〜これは、私ではない「誰か」の今日を綴ったストーリー短歌です〜
大学3年生の秋、僕達は出会った
出会いは運命的
僕が気に入って、毎週のように通っていたブックカフェの、いちょう並木が見渡せる窓側の席で、僕らは偶然同じ本の上巻と下巻を読んでいた
上巻を読んでいた僕は、下巻を読んでいる彼女が本の中間を過ぎたあたりのところで、涙ぐんでいるのを見てしまった。
それは、きれいな涙だった・・・
見惚れていた僕に気づいた彼女は、涙を拭いもせず
「たぶんあなたも泣いちゃうと思うよ」と泣き笑いの表情で言った。
僕らはそんな出会いをした。
彼女と付き合って半年が過ぎた7月
それぞれの希望した会社に就職した僕らは、以前のように頻繁に会うことができなくなっていた
LINEの既読がつくのが遅くなったし、既読がついてからの返信もすぐに来なくなった。
それは僕も同じ。
お互いさまだった
こうやって恋は終わっていくものなのだろうか
そんなことを考えていた、静かに雨が降る初夏の夜・・・
彼女が傘もささずに、僕の家の前に立っている
僕には状況がつかめなかった
目の前の彼女は、7月の雨に濡れ少し震えていた
その目には、あのときのようなきれいな涙が光っていた
僕は考える間もなく彼女を抱きしめる
会えなかった時間も、返信の遅いLINEも
そんなことはどうでもいい
大切なのは、「僕は彼女が好きだ」という事実
僕の背中に回された彼女の腕は、震えていたけれど温かかった
そんな僕の今日の短歌