第二回 美術探訪 ~「落穂拾い」の真実~

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 山梨県というと、あなたは何を思い浮かべますか?




 大抵の人は、富士山があると返答されると思いますが、山梨県にはかの有名なミレーの《種をまく人》があります。おそらく、題名はご存じないまでも、美術の教科書には必ずと言っていいほど載っていますし、どこかのメディアご覧になった事がきっとあると思います。

種まく人.jpg
ジャン=フランソワ・ミレー
《種をまく人》
1850年 油彩・麻布 99.7×80.0cm 山梨県立美術館蔵
山梨県立美術館HPより画像・キャプションともに引用





 山梨県立美術館は、これ以外にも多くのミレー作品を収蔵しています。ミレー館と称して、専用のコレクションルームもあり、その収蔵作品の豊かさに驚かされました。地方の美術館に、しかも地元ではなく、海外の1人の作家の作品を豊富に持っている例は、私は初めて目にしました。しかも、どれも美術の教科書に載っているようなものばかり。広い美術館の中で、そのコレクションルームはひと際輝いて見えました。




 中でも、私がその絵の前で立ち尽くしたのは、ミレーの《落穂拾い、夏》でした。これも有名な作品で、「日本にこの作品があるのか」と一番驚いた作品です。どうやら《落穂拾い》には、季節ごとにいくつかバージョンがあるらしく、山梨県立美術館はそのうちの1点の「夏」を収蔵している、という事でした。上記の《種をまく人》よりも画面が夕焼けで明るく、穏やかな雰囲気さえあります。

落穂拾い、夏.jpg
ジャン=フランソワ・ミレー
《落ち穂拾い、夏》
1853年 油彩・麻布 38.3×29.3cm 山梨県立美術館蔵
山梨県立美術館HPより画像・キャプションともに引用




 それにしても、目の前でまじかに観れる贅沢。これが、美術館の鑑賞の醍醐味です。一つ一つの作品をじっくりと観ていくのも楽しいですが、私は気に入った作品をとことん見つめます。画家が絵と向き合った膨大な時間と比べれば、一瞬なのですが一筆のタッチを追うように見ていくと、ファーストコンタクトだけでは気づかない事が絵から伝わってきます。




 しかも山梨県立美術館のキャプション(絵の解説)は、かなり親切に小さなことまで細かく解説されていました。私が衝撃だったのは、《落穂拾い》は、農家の農作業の風景ではないという事でした。画面の三人の女性は、農民ではなく貧しい階級の人です。そんな貧しい人のために、農民はわざと稲刈りの際に少し稲の穂を畑に残します。それを拾っている場面が、この《落穂拾い》だというのです。



 その解説文を読みながら、私は農民でなく、このような貧しい人にスポットを当てたミレーに敬服しました。穏やかな色調の画面とは裏腹に、ミレーが生きた時代の苦しさを描き抜くという姿勢が、画家としての使命を物語っています。絵の面白いところは、その時代の人々の生き様がありありと伝わってくるという事です。




 今、私たちが生きている時代は、未来にはどんな姿で伝えられるでしょうか。インターネット通信が発達し、一瞬で何もかもが行き来するシステムがある中、時間をかけて作品として残すのは、どんなものが生まれていくのでしょうか。その答えを、こうして描き続けている私を始め、色んな作家が探求しているのです。




今日のお話はこの辺で。また、私とおはなししましょう。


Copyright 2022 Chihiro Egoshi







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