【どれだけ理解してますか?】なぜ組織は変われないのか

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ビジネス・マーケティング
心臓病で死ぬ危険があっても生活習慣を改めない人たちがそうだったように、リーダーと組織のメンバーが変革を成し遂げることを妨げている要因は、基本的に意志の欠如ではない。本当の問題は、自分が本心からやりたいと望んでいることと実際に実行できることの間にある大きな溝だ。この溝を埋めることは、今日の最も重要な学習上の課題である。


人が変われない3つの要因 

この本で論じていく現象の根底には、三つのきわめて大きな問題がある。第一は、いま述べたように、変革の必要性は理解されているのに、なにが変革を妨げているのかが十分に理解されていないという問題だ。
リーダーたちは、人材開発に大きな投資をすることで、人間の自己変革の可能性を信じる楽観論を対外的に示している半面、内心では、人間は本質的に変われないという根深い悲観論をいだいているのだ。悲観的になるのは無理もない。
本当の能力開発(成長)を成し遂げるためには、単に知識や行動パターンのレパートリーを増やすだけでなく、OSそのものを進化させなくてはならない。
あなたがグループを率いるリーダーだとすれば、なんらかの目標を推し進めようとしていることだろう。しかし同時に、あなた自身もなんらかの裏の目標に突き動かされている可能性がある。その裏の目標は、あなたの意識の産物ではあるが、それを自分でコントロールすることはできない。問題は、ほとんどの場合、あなたが卓越した成果を生み出す能力が、そのような裏の目標の影響によって弱められたり、ときには完全に打ち消されたりすることだ。「開発(成長)」の側面に十分な関心を払わなければ、せっかくリーダーシップ開発に励んでも、自分が推し進めようとする目標を実現する能力しかはぐくまれず、あなたを支配している裏の目標の影響に対処する能力は磨けない。変革を成し遂げる能力を高められないのだ。

大人の知性には3つの段階がある。

①環境順応型知性
・周囲からどのように見られ、どういう役割を期待されるかによって、自己が形成される。
・帰属意識をいだく対象に従い、その対象に忠実に行動することを通じて、一つの自我を形成する
・順応する対象は、おもにほかの人間、もしくは考え方や価値観の流派、あるいはその両方である。
②自己主導型知性
・周囲の環境を客観的に見ることにより、内的な判断基準(自分自身の価値基準)を確立し、それに基づいて、まわりの期待について判断し、選択をおこなえる。
・自分自身の価値観やイデオロギー、行動規範に従い、自律的に行動し、自分の立場を鮮明にし、自分になにができるかを決め、自分の価値観に基づいて自戒の範囲を設定し、それを管理する。
こうしたことを通じて、一つの自我を形成する。
③自己变容型知性
・自分自身のイデオロギーと価値基準を客観的に見て、その限界を検討できる。あらゆるシステムや秩序が断片的、ないし不完全なものなのだと理解している。これ以前の段階の知性の持ち主に比べて、矛盾や反対を受け入れることができ、一つのシステムをすべての場面に適用せずに複数のシステムを保持しようとする。
・一つの価値観だけいだくことを人間としての完全性とはき違えず、対立する考え方の一方にくみするのではなく両者を統合することを通じて、一つの自我を形成する。
その半面、ピーターはもっと上手に権限を委譲できるようになりたいと本気で願ってもいる。その気持ちは本心だ。誤解しないでほしいのだが、本書のX線技術は、建前レベルの目標をはぎ取って、その人が本当に目指しているものをあぶり出す道具ではない。もし人々の本音と建て前のギャップを浮き彫りにするだけだったら、私たちの研究はこれほど興味深いものにならなかっただろうし、意義もはるかに小さかっただろう。変革がうまくいかないのは、本人がそれを本気で目指していないからではない。心臓を病んでいる人が禁煙の目標を貫けないとしても、その人は「生きたい」と本気で思っていないわけではないだろう。変革を実現できないのは、二つの相反する目標の両方を本気で達成したいからなのだ。人間は、矛盾が服を着て歩いているようなもの。そこに、問題の本能の原因がある。

彼は自分を変えたいと思っているけれど、自分の核となる部分を守りたいという思いもいだいている。最も正解を知っている人物でありたいという裏の目標の底流には、すべてをコントロールしなければ自分の核となる部分がかされるという深い固定観念があるのだ。
自己変革の誓いは多くの場合、新年の誓いの「仕事版」になってしまう。ほとんどの人は、新年の誓いを実現したいという思いにはない。だから、自分が誓いを守れないことに納得がいかない。だが、ピーターの免疫マップを見れば、どうして続きしないのかがわかるだろう。私たちは誓いを立てるとき、なくすべき「悪い行動」と増やすべき「よい行動」にばかり目を向けるが、強力な阻害行動を取らせる裏の目標を明らかにしないかぎり、問題を正確に定義したことにならない。アルバート・アインシュタインの言葉を借りれば、問題を正しく定義することは、問題を解くことと同じくらい重要だ。その点、免疫マップを描けば、自分が抱えている問題を正し理解し、問題を解決する一歩を踏み出せる。ピーターが直面している問題の本質が変革をはばむ免疫機能。すなわち、自分の核となる部分を守ろうとする結果、自分自身が望んでいる目標の達成を妨げてしまうメカニズムにあることも見えてくる。
人は「不安」を避けるようにできている
変革をはばむ免疫機能は、ある人がどのような行動を取っているせいで本人が望んでいる目標を達成できずにいるのかを描き出す。しかし、この免疫機能が生み出す動的な均衡状態は、特定の目標の追求をじゃまするだけにとどまらない。知性を向上させる妨げにもなる。
変革を阻む免疫機能が組織にも存在する。


4つのフレームワークで現状を把握する。

①改善目標
②阻害行動
③裏の目標
④強力な固定観念

集団レベルの変革が成功する場合はたいてい、中心メンバーが自分自身個人レベルの変革をはばむ免疫機能〟を診断し、それを克服しようと努めている。では、そういう個人レベルの活動は、具体的にどのように進めればいいのか?このあとの第5章と第6章では、二人の個人が自分の免疫機能をどのように克服していったかを詳しく紹介する。この二人が味わっていた苦しみは、多くの読者が共感できるものだと思う。第7章では、職場のグループ単位で活動の質を高めるために複数のメンバーがいっせいに個人レベルの変革に取り組むケースを取り上げる。このアプローチは、免疫機能を克服するための最も強力な手法なのかもしれない。読者が第 2部を読み終えたとき、一つの強力な固定観念から解放されていれば、私たちはうれしい。その固定観念とは、人間の根本は変わらない、三〇歳代、四〇歳代になると人はもう変われない、という思い込みのことだ。

これまで述べてきたように、“変革をはばむ免疫機能〟は、なんらかの打撃から人を守る役割を担っている場合がある。デーヴィッドにとって、その打撃とは、愛する人たちにまつわる記憶を傷つけてしまうことだった。自分を変えることによって権限委譲という課題に取り組んだデーヴィッドの経験は、自分にとって大切な要素を保持し続けつつも、自分の既存の思考様式を組み換えなくてはならない場合があるという実例と言える。しかし、思考様式の転換は理性だけで成し遂げられるものではない。最初は、自分の精神の骨格をなす絆や忠誠心を揺るがされるように感じる場合もあるだろう。

“変革をはばむ免疫機能〟を掘り下げて検討すると、その人の知性の段階が浮き彫りになるケースが多い。キャシーの場合は、自己主導型知性の「台地」の上にしっかり乗っているとは言いがたかった。自分自身の方針とアイデアに基づいて自分の能力を活用するのではなく、他人の否定的な評価によって傷つきやすい状態に陥るのを防ぐために―要するに、環境順応型知性の段階に滑り落ちないために自分の能力を用いていたからだ。完璧主義的な傾向、他人に助けを求めない態度、弱みを見せまいとする警戒心これらはすべて、一つきわめて強い決意(つまり、裏の目標)から派生したものと考えられる。それは、自分と他人に対して、「消えることのない深い」の持ち主である自分を価値ある人間だと思わせたいという強い意志だ。キャシーが免疫機能を克服するためには、そういう否定的な自己評価を抜本的に変える必要があった。

職場復帰したときの思いを本人はこう振り返る。「自分がなにをすべきか、それをどのように実行すべきかがはっきり見えてきました。ここが自分の居場所だと思いました。それまでチームになにが足りなかったのかもわかりました」変革をはばむ免疫機能〟を克服すれば潜在能力をもっと開花させられると、私たちはよく説明する。このときのキャシーの経験はその典型だ。二つの目標の間でジレンマに陥らなくなり、エネルギーが解き放たれる結果、行動のレベル(たとえば、それまで以上に精力的に長時間働けるようになる)と感情のレベル(たとえば、重圧から解放され、もっと自由に、自分をすり減らさず、窮屈に感じなくなる)だけでなく、知性のレベルにも変化が起きる。まわりの人から「頭がキレる」と評価されるようになるのだ。不安を感じなくなることが知性に及ぼす効果はきわめて大きい。実験で被験者に強い不安を感じさせると、IQテストの点数が悪化することからも明らかなように、不安が急激に高まったとき、一時的に行動の質が低下することはよく知られている。それと同様に、慢性的な不安にさいなまれている人は、概して慢性的に自己防衛のために知性を浪費し続ける。その点、自己防衛に費やす知的エネルギーが少なくてすめば広い視野をもてる。その感覚は、目の前の霧がそこに垂れ込めていることに気づいてすらいなかった霧が晴れるのに似ている。キャシーは言う。「以前の私のように恐怖を感じながら行動していて、しかもそのことに自分で気づいていないというのは、生産的な環境とは言えません。精神が疲れ果ててしまいます。いまの私は、そんなことがなくなりました」

なにが必要かが見えてきたことで、上司にも堂々と提言できるようになった。「ある上司には、新たに取り組むべきプロジェクトが八つあると指摘し、さらに、すでに発足している別のプロジェクトに私を加えてほしいと述べ、その理由も訴えました」。自分がチームに貢献できているという自信がわいてきた。本人は、以前との違いをこう語っている。「昔も自分のアイデアをみんなに披露してはいたのです。でもそのとき、自信の乏しさも暗に伝えていた。いまは、自分の知識と視点の価値を自覚しています。私はデータを押さえたうえで、ほかのマーケティング専門家とは違う角度でものごとを見ている。新しい価値を生み出すのは、私の行動ではなく、そういう視点の違いなのです」。以前、上司から言われた謎めいた言葉の意味がようやく理解できた。「(上)チェトに言われたことがあります「どうして、きみはもっと自分に自信をもたないんだ?」そのときは、不思議なことを言うものだと思いました。当時私は、自信がないどころか、態度がそうだと批判されてばかりいたのです。自分の意見を述べるのを躊躇したこともなかった。でも、いまは、チェトがなにを言おうとしていたのかがよくわかります」。態度が大きいことと強い自信をいだいていることは、けっしてイコールではない。

ここで、ヒューストン事件からおよそ二ヵ月後の時点での状況を整理し、免疫機能克服のプロセスがどこまで進んでいたかを確認しておこう。ヒューストンで病院に運ばれた直後は、精神面で激動の日々だった。まず、既存の思考様式が強く揺さぶられて、いままでのやり方で仕事ができなくなった。しかし勇気を奮って、蓋をしていた過去の経験と向き合い、それを前向きに乗り越えた。それにより、新たに手にできたエネルギーと自信を武器に、戦略づくりと計画立案に優先的に取り組むように転換しつつある。それまでいだいていた強力な固定観念は、ことごとく根拠の乏しいものだとわかった。さまざまな観察と検証作業(意図しておこなったものもあれば、意図せずにおこなう羽目になったものもあった)を通じて、自分の強力な固定観念についてなにがわかったのか、キャシーは示唆に富んだことを述べている。とくに注目すべき点は、検証作業の結果、他人の評価にびくびくするのではなく、自分の内面の安定に関心を払うようになったことだ。


このように、チーム内の信頼関係を築くうえでリーダーが果たす役割は大きいが、一人の力ではチームを成功に導けない。メンバー全員の積極的な関わりが不可欠だ。このチームが成功できた要因としては、ほかに以下の六つを挙げられるだろう。

・チーム全体で目指すことにした目標が、チームの成長を力強く後押しするものだったこと。
・一人ひとりがチームの目標に沿った改善目標を掲げて、努力を続けたこと。
・チーム全体の取り組みに、チームの目標と関連のある「私的な要素」を持ち込んだこと。
・一人ひとりの学習がチームの社会的構造によって支えられていたこと。
・学習課題に適した学習方法を採用していたこと。
変わるために必要な三つの要素


たしかに、免疫機能の克服に成功しやすい人は確かにいる。さまざまな実例から判断すると、以下の三つの要素をそなえていればいるほど、その人は大きな変化を成し遂げる確率が高い。それは、比的に言うと「心の頭脳とハート」「手」の三要素である。本章では、このそれぞれがなにを意味するのかを見ていく。

①心の底変革を起こすためのやる気の源

②頭脳とハート思考と感情の両方に働きかける

③手思考と行動を同時に変える


まずは変われない現状の原因を突き止めてみる。


矛盾して聞こえるかもしれないが、変革への道は、変革を妨げているのが自分自身の内面のシステムなのだと十分に理解してはじめて開けてくる。この段階まで来れば、変革という課題をよい「問題」に転換するための最初の重要な一歩を踏み出したと言えるだろう。
この現状を改めるには?
この作業には数カ月かかると覚悟をしておくこと。一夜にして目標を達成しようなどと思ってはならない。
変革を推し進めるうえで、どのような支援が自分にとって最も有効かを選ぶこと。
変革のプロセスを進めるために、私たちが考案したエクササイズや活動のうちのなにを実践するか検討すること。

よい実験を設計するためのチェックシート

a 実験としてどういう行動を取ろうと思っていますか?(それは、強力な固定観念の下でいつも取っているのとは違う行動でなくてはなりません)
1b1aの実験により、強力な固定観念に関してどのような情報を得られると思いますか?
2a 実験でどういうデータを集めたいと考えていますか?(ほかの人たちの反応に加えて、あなた自身がどう感じるかも貴重な情報源になりえます)
2b 実験でどういう結果が出れば、思い込みが正しかったとみなし、どういう結果が出れば、思い込みが間違っていたと結論づけようと考えていますか?
 2c 実験について報告したい人や、実験を見守って、あとでコメントしてほしいと頼みたい人はいますか?
 3a 計画している実験は、以下の基準を満たしていますか?
その実験は安全か?(最悪の結果になったとしても耐えられる範囲内か?)
その実験により、強力な固定観念の妥当性を検証するための材料を得られるか?(2b を参照)
その実験は妥当か?(その実験によって、強力な固定観念を本当に検証できるか? 1bを参照)
その実験で新しい行動を試す相手は適切か?(その人物があなたを叩きのめそうとしたり、逆にあなたに迎合したりはしないか?)


その実験の結果、強力な固定観念が否定される可能性は本当にあるか?(固定観念どおりに悪い結果が確実に実現するように、実験を設計していないか?固定観念のとおりに悪い結果が確実に実現するように、実験を設計していないか?固定観念の反証データが得られる可能性は本当にあるのか?

その実験はすぐに実行できるか?(実験に必要な人物が身近な場所にいて、実験をおこないやすい状況か?計画どおり実験を実行するためにどう行動すべきかを十分「理解できているか?向こう1週間程度の間に、実験をおこなえるか?)


大人の本当の発達志向の姿勢とは?


・人間が思春期以降も成長できるという前提に立つ。人は大人になってからも成長し続けるべきだと考える。

・技術的な学習課題と適応を要する学習課題の違いを理解する。

・誰もが成長への欲求を内面にいだいていることを認識し、その欲求をはぐくむ。

・思考様式を変えるには時間がかかり、変化がいつも均一なペースで進むとは限らないことを理解する。・

・思考様式が思考と感情の両方を形づくることを理解し、思考様式を変えるためには「頭脳」と「ハート」の両方にはたらきかける必要があると認識する。

・思考様式と行動のいずれか一方を変えるだけでは変革を実現できないと理解する。思考様式の変革が行動の変革を促進し、行動の変革が思考様式の変革を促進するのだと認識する。

・思考様式の変革にはリスクがついて回ると理解し、メンバーがそういう行動に乗り出せるように安全な場を用意する。

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