一度目の休職⑤

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自分の非を認めず虚勢を張る

新人はベテランのDさんが面倒を見ることになった。
普段から温厚で面倒見の良いDさんだったが、平穏に過ごすことは難しかった。
少し離れた場所で働く私にも聞こえる大きな声と、明らかな険しい表情は、何が起こっているのか一目瞭然だった。
“バカ小僧”
三日目からDさんは新人の事を、そう呼んでいた。

ある日の事、Dさんと新人、私が倒れた時に真っ先に駆け付けてくれたE君が、作業場の床を見ながらウロウロと徘徊している。
聞けば、機械の部品を紛失してしまい、皆で探しているとの事だ。
30分ほど経過してE君が持ち場に戻ってきたので、見つかったのか聞いてみると、耳を疑う返答か返ってくる。

それぞれの持ち場には、日報を記入する為の小さな机が置いてある。
紛失していた部品は、その机の上に置いてあったそうだ。
通常、机は日報などの事務作業をする為に使用するので、機械の部品を置いたりすることはない。
そんな、あるはずのない所に部品があった為、三人がかりでも探すのに30分もの時間を要したのだ。

その部品を外したのは新人だ。
DさんもE君も、新人が作業に慣れてないから、本来しないような動きをした結果、うっかりそこに置いてしまったのだろうと思った。
「次は気を付けます」気の良い二人はそれで済ませるはずだった。
しかし、新人から出てきたのは理解しがたい言葉だった。
「部品が転がってツヅキさんの作業場まで転がっていったもんで、見つけたツヅキさんがこっそり置いといてくれたんですかね?」

「そうそう、コレコレ、この感じ…」
自分の非を認めず、相手に虚勢を張る、この感じ。
私が舐められていたのではない。
やっぱり、そういう生き方の人なのだ。
気持ち悪さと、安堵の気持ちの入り混じった心で、その話を聞いていた。

季節は流れ、秋になっていた。
“半年で一人前”
新人を任される教育係が、必ず言われるスローガンだ。
その半年を二ヶ月オーバーして、新人は作業をひとりする事になった。
一人前になったのではない。
ひとりで作業をやらせることになっただけだ。
Dさんの新人の評価を聞けば、そう思わざるを得なかった。
上司Aは、Dさんから新人の評価を聞いて、上司Cに「まだ早いのでは?」と進言したが、「それをなんとかするのがお前の仕事だろ!」と決まり文句で一喝されたと私に愚痴を言いにきた。
「0→1にするのが仕事だろ」と言ってやりたい気持ちを抑えて「上司Cは解ってないよね~」と適当に話を合わせておいた。
言われてから半年が経過していたが、恨みの心は色褪せていなかった。

Dさんの失敗を望んでいた私だが、突然の代役を引き受け、あの新人を相手に4ヶ月もの間、教育係の役目を果たしたDさんには、本当に感謝の気持ちしかなかった。
そんな心優しいDさんがいなくなってしまうことで、それまで表面化していなかった問題が表面化してしまう。

私とDさんが8ヶ月にわたって訴えていた新人の問題点。
その問題点を放置したツケを払うことになったのは、あの日、私にしたり顔で新人教育論を話していた上司Aだった。

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