物語 第四話「幸福堂」

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幸福堂
皆さんもお悩みは少なからずお持ちだと思います。
そんな悩みを解決してくれるお店があればいいですよね。
あなたが悩みを抱えて歩いていると、突然現れるお店があるそうです。

幸代「私は、幸福堂の幸福幸代です。
   私のお店に来られるのは、多くのお悩みをお持ちの、お客様ばかり
   なのです。
   何故かって? それは後ほど・・・・・・」

   吉田哲也が困った顔をして歩いている。

哲也「あれ? こんな所にこんな店有ったかな? 
   幸福堂? いい物売ってるのかな?」

   戸を開ける音(ガラガラ)

幸代「いらっしゃいませ」
哲也「あの? この店は何やさんですか?」
幸代「このお店はね。今、貴方が1番必要とする物を手にできる
   お店なんですよ」
哲也「僕が1番必要とするもの? このガラクタが? あっ 失礼」
幸代「いいのよ。貴方にとって必要でないものは、ガラクタ同然
   なのですから・・・」
幸代「貴方にとって必要な物は、少し輝いて見えますよ」
哲也「輝いてね? あっ! あれ 何か輝いてますね」
幸代「あら ほんとですね」

   幸代が棚から箱を取ってくる。

幸代「これですが、これは少し取り扱いが難しい物でね・・・・・・
   どうされます?」
哲也「どうされます? って言われても? 何のことだか?」
幸代「あら、ごめんなさい。 この杖は、願い事を思い浮かべてハッサムと
    唱えると、思い浮かべた物が手に入る、魔法の杖です。」
哲也「思った物が? 手に入る? 魔法の杖? いいじゃないですか! 
   ハッサムって言うだけでしょ? 取り扱いそんなに難しそうじゃ
   なさそうだし」
幸代「購入されますか?」
哲也「おいくらでしょうか? 持ち合わせそんなに無いんですが」
幸代「1000万円」
哲也「1000万!」
幸代「うそですよ 100円です。」
哲也「100円? これおもちゃなんだな? 人をからかうのはやめて
   くださいよ。一瞬、本当に思った自分が情けないです」
幸代「いいえ! 本物ですよ!
   しっかりと取り扱い説明書を、お読みになる事が大切ですが」
哲也「本当かな? まっ100円ならいいか」
幸代「お買い上げありがとう御座います。
   必ず取り扱い説明書をお読みくださいね!」

   哲也は店を出て、箱から杖と取り扱い説明書を出す。

哲也「俺もどうかしてるな。100円の杖に何を期待してるんだ?
   どれどれ? 取り扱い説明書か・・・・・・なんなんだ? 
   こんな小さな文字で、びっしり書いてある! 
   虫眼鏡でも無い限り、読めるわけないだろ! インチキやろう!」

   哲也は、杖と取扱説明書を箱に戻し歩き出す。

哲也「何だか喉が渇いたな・・・・・・自販機?
   あれ? ここに有ったはずなのに? そうだ!」

   哲也は、買ったばかりの杖を箱から取り出す。

哲也「この杖、本物かどうか試してやる。恥ずかしいから隠れてっと」

   哲也は路地に隠れ、ジンジャエールを頭に思い浮かべ、杖を振る。

哲也「ハッサム! えッ! ウソ! ジンジャエールが出てきた! 
   本物か?」

   哲夫は、手の中に現れたジンジャエールを、恐る恐る飲む。

哲也「間違いない! 本物だ! やった!」

   哲也は両手を挙げて喜ぶ。

哲也「よし! 1,000万円、いや1億円だ! これで会社を建て直せる!
   大金持ちだ!」

   哲也は、経営する会社の資金繰りが上手くいかず、途方に暮れていたの
   で、この杖に期待しガッツポーズをする。

   その時、路地の横にあるアパートの2階では、夫婦が喧嘩をしている。

夫「お前! なんてことをしてくれたんだ!」
妻「知らないわよ! そんなに大切な物だったら! 首からぶら下げておけば
  良かったのよ!」
夫「何を! お前にあれの価値がわかってたまるか!」
妻「知らないわよ!」
夫「もういい!」
   哲也は2階の窓を見上げる

哲也「うるさいな! 夫婦喧嘩か? 静かにしてくれよ」

   哲也がつぶやくと、夫婦喧嘩が静まる。

哲也「あ 静かになった?」

夫婦喧嘩がおさまったので、哲也は1億円を思い浮かべ
杖を振ろうと勢いよく手を挙げると、また喧嘩が始まる。

妻「どうせ1万円くらいでしょ!」   
夫「あれが1万円 だと!」

   夫が大声で叫ぶ。

哲也「ハッサム!」

   哲也は勢いよく杖を振る。

哲也「え? なんで? 1万円? あッ! うそだろ!」

   哲也はアパートの2階をにらみつける。

哲也「チクショウ! もう一度! 1億円! ハッサム!」

   哲也は、杖を何度も振る。

哲也「そんな・・・・・・なんで? 僕の1億円? どうして現れない!
   あの店に戻って、なんとかしてもらおう!」

   哲也は、幸福堂に向かって走り出す。

   戸の開く音(ガラガラ)

哲也「あの~すみません!」
幸代「あら? 他にも何かご必要なのですか?」
哲也「この杖! 壊れてる!」
幸代「そんなはずは、ないのですが?」
哲也「さっき1億円を出すはずが、手違いで1万円しか出せなくて、もう一度
   呪文を言ったんだが! もう何も出てこない! 壊れたんだろ!」
幸代「そうなんですね? 取り扱い説明書をお読みになったんでしょ?」
哲也「こんな小さな字、読めるわけないだろ!」
幸代「あら? 読まなかったのですね?」
哲也「なんて書いてあるのか! あんたは知っているのか?」
幸代「もちろん知っていますよ。その杖は同じカテゴリーの要求は
   一度っきりしか使えないのです。つまりお金のカテゴリーで
   1万円出された後は、二度とお金の願いは叶うことは無いのです」
哲也「えッ! そんな! なんとかしてくれよ!」
幸代「そうおっしゃっても、無理ですよ? 取り扱い説明書に書いて
   あるんですから」
哲也「また取り扱い説明書か! そうだ! 宝石を出して売りさばけば! 
   それなら可能なんじゃ?」
幸代「なるほど! それなら可能でしょうね」
哲也「よし! 1億円相当の宝石! ハッサム!」

   哲也は勢いよく杖を振る。

哲也「どう言う事だ? 可能だって言ったじゃないか!」
幸代「おかしいですね? お客様? 今ので2回目の願い事ですよね?」
哲也「え? いや実は・・・・・・ジンジャエールも出したので・・・・・・ 
   3回目になるな?」
幸代「なるほど それじゃその杖はもう役にたちませんね。
   取り扱い説明書にあるように、願い事は2回までなんですよ」
哲也「え! そんな・・・・・・アラジンのジーニーでも3回は聞いて
   くれるのに?」
幸代「ジーニー? あぁ 魔法のランプの魔人ジーニーね。
   あれは作り話でしょ? ホホホ」
哲也「笑うな! こっちは真剣なんだ!」
幸代「あら、失礼しました。それでもお客様、あなたは幸運かも
   知れませんよ?」
哲也「幸運? これの何処が幸運なんだ!?」
幸代「取り扱い説明書にあるように、お金を手にした場合一万円につき一人の
   人助けをする事とあります。つまり一億円だと一万人を助けないといけ
   なかった事になりますから、一万円だとお一人で済みますからね。
   たやすいことでしょ?」
哲也「人助け? そんなことまで取り扱い説明書に?」
幸代「それも10日以内にですからね! どうですか? 運が良かったと思い
   ませんか?」
哲也「え! 10日以内に? 人助け? もし人助けが出来なかった場合
   どうなると書いてあるんだ?」

   哲也は不安で顔が引きつり、額には脂汗をにじませる。

幸代「お客様 ご自分でお読みくださいね」
哲也「あのね こんなQRコードみたいな文字を、どうやって読むんだ?」
幸代「面白い表現です事、ホホホ 特別サービスですよ!」

   幸代はもったいぶってしゃべり始める。

幸代「取り扱い説明書には、助けることが出来なかった場合」
哲也「出来なかった場合?」
幸代「助ける事が出来なかった人の数だけ、一生恨まれて生きていく事にな
   ります」
哲也「一生? 恨まれて生きることに?」
幸代「そうです。それも近しい人から恨まれるのですから、人生を惨めに生き
   ていく事になりますね。過去に何人もの方が失敗されているのを見て参
   りました。ですから、扱いが難しい杖だとお伝えしましたし、取り扱い
   説明書をお読みになるよう念をおしましたの」
哲也「と言う事は? 僕は10日以内に一人 人助けをしないとダメっ事?」
幸代「そうなりますね」
哲也「誰を助けるんだ?」

   哲也は、幸代に歩みよる。

幸代「そうそう 言い忘れていましたが」
哲也「まだ何か?」
幸代「今、手にしている一万円を使って、人を助けてあげて下さい」
哲也「え? この一万円で? 人助け? これっぽっちで助かる人
   居るのか?」
幸代「どうかしらね? 居るんじゃないですか? そうだ!」
哲也「まだ何か?」
幸代「その一万円を、あげるとかはダメですからね」
哲也「じゃ、この一万円をどうすればいいんだ?」
幸代「そこまでは・・・・・・お客様がお考え下さい」

   幸代は哲也に背を向け、奥に入ろうとする。

哲也「取り扱い説明書に書かれている事はそれだけなんだな?」

   哲也が聞くと、幸代は振り返る。

幸代「他にもありますが? 気になります?」
哲也「気になるに決まってるだろ! まだ重要な事を隠してるんじゃ?!」
幸代「今、お伝えしたことは、10分の1程度です」
哲也「10分の1?! いったいどんな恐ろしい事が、書いてあるんだ? 
   全部教えろよ!」

   哲也は、幸代をにらみつける。

幸代「お客様、その態度良くありませんね。人に物を頼む態度でしょうか?」
哲也「いや、申し訳無い。教えてもらえませんか?」
幸代「頼まれてもね・・・・・・全部取り扱い説明書に書いてありますから、
   頑張ってお読み頂ければ、分りますしね?」
哲也「そこをなんとか、よろしく頼みます」

   哲也は、手を合せ幸代に頼み込む。

幸代「全部教えちゃうと、私の楽しみが、無くなってしまうんですよ」
哲也「楽しみが無くなる? 幸福堂さん? あなた? 何者?」
幸代「私は、人のお悩みを解決するために存在している、神様なのですよ」
哲也「神様? 神様だったら助けてよ」
幸代「神の世界で・・・・・・私は・・・・・・貧乏神と呼ばれておりますの
   ホホホホ ホホホホ」

おしまい

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