「図書館で本をお借りしました」は正しい? ~謙譲語には2種類ある話~

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 今日は「謙譲語は2種類ある」というテーマでお話ししていきます。
 日本語学校で先生が留学生に聞きました。「昨日は何をしましたか」
 ある留学生が先生に対して話すときは丁寧な言葉を使わなければならないと思って、このように答えました。
(1) 昨日、図書館で3冊本をお借りしました。それから、寮にお帰りして、晩ご飯をお作りしました。

 この留学生の表現は正しい敬語でしょうか。残念ながら、正しい敬語になっていません。なぜ正しい敬語ではないのですか。
 この留学生は「お手伝いします」とか「お茶をお入れします」のような「お~します」という敬語を勉強したことがあるので、先生と話すときには敬語を使わなければならないと思って、このような答え方をしたのだと思います。ただ、「お~します」は行為の相手に敬意を表す表現なので、先生に本を借りた場合は正しい敬語になるのですが、図書館で本を借りたことを先生にただ伝えるという場面では正しい敬語になりません。
 どういうことでしょうか。もう少し詳しく説明します。

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 「お~します」を使う時は、「お客様のために何かをする」とか「目上の人に対して何かをする」という場合に行為の相手であるお客様や目上の人に敬意を表す表現です。たとえば、この絵のようにお客様に「お茶をお入れしましょうか」と聞くのはお客様のためにお茶を入れるという意味だからです。つまり、行為の相手がお客様なので、「お~します」という表現を使います。「タクシーを呼ぶ」も同じです。行為の相手に敬意を表す場合に「タクシーをお呼びします」を使います。もし自分のためにタクシーを呼んだのなら、「タクシーをお呼びしました」とは言いませんよね。ただ、「タクシーを呼びました」「タクシーを呼んだ」と言えばいいんですから。

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 ちなみに、「お~します」以外にも「ご~します」の形があります。たとえば、「お客様をご案内します」とか、「会議で私がご説明します」という場合です。いつ「お」を使って、いつ「ご」を使うのかわからないという人は、漢字2字の言葉の場合は「ご」になるという原則を覚えておいてください。つまり、漢語の場合は「ご」になって、和語の場合は「お」になるということです。ただ、例外もあるので結局は覚える必要があるのですが、漢字二字の名詞なら「ご」の可能性が高いので、例外的に「お」になるものを中心に覚えると良いと思います。
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 ここまでで、「お~します」「ご~します」は行為の相手に敬意を表す表現ですよというお話をしてきました。「図書館で本を借りる」は先生が行為の相手ではないから、「お借りします」を使うのはおかしいです。行為の相手がいない場合は「お~します」「ご~します」を使うことはできません。このようにお話してきました。
 では、もう少し話を深めて、敬語の分類を使って、このことを説明していきます。敬語は大きく分けると3つに分類できます。尊敬語と謙譲語と丁寧語です。もう少し詳しい分類をすれば、謙譲語と丁寧語はそれぞれ二つに分かれるので5つの分類になります。
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 例文を見てください。「(1)レジ袋はご利用になりますか」これは、どのタイプの敬語ですか。コンビニでお客様に「ご利用になりますか」と聞いているので、主語はお客様です。ですから、(1)の「ご利用になります」は尊敬語ということになります。「(2)係りの者が社内をご案内します」は謙譲語です。謙譲語の中でも謙譲語Ⅰというタイプになります。謙譲語は1とⅡに分けられるのですが、どう違うかと言うと、行為の相手がいるかどうかです。つまり、謙譲語Ⅰは行為の相手に敬意を表す敬語ですが、謙譲語Ⅱは聞いている人に敬意を表す敬語です。「(3)3番線に電車が参ります」は「電車が来ます」という意味ですが、行為の相手はいません。聞いている人に敬意を表すために「参ります」という形を使っています。ですから、今日最初にお話しした「お~します」「ご~します」は謙譲語Ⅰと言うことになります。「本をお借りします」とか「お茶をお入れします」は行為の相手に敬意を表す敬語なので、必ず行為の相手がいます。最後に、「(5)私は大学一年生です」の「です」は丁寧語と言うことになります。丁寧語の中に美化語というものもありますが、これは「弁当」を「お弁当」と言ったり、「住所」を「ご住所」と言ったりするようなタイプの敬語です。言葉を美しくするという意味で「美化語」と言われます。  
 敬語の分類の中で、今日、特にお話ししたいのは、謙譲語の中には2種類あるということです。

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 謙譲語Ⅰは行為を受ける相手を高める表現なので、必ず行為の相手がいる場合に使います。「おばあさん、お荷物をお持ちしますよ」という場合には「持つ」行為の相手であるおばあさんに敬意を表しているということになります。それに対して、謙譲語Ⅱは行為を受ける相手ではなく、聞き手に敬意を表します。「はじめまして。山田と申します」の「申します」とか、「よろしくお願いいたします」の「いたします」は聞き手に対して敬意を表しているので、謙譲語Ⅱということになります。
 日本語の敬語は、行為の受け手に対して敬意を表す表現がありますが、他の言語にはこのようなタイプの敬語を持たない言語もあります。

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 例えば、英語にも丁寧な表現はありますが、英語では必ず聞き手に対する丁寧さによって表現が変わります。日本語のように文の主語が目上の人だから尊敬語を使うというような使い分けはありません。 
 英語のように聞き手に対する敬語は「対者(たいしゃ)敬語」と呼ばれます。それに対して、文の主語や目的語、つまり、「~が」の部分が「先生が」なのか「私が」なのか、「~に」の部分が目上の人なのか目下の人なのか、などの文の素材によって表現を使い分けるような敬語は「素材(そざい)敬語」と呼ばれます。

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 最初にお話しした留学生のような間違いは、対者敬語しかない言語の人が間違いやすいです。敬語と言えば、いつも聞き手に対して敬意を表すものだと考えてしまうと、日本語ではそうではないので、間違いにつながってしまう場合があります。日本語では「~が」「~に」「~を」など文の中に出てくる人が重要になります。「先生がおっしゃいました」は文の中に先生が出てきます。先生が主語なので、尊敬語「おっしゃいます」を使います。謙譲語Ⅰを使う場合は、主語が目下の人であるだけでなく、「~に」とか「~のために」の部分に目上の人が出てくるかどうかも重要になります。「お年寄りに」という場合は「席を譲る」という行為を受ける人がお年寄りで、お年寄りに敬意を表そうとして「お譲りする」という形を使います。
 今日は、謙譲語には2種類あるというお話をしました。行為を受ける相手がいるかどうかを考えて、謙譲語Ⅰの表現を使うようにしましょう。

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