「アスペルガー(ASD)の人は社労士をめざせ!」
いきなりそんなことを言われたら、ビックリするかも知れません。
だが、社会保険労務士試験(以下、社労士試験と略)はアスペルガーの人にとって、非常に相性の良い試験と言えます。
しかも、社会保険労務士(以下、社労士と略)の仕事はアスペルガーの人にとって、最高の資格と言えます。
アスペルガーの人の中には、いじめ等が原因で不登校や、引きこもりになっている方も多くいると思われます。
アスペルガーの人の中には、ギフテッドの特性を併せ持っているせいで、学校内で浮きこぼれている方も多いと思われます。
アスペルガーの人の中には、就職活動で散々な思いをした挙げ句に、待遇の劣悪な障害者枠に押し込まれてしまった方も多くいると思われます。
だから、私はそのようなアスペルガーの人に、社労士試験の受験や、社労士の資格の取得を勧めたいと思います。
なぜ、アスペルガーの人は社労士試験に向いているのか?
なぜ、社労士試験はアスペルガーの人に向いている試験と言えるのでしょうか?
その理由は、他の法律系の国家試験と比べて、数字が問われるケースが非常に多いことにあります。
特に選択式では、その傾向が強いと言えます。
選択式は、80分(1時間20分)で40個の空欄を埋める穴埋め形式となっていますが、この試験では毎年、数字を問う空欄が15個程度出題されます。
雇用保険法や、健康保険法では、5つの空欄全てが数字という年も珍しくありません。
一方の択一式は、5択問題を210分(3時間30分)で70問解く方式となっています。
しかも、社労士試験には司法試験などで課されるような、論文試験や、口頭試問がありません。
また、社労士試験では「以上」「未満」「かつ」「または」「後」「以後」などといった、接続詞を問うものが選択式・択一式を問わず数多く出題されますが、これらも数字要件と同じで知識勝負の要素が強いため、細かい数字等を記憶するのが得意なアスペルガーの人に向いている試験と言えます。
社労士の仕事は、なぜアスペルガーの人に向いているのか?
社労士の仕事の中には、アスペルガーの人に向いたものが数多くあります。
社労士の仕事は1号から3号までの3つに大別されますが、このうちの1号業務と、2号業務は社労士の資格がないと行うことができない、独占業務となっています。
1号業務から3号業務の中身をざっくり言うと、こんな感じです。
1号業務:労働・社会保険資格の取得・喪失手続きや、社会保険料の算定基礎届の作成・提出業務や、各種助成金の申請手続きをすること
2号業務:労働者名簿や、賃金台帳や、雇用契約書や、災害補償に関する書類を作成すること
3号業務:労働・年金相談や、労務・人事コンサルティングをすること
つまり、1号業務や、2号業務の対象となる書類の作成ができれば、対人コミュニケーションが苦手でも、社労士として生計を立てることが可能なわけです。
社労士事務所・法人の中には労働保険事務組合という形で、中小企業の労働・社会保険手続きを1か所にまとめて行うものも数多くあります。
労働保険事務組合には複数の社労士が在籍していて、それぞれが役割を分担しているケースも多くあります。
その上で、1号業務と、2号業務を専門にこなす働き方もあるわけです。
事実、社労士の中には障害年金や、各種助成金の申請手続きを専門としている人もいるほどです。
アスペルガーの特性がもたらす長所
社労士の行う1号業務や、2号業務の場合、法令によって提出期限がバッチリと決められているものが数多くあります。
これらの期限を絶対に守ろうとする意志の強さ(日本型組織が忌み嫌うような、アスペルガー特有の融通の利かなさ)や、集中力の高さは社労士の仕事をこなす上で大きな武器となります。
また、コロナ禍で緊急事態宣言や、まん延防止対策を出す際に、政府は各種助成金を特例的に拡充してきました。
その期間中、多くの中小企業の事業主が社労士に、各種助成金の申請をお願いしていたと思います。
だが、これらの助成金には、不正受給した場合の罰則が厳しく定められています。
罰則の内容は助成金の種類によって異なりますが、助成金を不正受給すると、その事業所は以後の助成金が一切受けられなくなる上、「不正受給した金額の数倍」の返還を命じられることになります。
一方の不正受給に関わった社労士は、失格処分または1年以内の業務停止命令を厚生労働大臣から受けることになります(社会保険労務士法25条の2の規定より)。
そのような厳しい懲戒処分を受けるのが嫌で、事業主に「助成金の不正受給に加担することはできない!」などと言ったら、「組織の和を乱す奴だ!」とみなされて、左遷などの憂き目に遭ってしまうのは目に見えています。
特に、企業内社労士として働いているのであれば、なおさらです。
しかし、アスペルガーの特性を持っている人であれば、事業主に対しても「不正受給に手を染めてはダメだ!」と、忖度せずにキッパリ言うことができます。
このような形で品位を保持しながら、良心と強い責任感のもとに仕事を進めることができる点もアスペルガーの大きな長所と言えます。
どのようにして社労士の資格取得を目指すのか?
すでに書いたように、社労士試験は細かい数字等を記憶するのが得意なアスペルガーの人に適した試験と言えます。
だが、社労士試験は覚える内容が非常に多い上、科目ごとに細かい足切り点(基準点)が定められています。
そのことが、平均合格率6%~7%台の難関国家試験とされる大きな理由でもあります。
社労士試験を受験するのであれば、私は迷わずクレアールや、スタディングなどといった、通信講座の利用を勧めたいと思います。
私はクレアールの「非常識合格法」を利用して、社労士試験に合格しましたが、現在では予備校等に通うことなく、自分のペースで勉強することができるWeb型の社労士講座も増えています。
これらの通信講座を利用すれば、独学で勉強する場合よりも、はるかに短期間でスコアを合格ラインまで上げることができます。
ただ、社労士試験は司法書士や、公認会計士の試験などと違って受験制限があります。
つまり、下記の①から④のいずれかを満たさないと、受験すること自体ができないわけです。
ここでは、社労士試験の受験資格の概要を大雑把に示しますが、①と②の要件を未成年のうちに満たすのはほぼ不可能です。
それに、アスペルガーの特性を持っていると、企業などに就職できないか、できたとしても単純作業が主体の障害者枠に押し込まれてしまうことが多いため、③の要件を満たすのは非常に難しいと言えます。
①:大学や、短期大学を卒業していること(学部・学科は不問)
②:高等専門学校や、2年制以上の専門学校を卒業していること(学科は不問)
③:企業などで労務の仕事を通算3年以上担当していたこと
④:行政書士の試験に合格していること
一方、④の要件は比較的若いうちに満たすことが可能です。
社労士試験の場合、過去に17歳で合格した例がありますが、その方はまず、14歳で行政書士の試験に合格しています。
それで④の要件を満たしたため、17歳で社労士試験合格という、快挙を達成することができたわけです。
行政書士の試験に合格してから、社労士を目指すのはアリなのか?
行政書士の試験は社労士試験と違って、学歴などの受験制限が全くありませんが、平均合格率11%~12%の難関国家試験です。
試験科目も、憲法や、民法や、行政法など多岐に渡っています。
だが、行政書士試験の場合、300点満点のうちの180点を取れば合格することができます。
行政書士試験の配点は以下の通りですが、これを見ると、社労士試験と同じような5肢択一式や、多肢選択式のウェイトが高くなっていることが分かります。
つまり、5肢択一式や、多肢選択式で240点のうちの180点以上(75%以上)を取れば、鬼門とされる記述式が0点でも合格することができるわけです。
その上で社労士試験を受験して、若いうちに社労士の資格を取得する手もあるのです。
法令科目:5肢択一式が1問4点×40問(160点)、多肢選択式が1問8点×3問(24点、部分点あり)、記述式が1問20点×3問(60点)の計244点
一般知識等:5肢択一式が1問4点×14問の計56点
法令科目122点以上、一般知識等24点以上、総得点180点以上の全てを満たせば合格。
なお、社労士の主流である開業社労士の平均年収は400万円~500万円と言われていますが、開業社労士でも、年収が300万円台の人はたくさんいます。
一方の障害者枠だと、年収が300万円にも満たないことがほとんどです。
そう考えると、障害者枠に押し込まれるよりも、社労士の資格を取得して独立開業した方がはるかに良いと言えます。
しかも、社労士の資格は生涯有効で、尚かつ定年も無いため、一度その資格を取得すれば、死ぬまで社労士として活躍することもできます。
どのようにして社労士試験の勉強時間を確保するのか?
ただ、社労士試験の範囲は膨大なため、合格するには大変な勉強時間が必要となります。
しかも、社労士試験には「行政書士試験に合格していること」という受験制限もあるため、行政書士試験に合格してから社労士の資格を目指そうとすると、勉強時間が余計にかかってしまうことになります。
社労士試験の場合、合格に必要な勉強時間は1000時間と言われています。
行政書士試験の場合、その時間は700時間と言われているため、「計1700時間もの勉強時間を確保するのは大変だ!」と思う方もいるかも知れません。
だが、不登校や、引きこもりになっているのであれば、無理して学校などに通わずに家で通信講座を利用しながら、1人で行政書士試験や、社労士試験の勉強をすれば良いわけです。
小中高校や、大学に通えているのであれば、授業・講義の終わった後、部活動ないしはサークル活動をせず、遊びにも行かずにまっすぐ家に帰って行政書士試験や、社労士試験の勉強をすれば良いわけです。
このようにして勉強時間を確保するだけでも、行政書士試験や、社労士試験の合格に大きく近づくことができます。
アスペルガーの人は社労士をめざせ!
ここでは、社労士試験の特徴や、社労士の仕事について簡単に書いてきました。
近年はリスキリングの名のもとに、資格取得を奨励する事業所も増えていますが、事業所の中には、社労士を資格取得制度の対象としていないものも数多くあります。
その理由は、社労士の資格自体が独立開業できるほどの強力な資格(独占業務のある仕事)だからです。
つまり、社労士の資格を取られると、当人が意に沿わない配置転換や、障害者枠の劣悪な待遇に反発して、その事業所を辞めてしまう可能性が高くなるため、企業などは社労士の資格取得を嫌うわけです。
事実、私が新卒(大学卒業)時から12年間在籍していた株式会社Hも、私の社労士試験不合格を本気で願っていたほどです。
そう考えると、社労士の資格や、社労士の仕事はアスペルガーの人にとって、非常に魅力の大きいものであるのは明らかと言えます。
だから、アスペルガーの人は若いうちから、どんどん社労士を目指して欲しいと思います!