「出題する」は自動詞ですか他動詞ですか? ~二字漢語動詞の自他はやっかいな問題~

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 最近のレッスンで韓国人学習者の方からこんな質問がありました。「日本語能力試験に『出題する』という動詞が(1)のような受身の形で出てきましたが、韓国の日本語の辞書に『出題する』は自動詞だと載っていたので受身形にできると思いませんでした。辞書が間違っているのでしょうか」というものです。
(1) 今回の試験は非常に難しい問題が出題された。

 この問題は、張(2010)という論文にも取り上げられていて、「出題する」「受診する」など国語辞典には自動詞と表記されているが、目的語をとって他動詞として使われるものがあると指摘されていました。確かに、(2)のように「受診する」も目的語をとって他動詞として使われる場合があります。
(2) 新型インフルエンザの感染拡大を受け、症状がないのに医療機関を受診するケースが県内でも相次ぎ、医師らが対応に悩んでいる。
                         (張2010、p.155)
 私の手元の辞書を調べてみると、そもそも自動詞か他動詞かが明示されている辞書が少なく、『明鏡国語辞典[初版]』(大修館書店)だけは記載がありましたが、「出題する」は自他両用、「受診する」は自動詞と書かれていました。(その他に調べた辞書は、『大辞泉[第二版]』『日本国語大辞典[第二版]』『例解新国語辞典[第五版]』です)質問者の持っている辞書が間違っていると言えるのかどうかはわかりませんが、辞書に自動詞と記載されていても他動詞の用法を持つ動詞が存在することは確かのようです。

 張(2010)では、「出題する」「受診する」のように自動詞のような意味を持ち、辞書に自動詞と書かれている語が他動詞の用法を持つ場合の条件として、以下の3つを挙げています。ただし、二字漢語動詞が「(題)を出す」「(診)を受ける」のように「V(動詞)-N(名詞を)」の意味関係になっている動詞に限ります。

① 二字漢語VNのNと目的語となるNが全体と部分の関係になる場合
(3) 全科目で選択問題を出題する。
  →「選択問題」は「題(問題)」に含まれる
(4) 芥川賞を受賞する。
  →「芥川賞」は「賞」に含まれる
(5) 政府が公的資金を出資する。
  →「公的資金」は「資(金)」に含まれる
② 二字漢語VNのNが目的語となるNに所属する関係になる場合
(6) 顔を整形する。
 →「顔の形」となるため、「整形」の「形」は「顔」に所属する
(7) 残った料理を保温する。
 →「料理の温度」となるため、「保温」の「温」は「料理」に所属する
(8) 前副大統領を除名した。
 →「前副大統領の名(前)」となるため、「除名」の「名」は「前副大統領」に所属する
③ 目的語が二字漢語VNのNの行為が行われる場所を表す場合
(9) 医療機関を受診する。
(10) 皮膚科を受診する。
 →「医療機関」や「皮膚科」は「診(察)」を行う場所を表す

 冒頭の質問を受けて、「辞書に例文がありませんでしたか」と聞いてみたところ、「難問を出題する」という例文の記載があったようです。自動詞か他動詞かが判断できない語に出会ったら、辞書の自動詞か他動詞かの記載を参考にするより、実際に使われている例文を参考にすると良いと思います。
 しかし、二字漢語動詞は1万語以上あるそうで、それらについて一つ一つ自動詞か他動詞かを確認しろというのは酷な話かもしれません。今回は、二字漢語動詞について述べていますが、二字漢語動詞に限らず、ある動詞が自動詞か他動詞かを学習者が判断することは、どんな動詞でも難しいのではないかと思われるかもしれません。では、なぜ特に二字漢語動詞が問題となるのでしょうか、そして、どう対策したらよいかを考えてみます。

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