相続土地国庫帰属制度の「相続等」とはどのような場合か?

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法律・税務・士業全般
相続土地国庫帰属制度の根拠法である「相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律」には次のように規定されています。

相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律
(承認申請)
第二条 土地の所有者(相続等によりその土地の所有権の全部又は一部を取得した者に限る。)は、法務大臣に対し、その土地の所有権を国庫に帰属させることについての承認を申請することができる。

今回は、カッコ書きの「相続等によりその土地の所有権の全部又は一部を取得した者に限る。」とは具体的にどのような場合のことかと言う話です。

まず、基本的な考え方を押さえておきましょう。

相続土地国庫帰属制度は、所有者不明土地の発生を防止するための制度です。所有者が活用することも管理することも難しい土地は、所有者不明土地の予備軍とも言える土地なので、所有者不明の状態となる前に、国庫に帰属させて国により管理した方がよいということになります。

一方で、国により管理するということは、本来所有者が負担すべき管理費用を国が代わりに負担することになります。所有者が管理責任を放棄して、税金で管理してもらうことになるわけですから、やたらと認めるべきではありません。
特に、自分で土地を購入しておきながら、必要なくなったから、国に押し付けるというのは、身勝手すぎるので許されるべきではありません。

そこで、「やむを得ずに土地の管理責任を引き受けることになったと評価できる者」に限って、相続土地国庫帰属制度を利用できるようにしたわけです。

「相続等によりその土地の所有権の全部又は一部を取得した者に限る。」としているのはその趣旨の表れです。

では、相続等とは何かということですが、これは条文に規定があります。

相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律
(目的)
第一条 この法律は、社会経済情勢の変化に伴い所有者不明土地(相当な努力を払ってもなおその所有者の全部又は一部を確知することができない土地をいう。)が増加していることに鑑み、相続又は遺贈(相続人に対する遺贈に限る。)(以下「相続等」という。)により土地の所有権又は共有持分を取得した者等がその土地の所有権を国庫に帰属させることができる制度を創設し、もって所有者不明土地の発生の抑制を図ることを目的とする。

相続等とは、「相続又は遺贈(相続人に対する遺贈に限る。)」のことであると読み取れると思います。

この規定を踏まえて具体的な事例で確認していきましょう。

事例1
甲土地はAが所有していました。甲土地は限界集落の奥地にある使い道のない土地です。
Aが亡くなり、その子どもであるBが唯一の相続人になりました。
この場合、Bは、甲土地に関して相続土地国庫帰属制度を利用できるでしょうか?

この事例は、難しく考える必要はありません。
Bは、Aの遺産を相続したことによって、やむを得ずに甲土地の管理責任を引き受けることになったと評価できるわけですから、甲土地に関して相続土地国庫帰属制度を利用できます。

この事例の派生パターンとしては次の様な場合も考えられます。
・Aの相続人がBとCの二人だった場合において、特定財産承継遺言により、甲土地の所有権をBが取得することになった。
・Aの相続人がBとCの二人だった場合において、遺産分割協議の結果、甲土地の所有権をBが取得することになった。

特定財産承継遺言の場合には、Bが自らの意思で甲土地の所有権を取得したことにはなりませんから、当然、甲土地に関して相続土地国庫帰属制度を利用できます。
一方、遺産分割協議を経ている場合は、甲土地に関して相続土地国庫帰属制度を利用できないのではないかとも考えるかもしれません。
遺産分割協議では、甲土地の所有権を取得するという積極的な意思をBが有していたとも考えられるわけで、それなのに相続土地国庫帰属制度を利用するのはおかしいのではないかとも考えられるわけですね。
ただ、相続財産中、甲土地のみを全相続人が放棄する手段はありません。誰かしらは、甲土地を引き受けなければならないわけで、その負担をやむを得ず、Bが引き受けたとも考えられるわけです。
そこで、遺産分割協議を経ていた場合でも、相続によって、甲土地の所有権を取得したことに変わりはないため、相続土地国庫帰属制度を利用できると解されています。


事例2
甲土地を所有していたAが亡くなりました。Aは生前に法定相続人であるBに対して、甲土地を遺贈する旨の遺言を書き残していました。
この場合、Bは、甲土地に関して相続土地国庫帰属制度を利用できるでしょうか?

遺言書に遺贈すると書かれていた場合、遺贈を受けた人は、必ずしも、遺贈された財産を受け取らなければならないわけではありません。遺贈を受けることを辞退すると申し出れば、遺贈を受けないこともできます。
この場合、遺贈する予定だった遺産は法定相続人が相続することになります。

事例2では、遺贈されたBは法定相続人です。
Aからの遺贈を辞退したとしても、結局、Bは法定相続人として、甲土地を相続しなければならないことになるわけですから、相続放棄しない限り、甲土地を手放すことはできません。
そのため、Bは甲土地に関して相続土地国庫帰属制度を利用できることになります。
本条第1条に、「遺贈(相続人に対する遺贈に限る。)」と規定されているとおりです。


事例3
甲土地を所有していたAが亡くなりました。Aは生前に友人のCに対して、甲土地を遺贈する旨の遺言を書き残していました。
この場合、遺贈を受けたCは、甲土地に関して相続土地国庫帰属制度を利用できるでしょうか?

事例2の話をご理解いただければ、答えは分かると思います。
遺贈されたCは友人に過ぎませんから法定相続人ではありません。
Cは、Aからの遺贈を辞退することも可能ですし、辞退すれば、甲土地の管理責任は負いません。
辞退せずに、甲土地の遺贈を受けたということは、自ら積極的に甲土地を取得したいと考えていたわけですから、後になって、「やっぱり、甲土地は使い道がないからいらないや」ということで、相続土地国庫帰属制度を利用するのは身勝手すぎるということになります。

よって、遺贈を受けたCは、甲土地に関して相続土地国庫帰属制度を利用することはできないということです。


事例4
甲土地を所有していたAは、生前に友人のCとの間で、Aが亡くなった後で甲土地をCに贈与する旨の死因贈与契約を締結していました。Aが亡くなり、甲土地のCへの死因贈与がなされました。
この場合、Cは、甲土地に関して相続土地国庫帰属制度を利用できるでしょうか?

これも事例3と同じように考えます。
死因贈与契約とは、贈与者が死亡した時に、受贈者がもらうことができるという契約です。契約ですから、受贈者としては、贈与の目的物がいらないものであれば、最初からいらないと言って、契約を結ばなければよいわけです。

事例4では、Cは、Aとの死因贈与契約によって積極的に甲土地を引き受けているわけですから、贈与を受けた後で、「やっぱり、甲土地は使い道がないからいらないや」と言うのは身勝手すぎます。

よって、Cは、甲土地に関して相続土地国庫帰属制度を利用することはできません。


今回の記事は、「相続等」の具体例について解説しました。
相続土地国庫帰属制度の利用を検討されている方で、自分も土地を相続したことになるのかなと疑問に思っている方は参考にしてください。


ちなみに、私はこうした記事を普段からお書きしています。
この記事はサンプルの意味でも公開しています。
相続土地国庫帰属制度に限らず、法律関係の専門性の高い記事の執筆のご依頼をお待ちしております。


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