ウルスラの苦悩

記事
コラム




 皆さんは、アニメ「魔女の宅急便」をご覧になったことはありますか?




 原作は、角野栄子が書いた小説で、宮崎駿が監督したスタジオジブリの映画です。この映画、アニメ映画と侮るなかれ、モノづくりしている人誰しもが直面する葛藤を描写していて、共感を抱かずにはいられません。大人になって改めて観ると、そのシーンで震えるほど心理描写も細かいです。



 その「葛藤」とは、キキが箒で飛べなくなってしまう、魔法が使えなくなるという局面です。宅急便事業も軌道に乗り始めたころ、キキは突然魔法を見失ってしまいます。あの時の、箒で何度も飛ぼうと暗い夜道で何度も練習する様は、見ていて心苦しくなります。キキの焦りや不安が、手に取るように伝わってきます。


 そんなスランプに陥ったキキに、言葉をかけてくれたのが、絵描きのウルスラでした。彼女は、森の中の小屋に一人で住み、絵を描いて暮らしています。キキが、ある日お届け物を落とした時に、そのぬいぐるみを拾ってくれた優しい人物でもあります。


 ウルスラがキキに語り掛ける言葉には、「作る人」の苦悩を、誰しもが通ることを教えてくれます。二人で川の字になって話す所が、その印象的なシーンです。細かいセリフは本編で各自確認いただくとして、キキが飛べなくなったことを話すと、彼女はこんな事を語り始めました。


 「魔女にもそんなことがあるんだね。絵描きにもあるよ、私にも描けなくなる事があったんだ。何を描いても気に入らなくて。それまで描いていたものが、誰かの真似だってわかったんだね。」


 「誰かの真似」というのが、私の胸に刺さりました。そうです、私も絵を描いていて同じような事を、感じた事がありました。描けなくなってしまうことは、何度もありました。自分が描いたものなのに、どこかよそよそしくて、伝えたいことさえ分からなくなった時です。私も画面を観ながら、キキと一緒になって、ウルスラの言葉を待ちます。


 キキは、その言葉を聞いて思わず「そんな時はどうするの?」と、解決策を尋ねます。

 ウルスラは「そんな時は、描いて描いて、描きまくる!」と答えます。

 キキはさらに不安になったのか、「それでもダメだったら?」と畳みかけます。

 ウルスラは笑って、「そんな時は、絵を描くのをやめる」ときっぱり言い放ちます。

 ウルスラは知っていたのです。自分の殻を破るには、時には身を自然に委ねて、過ぎていくのを待つしかないという事を。焦っても、「自分の絵」が描けないという事。きっとウルスラも、キキのように辛い局面があったのです。しかもそれは、また訪れるかも知れないスランプです。それでも彼女は、絵を描くことを辞めません。それは彼女が「絵を描く」事が、人生の中での生きる喜びであり、使命であると貫いているからです。描くことが、彼女のアイデンティティだからです。



 自分の「やるべきこと」がわかっている人は、果たしてこの世の中に何%いるでしょうか。私は美術を勉強しながらも、ずっと何かが足りないと思っていました。油絵を描いても、工芸で皿を作っても、「自分」というものが、作品の中に見えてこないのです。ウルスラが言っていたのは、「自分が果たすべき絵描きとしての役割」を求める事だったのではないでしょうか。目的は「描く」それ自体ではなく、「描く」ことで「自己」を表現するのが人生の目標なのです。でも、それが難しいから、描き続けているんだと思います。



 私は、オーダーメイド絵本を作っていますが、それは「絵本」を通して、他者と繋がりたいからです。あなたの物語を作ることで、私も世界を知ることが出来ます。私はこれから、何冊のお話を紡げるのか、何人の人と出会えるのか、それがいま一番の楽しみです。



今日のお話はこの辺で。また、私とおはなししましょう。



Copyright 2022 Chihiro Egoshi





サービス数40万件のスキルマーケット、あなたにぴったりのサービスを探す