうです。
例えば、実数全体の集合である R の掛け算として R × R を次のような集合として定めることが出来ます。

R × R = { (x, y) | x, y は実数 }

しかし、これではただ集合が新しく出来ただけで R が持っていた計算の構造 (足し算 等) が入っていません。

そこで R × R に次のようにして足し算を定めましょう。

(x, y) + (z, w) = (x + z, y + w)

これで R × R に R の構造を反映させることが出来ました。
 (厳密さを無視するなら、一次元のベクトル空間2つから二次元のベクトル空間を作ったようなものです。)
このような二つの代数的な構造を持った集合 () から新しい群を作る操作を (群の) 直積と呼びます。

そしてこの操作は群 A, B, C に対して

(結合法則) : (A × B) × C = A × (B × C)

を満たすことが確認できるので、やはり直積というだけあって積の性質はきちんと満たしているんですね。


そして次が今回の主題である半直積の話になります。

ここでは細かい定義には入らず、具体例をみていくことにしましょう。

皆様はおそらく中学生の頃、図形の合同について習ったことと思います。
 (三角形の合同条件だとか覚えていますか?
私のココナラのブログで以前取り扱っていました。

その時の話の中では、
二つの図形が合同であれば何らかの操作で重ね合わせることが出来る。
ということが述べられていたでしょう。

この操作のことを合同変換ユークリッドの運動と呼び、その操作を集めた集合をユークリッド群運動群と呼びます。

そこで、この操作についてもう少し記憶を辿ると、

・回転させたりひっくり返したりする操作
・位置を動かす操作

の組み合わせであったことも思い出せるのではないでしょうか。

数学では前者の操作 (直交行列) の集まりを直交群と呼び、O で表し、
後者の操作 (平行移動) の集まりを平行移動群と呼び、T で表します。

ここまで準備したところで、直交行列 A と平行移動 b の組 (A, b) のよる点 x の移動を考えてみましょう。
ここでは (A, b) で最初に A で回転させたりひっくり返したりした後に、b で位置を動かす操作を表すことにします。

すると、この操作によって点 x は
(A, b)x = Ax + b
という点へ移ります。

では、この操作を二回繰り返すとどうなるでしょう?

(A1, b1)(A2, b2)x = (A1, b1)(A2x + b2) = A1A2x + A1b2 + b1
= (A1A2, A1b2 + b1)x

つまり、操作として

(A1, b1)(A2, b2) = (A1A2, A1b2 + b1)

が成り立つことが分かりました。
このような操作を半直積と呼び、今の場合は T ⋊ O と書かれます。
これが運動群を表しているのです。
 (記号の兼ね合いによる向きに注意。本当は「 O ( ⋊ の左右反転) T 」のように書きたかった。)

先ほどの直積と違い二項目に一項目の情報が染み出しているのが分かるでしょうか?

このような染み出しが原因で半直積では

(N1 ⋊ N2) ⋊ H N1 ⋊ (N2 ⋊ H)

が等しいかは結構微妙そうなのです。
 N2 が N1 の正規部分群になっているだとか、もう少し弱めて n N2 n^-1 ⊂ N1N2 (n∈N1) とかであれば成り立ちそうですが、一般に成り立つかは私の調べた限りではわかりません。
つまり、最初の結合法則が無くなったので直積と呼ぶんだろうね。というお話でした。


...もう少しオマケしておくと、直積は半直積を抽象化したものですが、これをさらに抽象化した
Bicrossed Product
と呼ばれる概念も存在するらしいです。
ヤン・バクスター方程式に絡む概念だそうで、ただ掛け算の話をいろいろ考えているだけでも結構高級な話まで触れるんだな。

というお話でした。
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