相続登記の義務化とは?

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法律・税務・士業全般
ようやく涼しくなってきました。

秋になると、本をたくさん読みたくなりますし、小説も書きたくなります。
夏の間は書きたいと思っていても、漠然とした構想しかなくて筆が進まないものですが、秋になると輪郭がはっきりしてきて、筆が進むようになるものです。

今日は、小説の話ではなく、法律の話になります。

テーマは、相続登記の義務化です。

令和6年4月1日から相続によって、不動産の所有権を取得した場合は、相続登記が義務化されます。

相続手続きを経験したことがある方は、相続登記は当然のようにやっていた方が多いと思いますが、中には、相続登記をしない人もいます。

不動産のような高額な財産を相続したのに登記しないってどういうこと?
と、驚く方もいらっしゃるかもしれませんが、実は、相続登記をしなくても問題なかったケースもあるのです。

例えば、被相続人(亡くなった方)の子どもが一人っ子であれば、相続登記をしなくても、不動産の所有権は当然その子ども一人だけが承継することになります。

被相続人の配偶者が存命していたとしても、配偶者がその子どもの実親であれば、不動産の法定相続分は、2分の1ずつになりますが、その配偶者も亡くなれば、いずれは、一人っ子の子どもが、すべての持分を相続することになるわけです。親子の仲が険悪でない限り、相続問題は生じようがありません。

そう言うわけで遺産を巡って争いが起きようがないケースでは、不動産の相続登記がなされないこともありました。

ちなみに、不動産の物権変動は登記しなければ第三者に対抗できないのが民法上の原則です。

民法
(不動産に関する物権の変動の対抗要件)
第百七十七条 不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法(平成十六年法律第百二十三号)その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない。

そのため、他に相続人がいないにしても、相続登記をしておかなければ、第三者に対して自分が所有者だと主張できないのではないかと思うかもしれません。

しかし、法定相続分の取得については登記をしていなくても第三者に対抗できる。というのが判例の見解です。(最判昭和38年2月22日)

よって、法定相続人が一人しかないようなケースではそもそも、相続登記をしなくても問題はないわけです。

また、何世代にもわたって、相続登記がなされていないような土地もあります。

例えば、限界集落の奥地にある荒地などは、かつては農地や畑として利用されていたとしても、現在では誰も住んでいないような場合は、相続登記すらなされずに何世代にもわたって相続登記がなされないままに放置されていることがあります。

このように相続登記がなされていない土地は、やがて、「所有者不明土地」となってしまうため、問題視されていました。

そこで、不動産登記法の改正により、相続によって不動産の所有権を取得した場合は、相続人に対して相続登記申請を義務付けることになりました。

不動産登記法
(相続等による所有権の移転の登記の申請)抜粋
第七十六条の二 所有権の登記名義人について相続の開始があったときは、当該相続により所有権を取得した者は、自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、当該所有権を取得したことを知った日から三年以内に、所有権の移転の登記を申請しなければならない。

(過料)抜粋
第百六十四条
第七十六条の二第一項若しくは第二項の規定による申請をすべき義務がある者が正当な理由がないのにその申請を怠ったときは、十万円以下の過料に処する。

相続人は、3年以内に相続登記をしなければならないと定められたわけです。
もしも、相続登記をしなかった場合は、10万円以下の過料に処せられる可能性があります。

3年以内と言う期間はかなり厳しいと思う方もいらっしゃるかもしれません。
遺産整理をするのを忘れていて、気づいた時には3年以上経過してしまっていたら、10万円以下の過料なのと思うかもしれません。

ただ、相続が発生した時点から、直ちに相続登記を義務付けられるわけではありません。

不動産登記法第七十六条の二の条文には、
「自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、当該所有権を取得したことを知った」
とあります。
逆に言えば、
自己のために相続の開始があったことを知らない。または、相続によって不動産の所有権を取得したことを知らない。のであれば、相続登記をする義務は発生しないことになります。

「自己のために相続の開始があったことを知った」というのは、一般的には、被相続人が亡くなったことを知ったという意味になります。
葬儀に参加していれば当然知ったことになりますが、遠方にいて、訃報すら知らされていない場合は、自己のために相続の開始があったことを知ったことにはなりません。
もっとも、遠方にいる場合でも、訃報くらいは知らされることが多いと思いますので、この要件によって相続登記義務を免れるケースは少ないでしょう。

「所有権を取得したことを知った」については、被相続人が亡くなったことによって直ちに知ることができるとは限りません。

具体的な事例で考えてみましょう。

1、被相続人がいくつかの不動産を所有していたことは知っている。でも、どこにあるのかは知らない。

このような場合は、所有権を取得したことを知ったことにはなりません。。
専門書によると、被相続人が土地を所有していた事実に加えて、その地番等も把握している必要がある。と解されています。(Q&A令和3年改正民法・改正不登法・相続土地国庫帰属法267頁)

よって、被相続人が不動産を所有していた話は聞いているけど、どこにあるのか分からず、調べようがない場合は、所有権を取得したことを知ったことにならないため、その時点では、相続登記をする義務は発生しません。

もちろん、後で、不動産の所在地などが分かった場合は、その時点から3年以内に相続登記が義務付けられることになります。

2、被相続人の先祖が所有していた土地が山奥にあるらしい。でも、どこにどのような形で存在しているのか全く分からない。

被相続人の先祖が土地を所有していたものの何代にもわたって、相続登記がなされないままに放置されていたような場合です。
被相続人の先祖は、相続人の先祖でもあるため、相続人もその土地を相続したことになるわけですが、そもそも、先祖が土地を持っていたことを知らなかったり、おおよその場所は分かっても、具体的にどこからどこまでが先祖の土地だったのか知りようがないような場合は、所有権を取得したことを知ったことにならないため、相続登記をする義務は発生しません。

まとめ

令和6年4月1日から相続登記が義務化されます。相続登記の期限は3年以内です。期限内に登記手続きをしないと、10万円以下の過料に処せられる可能性があります。

ただ、期限は相続時から3年で固定されているわけではありません。
被相続人の不動産がどこにあるのか分からない場合や、先祖が所有していた土地については、具体的な所在地が判明した時から3年以内に登記すれば間に合います。

今日は、相続登記の義務化についての話でした。

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