『ロザリンド・フランクリン物語』〜04〜

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小説
『ロザリンド・フランクリン物語』


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ここで3論文のNature誌上での
掲載の並び関係を確かめておく必要があります。
3論文はNature誌(Vol. 171, No. 4356, April 25, 1953. 4. )の
737ページから741ページにかけての5ページ誌面に
3論文連続で掲載され、掲載順番は

先頭(737ページ目から)を切ったのが、
1. ワトソン&クリック 
 (WATSON, J. D. & CRICK, F. H. C. 共同執筆・ケンブリッジ大)
 Molecular Structure of Nucleic Acids: (核酸の分子構造)
 A Structure for Deoxyribose Nucleic Acid; (DNA構造)

中間(738ページ目から)を引き継いだのが、
2. ウィルキンス&ストクス&ウィルソン
 (WILKINS, M. H. F., STOKES, A. R. & WILSON, H. R. 執筆・ロンドン大)
 Molecular Structure of Deoxypentose Nucleic Acids; (DNA分子構造)
 ・・・“X線回折写真“ 掲載・・・・・

トリ(740ページから741ページ目まで)を取ったのが、
3. ロザリンド&レイモンド・ゴスリング
 (FRANKLIN, R. E. & GOSLING, R. G.共同執筆・ロンドン大)
 Molecular Configuration in Sodium Thymonucleate, 
 (胸腺核酸ナトリウム塩の分子配置)
 ★★★“ロザリンド51番写真”掲載★★★

でした。

掲載の編集構成からすると、
まず、先頭でDNA二重螺旋の構造形態を “新説” としてぶち上げ、
続く2論文がその “新説” を裏付けるかのような証拠を提示し、
“新説” の根拠を補強する、という流れです。

しかし、事実の時間的流れは、ロザリンドが論文中で述べているように

①ファーブルク論文(ロンドン大学, 1949) の
 ヌクレオチド類へのX線照射手法の成果が有って、
②ロンドン大学ストークス&ウィルキンスの螺旋形態予想(未発表)が立ち、
③ロンドン大学ロザリンドが決定的写真撮影に成功。
④その写真を密かに見たケンブリッジ大学のワトソン&クリックが
 二重螺旋の形態を論理付けた・・・・・

となっていて、ロザリンド論文は、
ワトソン&クリック論文(新説)を補強するような事実を
さらに提供するようなものではなく、
むしろ、
ロザリンドの決定的な写真撮影成功から螺旋構造が決定的となり、
ワトソン&クリック二重螺旋説の結論によって、
さらに螺旋構造説を論理説明することで補強した・・・・という
逆の流れになっています。

但し、ロザリンドは決定的証拠写真撮影に成功した本人ではある訳ですが、
(撮影自体を実行したのはロザリンドに指導をうけている学生のゴスリング)
その本人曰く、

   「考察などを総合すれば、 ”螺旋構造“    の存在は
    かなりの高確率で有り得る事と言えるでしょう」

などと論文の中では、悠長で、かなり慎重・謙虚な物言いでした。
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ロンドン大学のウィルキンスからすれば、
それは歯痒かった事だったのかもしれません。
 (歯痒かった?・・・・・これは筆者の憶測です。
 伝えられるところによると、ロザリンドとウィルキンスは
 研究の“方針“では意見一致をみていなかったようで、
 対立関係の不仲説が取り沙汰されることが多いのです)


ロザリンド論文の末尾には次のような
謝意の言葉が綴られています。
ーーーー(引用・日本語訳文は筆者が追加添付)ーーーーーーーーーーーーー

   We are grateful to Prof. J. T. Randall for his interest 
   and to Drs. F. H. C. Crick, A. R. Stokes 
   and M. H. F. Wilkins for discussion. 
   One of us (R. E. F.) acknowledges 
   the award of a Turner and Newall Fellowship.

   Rosalind E. Franklin R. G. Gosling
   Wheatstone Physics Laboratory, King’s College, London.April 2. 

      ーー  ーー  ーー  ーー

私たちは,本研究に関心を寄せて頂いたランドール教授と
議論をして頂いたクリック博士、
およびストクス博士やウィルキンス博士に感謝します。
私たちの一人(R. E. F.   注:r.e.f.とはおそらくロザリンドを表している) は 
ターナー&ニューオール協賛の研究支援金を受けています。

ロザリンド・E・フランクリン  /  R・G・ゴスリング
ホイートストン物理研究所、キングス・カレッジ・ロンドン、4月2日
ーーーーーーーーーーーーーーーーー(引用おわり)ーーーーーーーー


論文執筆の末尾に於ける社交辞令定型文とはいえ、
ロザリンドとクリックとの間に意見交換が有った事実を
ロザリンドの言葉で窺い知ることができる貴重な一文となっています。
但し、ワトソンの名前の記載はありません。
ケンブリッジ大学サイドの意見窓口はクリックだったのでしょうか。




【引用文献:雑誌Nature(Vol. 171, No. 4356, April 25, 1953. 4. )】
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