小説『DNA51・影たちの黒十字』(続ロザリンド・フランクリン物語) 〜9〜
10 賢振寺のクリック
賢振寺(ケンブリッジ)に戻ったワトソンは
研究室の先輩であるクリックに
倫敦大学で見たB型核酸のX線回折画像の話をしました。
ワトソンとクリックとの間では、研究情報については常にオープンで、
自分達が得た知識を互いに披露し合い、疑問点や感想、意見、見解など
率直に語り合う日常がそこにはあったのでした。
「B型核酸っちゅうモンが有るってかぁ・・・
とゆうことはやなぁ・・2種類の核酸が現れて来おるゆうことや。
今までワシらが見せられていたんは、その一方だけや。
そうゆうこっちゃないか?
倫敦大の連中、出し惜しみしよるなぁ」
ワトソンの話を聞きながら、
手に持ったコーヒーをグイッと飲み干すと、
クリックの興味は徐々に拡大していくようです。
「まぁ、連中にしてもそれは最近発見したような様子でしたし、
発見者はロザリンド研のようですね。
論文発表する前に私に教えてくれたので、
出し惜しみということではないとは思いますが・・」
ワトソンは画像を見せてもらった手前、
さすがに倫敦大学のことを非難することはできません。
クリックはタバコパイプに火を付けると一息けむりを吐き出しました。
「しっかしやな、英国医学研究機構には報告書を送っておる、
さっきワトソン君、キミそうゆうてはったやないか。
報告書を書く時間あるんやったら論文も同時にサッサ〜と書いてやなぁ、
発表しはったらええんとちゃうか?
しかも、B型画像を見せてくれたんは発見者ロザリンドやのうて、
ウィルキンス博士やったんやろ?
英国医学研究機構にだけ報告書を送りよるって、
な〜んか、出し惜しみ感が溢れてきよるでぇ・・・。
倫敦大の連中・・・
ん?・・・・そうや、そうや!
うちの研究室には、マックス・ペルーツ博士 がおる。
ペルーツ先生は英国医学研究機構の予算担当もしてはるぐらいやから
ロザリンドの報告書を見てはるかもしれん。
ペルーツ先生にその B型核酸 の件、聞いてみればええんや」
★ ★ ★