プロフィールにも書いているのですが、私は大学生の方を対象にした学習相談を行っています。
いわゆる TA みたいなやつです。
その中で興味深いお話があったので、少し考察してみたいと思います。
まずはネイピア数 e についてですが次の数列の極限として定義するのが一般的です。
a_n = (1 + 1 / n)^n
よく複利の話と絡めて紹介されることが多いですね。
1 万円預けると一年後に 2 万円になるとします。この時、半年で引き出したとすれば 1 万 5 千円貰うのが妥当でしょう。そして、受け取ったお金を同じ金利で預けるともう半年後には
(1 + 1 / 2)^2
万円になります。
この分割をより細かくしていった時の極限を考えているのです。
ちなみに、こんなに手間をかけて金利を生かそうとしても e = 2.7... ですから 1.3... 倍ほどの旨味しかないんですね。
そして本題のお話は以下のようでした。
「指数関数、対数関数の微分に関する事以外の性質は全て知っているとする。
この状況でネイピア数を以下の方法で定義しよう。
(2^h - 1) / h → M (h → 0)
という M を考える。
2^(1 / M) という数字を考えるとこれはネイピア数を定義したことになる。」
一見すると確かに新しい方法で楽にネイピア数が定義できたように思えます。
ところがよくよく見ると次の部分が不透明です。
(2^h - 1) / h の h → 0 での極限 M は本当に存在するのか?
ネイピア数をあらかじめ定義しておくならば lim (1 + 1 / n)^n = e である事や対数関数の連続性、指数法則を用いて M が存在することは示せます。
しかし、今はこの方法を利用できません。
ということで少し実験をしてみましょう。
(2^h - 1) / h の h → 0 での極限 M が存在する時なにが起こるか?
この実験では次の変数変換がキーポイントになってきます。
log_a (1 + u) = h
今回の話には直接関係しませんが、この変換を利用すると指数関数が下に凸である事が微分を用いないで示すことができます。
さらに下に凸である事から M が正であることも示すことが出来るのです。
それでは実験開始です。
今、
lim (2^h - 1) / h = M
が成り立っているのでした。( lim は h → 0 という極限を考えています。)
そこで、log_2 (1 + u) = h という変換を行ってみますと上の式は
lim log_2 (1 + u)^(1 / u) = 1 / M
という式に書き換えることが出来ます。(こちらの lim は u → 0 という極限です。)
log_2 は連続なので結局、
lim (1 + u)^(1 / u) = 2^(1 / M)
という数式が得られたことになります。
(1 + u)^(1 / u) ...
実はこの部分、書き換えると (1 + 1 / n)^n になるのです。
lim (1 + 1 / n)^n = 2^(1 / M)
(こちらの lim は n → ∞ という極限です。)
つまりここまでの話で何が言えたかというと
「 M が存在する。⇔ (1 + 1 / n)^n の極限が存在する。」
ということなのです!
M の存在をキチンと言おうとすると、(1 + 1 / n)^n の極限が存在することを示すのと同じくらいの労力がかかるので結局楽は出来ない
というお話でした。