AI時代の泳ぎ方⑩ 妄想力というスキルの身につけ方

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ビジネス・マーケティング
このブログの2回目で「思考の生産性を上げる方程式」をあげました。

おさらいすると、
思考エンジンのパワーアップ×思考の段取りの可視化=思考の生産性アップ
でしたね。

で、思考エンジンには3つあって、①Why?と問う力、②因果を見極める力、③妄想の力 
があります。
いずれも、人間の本能なので、それを解き放とうと述べました。

今回は、思考エンジンの一つ「妄想の力」に焦点を当てて、その生産性アップの方法を紹介したいと思います。

妄想力をビジネススキルと捉えてみる

私は、人間の妄想力はこれからのビジネスに重要な要素になってくると思っています。

背景は、AIが浸透し、産業構造がガラッと変わろうとしているからです。
市場がガラリと変わる時、市場を創り直す時に、妄想が威力を発揮すると考えているのです。

こういう時代には、必ずそれを牽引する人が必要です。経営者であれ、個人であれ、これからどうなる、だったらどうしたいという思いを明確に打ち出す人がいないと推進力が生まれないからです。

今、まさにそのような時代であり、いわゆるリスキリングが問われていますが、敢えて言えば、そもそもの立ち位置として、妄想力を身につけることが、リスキリングの一丁目一番地だと思います。

日頃から妄想を鍛えておくことで、その人の価値を発揮しやすくなる時代とも言えるでしょう。

妄想には2種類ある

妄想には、2種類あることを自覚しましょう。
一つはフィクション系妄想です。
現実的にはあり得ない類の妄想です。
小説や映画、日本人の大好きなアニメやラノベなどです。

もう一つは実現可能系妄想です。
今は妄想だけど実現可能なものです。
スティーブジョブズが、人間の創造作業(クリエイティブティ)をエイドする道具をつくりたいと考え、マックというパソコンを考えたのはその一例です。

で、ここでは後者の類の妄想の鍛え方を考えてみます。

結論は「だったらいいな」を可視化すること

いきなり結論ですが、日頃から「だったらいいな」と考え、それを文字や図に落とすことです。

これはブログの5回目「妄想の力」でも述べたことですが、要は、人間にはそういう本能があるのだから、それを丁寧に救おうよということです。

とは言え、どうやって?と思われる方もいらっしゃるでしょうから、2つのヒントを示しましょう。

生活者発想

一つ目は生活者発想です。これは私の前職、博報堂が1980年代から掲げているフィロソフィーです。

文字通り、生活者の視点や発想を大事にしようという考え方で、人間の生活を365度、丸ごと俯瞰して見ることによって、その奥底にあるものが見えてきたり、その先を読めたりするメリットがあるということです。

ちなみに、消費者という概念は、消費という視点で捉えている時点で正しくない、だから生活者であるべきということです。
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博報堂には、生活総合研究所という組織があって、ここでは50年近く、生活者を観察したデータやその結果アウトプットを見ることができます。

最近の彼らが発信したバズワードで言えば、「消齢化」があります。

簡単に言うと、昔は年齢による価値観やライフスタイルの違いというものがあったが、今はそういったものが消えつつある。例えば、カラオケの年代別ランキングを時系列で見ても、年代による差がなくなってきていることが伺われる
というもの

で、この生活者発想ですが、皆さんに置き換えても十分できることですよね。何のことはない、自分の身の回りを見つめて、そこから思ったことをきっかけに妄想しようということだからです。

普段、自分の仕事に忙殺されており、そこに捉われ視野が狭くなっている自分がいませんかという戒めの意味もあります。

凹凸法

もう一つのメソッドは、「凹凸法」(おうとつ法)です。

これは私が命名したもので他にはありません。
どういうメソッドかと言うと、凹は自分が気分がへこんだ瞬間、あるいは逆に気分が上がった瞬間を捉え、なぜへこむのかを考え、なぜ上がるのか、じゃあどうしたらいいかを考えようという習慣です。
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          気分が落ち込む・上がるの瞬間を捉える

例えば、飲み過ぎて電車を乗り過ごしてしまい、落ち込んだ時、「ああ、こうすれば良かった」と誰しも思いますね。
その際の解決法は様々あるでしょうが、例えば、乗り過ごしを起こさせない機能付きのスマートウオッチがあり、最寄駅に近づいたら、そこからポッチが出て痛いくらい手首をプッシュするという妄想をするわけです。

一方、凸は気分が上がる瞬間を考え、それがなぜかを考えながら、色々な妄想が膨らませる方法です。

例えば、あなたが会社の納涼会企画担当で皆に参加を促したのだがどうも反応が良くない。
でも一旦参加すれば、皆気分が上がって日頃の憂さも晴らせるし、その後会社でもいい雰囲気を作れるはず、とあなたは妄想します。
なので思い切って社長による参加督促メールをお願いした結果、いやいやながらも多くの社員が参加してくれた。
実際、会を開いてみるとは、時間が経つと最初浮かない顔をしていた連中もどんどん上気し盛り上がっている。
担当としてホッとしたと共に、なぜ皆の気分が上がるのか改めて考えてみた。気づいたのは、リアルのコミュニケーションの場がなかったということ。普段はリモートが多くそういう場が意外に少ない、というかなかった。
人間それでも全然平気と構えていても、いざリアルでそういう場があると、実は今まで溜まっていたものを吐き出せる効果があるんだと改めて気づいた。

生活者発想、凹凸法のいずれにしても、自分の気づきや思いをしっかりメモしておくことが肝要です。
こういった日常の些細な気づきは、次にはすっかり忘れてしまうものだからです。
6回目のブログ「思考の生産性アップの決め手思考メモ」で詳述しました。

妄想には楽観バイアスが働いている

実は、妄想には楽観バイアスというものが働いています。
楽観バイアスとは認知心理学の言葉ですが、要は、何事も楽観的に見ようとする人間の習性で、システム1(直観思考)の特徴の一つです。

よく上げられる例としては、プロジェクトのスケジュール管理。
当初は、いついつまでにこれこれを仕上げると予定していたものの、そこには楽観があり、現実には色々な予期せぬ困難が発生して、スケジュールがずるずると遅れてしまうケースが頻発します。

で、妄想もそういう面があるということです。
でもそれでもいいのです。
楽観が前提だからこその妄想であって、この時点では直観思考でも構わないわけです。

でも、ビジネスでの目線に落とし込むためには、妄想の解像度をさらに上げる必要があります。

妄想を分解しフォーマット化

ビジネススキルとは、知的作業の解像度を上げることから始まります。
なので、冒頭の方程式の後半にあった「思考の段取りの可視化」に焦点を当ててみます。

つまり、「妄想という思考の段取りの可視化」をしてみましょう。

ざっくり言うと、妄想には動機の部分と解決アイデアの部分があります
これらを簡単な文章化、ないしは図示化してみるのです。

そうすることで、何が原因や問題や課題であり、何を解決したいのかが見えてきます。
それだけで妄想の解像度が上がり、ビジネスのタネになっていくわけです。

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で、右側の部分ですが、この時点では単なるアイデアなわけで、ここにビジネス視点でのフィルターを入れておきます。
具体的には、「それは実現可能か」、「それは大義があるか」という2つの視点です。
言うまでもないことですが、ここの作業はマストです。
これも、文章化しておきます。
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事例:ランドセル妄想

ChatGPT時代の企画能力の磨き方(2023年6月21日)でも紹介しましたが、ランドセルに関する私の妄想事例を簡単に紹介しましょう。

最近の小学生がいまだに私が使っている頃と同じ型式のランドセルを担いでいるのを見て、ふと思った。
『これだけ技術が進歩しライフスタイルも進化した現代において、いまだに60年前と同じスペックの商品が採用されている。何かおかしくないか?』
『ビジネス業界では、かつての薄い書類を入れるブリーフケースからパソコンなど電子デバイスを入れるビジネスリュックへの大転換が起った。しかも単価は数千円からと大分安くなった』
ランドセルも今時の市場ニーズに合った商品に変身させやすく売ったらバカ売れするのではないか?
『例えば、もうすぐデジタル教科書(電子タブレット)になるのだから、それを中心とした設計にし直す。もっとスリムに軽量にして色々なポケットを付け、かつ売価を安くするのはどうか?』

これを上記の動機と解決アイデアに分け、文章化すると以下のようになります。
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            ランドセル妄想を分解する

次に、この妄想の実現可能性と社会的大義というフィルターを文章化すると以下のようになります。

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このような作業は、いつか役立つ妄想案の蓄積になると共に、ビジネス化につなげる提案書の書き方の訓練にもなっているわけです。

システム2を働かせる

以上、妄想という思考の段取りを可視化を試みましたが、これは、あなたの脳のシステム2(論理思考)を働かせるベースとなります

それは、AIとの共創に役立つということです。

つまり、前半の課題の部分、後半の解決アイデアの部分について、AIの考えを聞いてみるのです。

課題に関しては、正しいか、他の捉え方はないかなどの質問で、有益な情報が出てくるはずです。

また、解決アイデアに関しては、先述のように、実現可能性について質問していきます。
ここでのAI回答は非常に役立つはずです。
何故なら、ここは最先端テクノロジーの有り様や商品化サービス化の事例が関わってきますがら、世界の情報を網羅しているAIの出番となるわけです。

もちろん、大義の部分もAIは有用な回答を出してくれると思います。

総じて言えば、AIと共創することで、妄想の解像度を上げ、ビジネス化へのポテンシャルが見えてくることになります。

以上、『妄想力というスキルを身につける法』でした。

次回は、研修という形でインテンシブに妄想力を高める方法をご紹介します。

ここまで読んでいただきありがとうございました。
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