【人工知能の進化に対応した学校教育の変化】教育学部小論文講座(第4回)

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(1)はじめに


「【教育学部小論文】書き方」で書いた通り、学習指導要領が改訂された背景には、AI(人工知能)の飛躍的発展により、シンギュラリティ(技術的特異点(singularity))の到来が叫ばれているなか、AIによる労働代替が進み、人間の労働者がAIに仕事を奪われている事態が実際に起きている。


アメリカでは、アマゾンの棚卸は、現在、AIを搭載したロボットによって行われていて、大量の失業者が発生している。

これは対岸の火事では済まされない。

やがて、日本にも本格的なAIによる業務が進められ、マニュアル化できる労働は、機械に置き換えられる時代が必ずくる。

ディストピアともとれる未来が来る前に、教育の現場でAIに勝てる子どもだちをどのように育てるか、という課題は次第に現実的になる。

今回の愛媛大学の問題は、こうした問題を先取りした形で出題された。

(2)問題・「人工知能の進化に対応した学校教育の変化」愛媛大学教育前期2019年



次の文章を読み,下の(1)(2)について,400字以内で述べなさ

人工知能(AI)の飛躍的な進化により,これまで人間にしかできないと思われていた仕事を,ロボットなどの機械が担う時代が訪れようとしています。それに伴い,学校において獲得する知識の意味にも大きな変化が生じるのではないかと予測されています。

(1) このような時代を生きる子どもたちに,学校教育を通じてどのような力をつけさせるべきだと考えますか。

(2)(1)で述べた力をつけさせるために,あなたはどのような教員を目指しますか。

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(3)参考資料①シンギュラリティとは何か


この問題を考える際に、新井紀子さんの「AI vs 教科書を読めない子どもたち」(東洋経済、2018年)は非常に参考になる。

以下、関係するところを引用させていただきます。

シンギュラリティとは

① AIに関連する言葉として今一番人々の関心を集めているのはおそらくシンギュラリティ(singularity)でしょう。果たしてシンギュラリティは来るのか来ないのか――、などと使われています。数学やAIの専門家ではない人々が議論するときには、シンギュラリティは、〈「真の意味でのAI」が人間の能力を超える地点)といったような意味で語られていることが多いようです。とても漠然としています。そのために、AIがチェスの世界チャンピオンに勝ったとか、プロ棋士が囲碁のゲームソフトに負けたといったセンセーショナルなニュースを耳にすると、コンピューター(AI)が人間の能力を超える、つまり、シンギュラリティが近い将来に訪れるという言説が、リアリティを持って受け止められてしまいます。特に、2017年に佐藤天彦名人を将棋ソフトポナンザが破ったというニュースは日本人に衝撃を与えました。その結果、AIに過剰な期待がふくらんだのではないかと思います。それが、シンギュラリティ到来への不安を増幅させています。

② けれども、将棋ソフトがプロ棋士に勝つことと、真の意味でのAlが人間の能力を、あるいは知能を超えることとはまったく別次元のことです。そもそも、「人間の能力を超える」ということがどういうことなのか、よくわかりません。

③ シンギュラリティのもともとの意味は非凡、奇妙、特異性などですが、AI用語では正確には(technological singularity)という用語が使われ、「技術的特異点」と訳されます。それは、「真の意味でのAI」が、自律的に、つまり人間の力をまったく借りずに、自分自身よりも能力の高い真「の意味でのAl」を作り出すことができるようになった地点のことを言います。1未満の数字はいくら掛け算しても1より大きくなることはありません。それどころか、無限に繰り返すと限りなくゼロに近づいていきます。けれども、1.1でも1.0でも、1.001でも、1を少しでも超える数は、掛け算を続けていくと無限に大きくなっていきます。「真の意味でのAI」が自分自身よりも少しでも能力の高い「真の意味でのAI」を作り出せるようになれば、それをものすごいスピードで繰り返し続けることで、無限の能力を持った「真の意味でのAI」が生まれるのではないか。だから(この「だから」は非論理的ですが)、真「の意味でのAI」の能力が劇的に向上するその地点をシンギュラリティと呼ぼう、というわけです。そのようなコンピューター(「真の意味でのAI」と書くのに疲れました)は当然、なんだかよくはわからないけれども、人間の能力を上回るに違いないと信じる人々が一定数いるのです。

④ 数学者として、私は「シンギュラリティは来ない」と断言できますが、その理由は後に譲るとして、この本でシンギュラリティと言うときには、AIがいくつかの分野において人間の能力を上回るという意味ではなく、厳密な意味での「技術的特異点」という意味で使うことにします。
(出典(『AI vs 教科書が読めない子どもたち』(新井紀子、東洋経済、2018年、P16~18)

(4)参考資料②AIにできない仕事


人間にはAIにできない仕事ができるか?

問われるコミュニケーション能力

① 第1章では、近未来に、労働力、しかもホワイトカラーが担っている仕事の多くで、AIが人間の強力なライバルになる可能性が大きいことを紹介しました。第2章では、かと言ってAIは万能ではなく、人間の仕事のすべてを肩代わりすることは、少なくとも、私たちやその子どもの世代が生きているうちには起きないという見通しを述べました。つまり、迫ってきているのは、勤労者の半数を失業の危機に晒してしまうかもしれない実力を培ったAIと、共に生きて行かざるを得ない社会です。

② AIに任せられることは任せて、人間はAIにはできない仕事だけをすればよい。AIに助けられて生産性は向上するから、今までほど長時間働かなくても豊かに生活できるようになるかもしれない――。そのような薔薇色の見通しを立てる人もいます。けれども、夢やロマンを語れなくて申し訳ありませんが、それは私の未来予想図とかけ離れています。

③ 労働市場へのAIの参入によって仕事が楽になり、私たちが薔薇色の未来を謳歌できるためには、AIには手に負えない仕事を、大多数の人間が引き受けられることが大前提です。では、AIにできない仕事が人間にはできるのか?それが問題です。

④ 第2章で見てきたとおり、AIが苦手とすることで、人間には簡単にできることはたくさんあります。「先日、岡山と広島に行ってきた」と「先日、岡田と広島に行ってきた」の意味の違いが理解できないのが不肖の息子東ロボくんであり、今日のAIです。けれども、仕事として考えたときはどうでしょうか。AIにできない仕事は、多くの人にとって簡単にできる仕事でしょうか。

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⑤ もう一度、オックスフォード大学の研究チームの予測を見てみましょう。今度は、10〜20年後にも残る仕事です。表3-1に示します。1位:レクリエーション療法士、2位:(機器の)整備・設置・修理の第一線監督者、3位:危機管理責任者、4位:メンタルヘルス・薬物関連ソーシャルワーカー、5位:聴覚訓練士、6位:作業療法士……。

⑥ いかがでしょう。できそうな仕事はありましたか? もちろん、あると思います。胸をなでおろしましたか? 気が早過ぎます。自分にできそぅな仕事があるかどぅかは、自分にとっては大きな問題ですが、社会にとってはそうではありません。社会にとって重要なのは、AIに今の仕事を奪われた人の大半が、リストにあるような仕事に、あるいはAIの登場によって創造される、これまでにはなかった、AIにはできないけれども人間にはできる新たな仕事に転職できるかどうかです。そうでなければ、多くの人が失業してしまうからです。そんなことになったら、社会は大混乱です。その影響は、職を失わなかった人にも及ばないはずはありません。可処分所得の中央値が劇的に下がれば、今までのようにモノやサービスを購入できなくなるでしょう。そうなればパティシェや美容師など、AIに代替されない仕事にまで影響が拡大するからです。安心している場合ではありません。気が早過ぎるというのは、そのような意味です。

⑦ 「残る仕事」の共通点を探してみると、コミュニケーション能力や理解力を求められる仕事や、介護や畦の草抜きのような柔軟な判断力が求められる肉体労働が多そうです。AIでは肩代わりできなさそうな仕事なのですから当然ですが、それは第2章で見てきたAIに不得意な分野と合致します。つまり、高度な読解力と常識、加えて人間らしい柔軟な判断が要求される分野です。

⑧もう少し詳しく説明すると、AIの弱点は、一万個教えられてようやく一を学ぶこと、応用が利かないこと、柔軟性がないこと、決められた(限定された)フレーム(枠組み)の中でしか計算処理ができないことなどです。繰り返し述べてきたとおり、AIには意味がわからない」ということです。ですから、その反対の、一を聞いて十を知る能力や応用力、柔軟性、フレームに囚われない発想力などを備えていれば、AI恐るるに足らず、ということになります。では、現代社会に生きる私たちの多くは、AIには肩代わりできない種類の仕事を不足なくうまくやっていけるだけの読解力や常識、あるいは柔軟性や発想力を十分に備えているでしょうか。常識の欠如した人が増えてきているのは嘆かわしいことですが、大半の人が持ち合わせていなければ、それはもはや常識とは言いませんから、常識や無意識の人間らしい合理的判断は大半の人が持ち合わせていることにしておきます。問題は読解力を基盤とする、コミュニケーション能力や理解力です。
(出典(『AI VS 教科書が読めない子どもたち』(新井紀子、東洋経済、2018年P168~172)

AIにできない仕事は、「コミュニケーション能力や理解力を求められる仕事や、介護や畦の草抜きのような柔軟な判断力が求められる肉体労働」、「高度な読解力と常識、加えて人間らしい柔軟な判断が要求される分野」と新井紀子さんは述べています。


新井先生は「東ロボくんプロジェクト」でAIに大学入試問題を解かせて東大合格を目指す試みをしています。

現在では模試でMARCHレベルに合格できる偏差値を叩き出すとことまで進化しているそうですが、教科によってなかなか伸びない教科があるそうです。

それは、英会話で、小学生にもわかるような常識をAIに理解させることが難しいということです。

私たちの会話では、言わなくてもわかる部分(「暗黙知」)はふつうは省略して会話が進んでいきます。

AIは会話の前提となる膨大な知識や背景がわからないばっかりに、トンチンカンな回答を繰り出すのだそうです。

ほかにも機知に富んだ会話がAIにはできません。

ある表現が反語かそうでないのかを理解できない。

これは文脈や相手の表情やしぐさ、性格などを読みとって、私たちは日常会話の中で、あいての発言が反語か否かを瞬時に判断しています。

たとえば、ビジネスの営業の現場でも、このような相手の行間を読んだり、言ったことではなく言わなかったことが実はとても大事だったりというようなことを汲み取るスキルを実践的に身に着けているのです。

学校教育の現場では、対話によるコミュニケーションが重要視されるのは、このような理由によるものです。


この問題の解答解説はオンライン個別授業を受講されている方にお配りしています。




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