「食べない」という1人ストライキ。

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コラム
私の勤める特別養護老人ホームにご入居されている方が、もう何日も食事をロクに食べていないと問題になりました。

食事以外にもいろいろと拘りがあるご入居者様ですが、施設にご入居された時も食事を食べないことがあり、入浴できない日が長く続いたこともありました。

ご入居から数ヶ月経ち、食べる時もあれば食べない時もあるといった状態ではありましたが、体重も増えてそれなりに安定しているようでしたが、
ここに来て、施設で出される食事は美味しくない食べたくないと言われ、食事を拒否し始めたようでした。

美味しくないと食事は拒否していましたが、甘い栄養補助飲料は飲んでいて、少量の栄養は補給されていました。
栄養補助飲料はもちろん口から摂っていますが、言ってみれば胃ろうや腸ろうなどから栄養剤を入れる経管栄養と変わらないような栄養状態でした。

そしてつい先日、低血圧で病院受診となり、その日のうちに点滴をしながら戻ってこられました。

食べられなくなったその方について、施設の相談員が言いました。

「あの人の考えてることはわかるのよ。ストを起こしてるの。食べなければ家に帰れると思ってるのよ。」

あーなるほど。
と思いました。

個室のユニット型でプライベートがある程度守られる特別養護老人ホームといえども、そこは集団生活の場。
何も分からなくなった認知症までいってしまえば多くを感じないのかもしれませんが、
それなりにクリアな方の場合は、ある程度環境を受け入れられる方でないと苦しむことになることは、皆さん何となく想像できるかと思います。

食事を食べない自己主張は、この施設にいたくないという主張です。

自分が受け入れたくない「この施設から出される食事を食べて生きる」ということは、「この施設を受け入れることになる」ということなのでしょう。

この考え方は、まさに私が経てきた「拒食症」だと思いました。

拒食症の人は、対象とする何かに対して身体を張って1人ストライキを起こしているんですよね。

対象とする何かは人それぞれです。
私は、「高校生活と高校時代の人間関係」
そして「母親」に対してストライキしていました。

食べずに痩せることで、主張します。

「私はあなた達とは違うし負けない、屈しない。」
「これからは、私を見て私を愛して私を守って」

拒食症は痛々しいほどに痩せ細り、風が吹けば飛んでいってしまいそうなか細さで、誰もが心配する姿ですが、
その外見とは裏腹に、メンタルは物凄く頑固になります。

本当は弱い自分を隠すために、自分の「痩せてやる」という思いを曲げず、
「痩せてやる」という自分の思いを守るための強さといったら、
端から見たら「どうかしてる」「異常者だ」というくらいにガチガチに固められた強力なものです。

本人にはその気がなくても、
自分の身体を張って、命を削って主張できるということは、そんな強さがあるのです。


大昔の食事は、今のように季節問わず食べ物が捨てるほど豊富に手に入る状態になかったので、
食べることは、シンプルに「生きるためのもの」だったのでしょう。

その土地で採れるものが、その地に住む人間に見合った作物だというのも、自然の恩恵なのでしょう。(例えば寒い土地では脳血管障害が多いので、長野・岩手などでは良質な脂質を含むクルミが採れます。)

時代が変わって現代は、食事の意味合いがとても多様になりました。

食事は楽しみになり、
円滑な人間関係の役割として役立ち、
食の写真を使いアピールの場として、
自分のパフォーマンスを上げるための手段として、などなど・・・。

そして、
これら食事の意味合いの1つとして、
「食による主張」も含まれるのかもしれません。

私たちは豊かさを得て、
食事を「生きるため」から、複数の意味合いに変化させてきました。

食事を「食べない」ことでストライキを起こす、自己主張することは、
食事を十分に食べられる状況にあることに間違いはなく、十分に豊かであるためです。

豊かでなければ、貧しければ、
食べることはシンプルで、
食事に複数の意味合いが生まれることもありません。

何度も書いていることですが「拒食症」は豊かさから生まれた現象なのです。


日本は豊かですよね。
プラスチックを買っているのかお菓子を買っているのかわからないほど過剰ともいける綺麗なプラスチック個包装はそのままに、
どんどんサイズや容量が小さくなっていくお菓子や、値段が上がっていく商品を購入するたびに、
なんだかんだ言ってこの国は豊かなんだなと感じてしまいます。

けれども、
そんな過剰包装をゴミ箱に捨てるたびに、
毎日命の危険にさらされて、
食べるものも飲み水もなく、
生き延びることに意味など見出せないような状況にあるような人々がいることを、
しっかり認識しなくちゃいけないなと感じています。


今回も最後まで読んで頂き、ありがとうございました。

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