相続土地国庫帰属制度は使える制度なのか?

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法律・税務・士業全般


お久しぶりです。
9月になっても暑い日が続く予報とのことでバテ気味になっています。
皆様はいかがお過ごしでしょうか。

ブログもしばらく書いていませんでしたが、久しぶりに時間が取れたので、最近よく受ける相談に関係する記事を書こうと思います。


表題のとおり、相続土地国庫帰属制度です。

相続土地国庫帰属制度は、「相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律」が根拠法となっていて、令和5年4月27日より、施行されました。

従来は、土地の所有権を放棄する方法は限られていました。
例えば、次の様な事例で考えてみましょう。

Aは甲土地、乙土地を所有しています。甲土地は山奥の限界集落の奥にある荒地で、事実上使い道はありません。一方、乙土地は、国道沿いにある土地で様々な用途で使うことができ、実際、乙土地にコンビニを建てて収益を上げています。
Aが亡くなり、子どものBが唯一の相続人となりました。
Bは、乙土地はもちろん、相続したいと考えていますが、甲土地は使い道がないので、相続したくないと考えています。

従来の制度ですとこのような場合に、Bが甲土地を相続しないようにする方法としては、「相続放棄」することが考えられました。
相続放棄する際は、家庭裁判所に、相続の放棄の申立てを行います。

民法
(相続の放棄の方式)
第九百三十八条 相続の放棄をしようとする者は、その旨を家庭裁判所に申述しなければならない。

(相続の放棄の効力)
第九百三十九条 相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなす。

Bは、相続放棄することで、Aの相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなされます。
つまり、Aの相続人ではないわけですから、甲土地を相続しなくてよい。ということになるわけですね。

ただ、注意したいのは、Bはこの相続放棄によって、Aの遺産のすべてを放棄したことになるということです。
つまり、有用な乙土地の所有権さえも、放棄したことになってしまうわけです。
甲土地だけを放棄する都合の良い方法は、事実上ありませんでした。

Bが相続放棄をしない場合は、乙土地についてはしっかりと相続登記をするでしょう。でも、甲土地については、A名義のまま、相続登記もせず、放置することも考えられます。
Bが生きている間は、BがAの唯一の相続人であることがはっきりしていますから、甲土地に関して何かあれば、Bに対処を求めることになるでしょう。
しかし、Bが亡くなり、更に相続が行われるようになると、甲土地の所有者が誰なのか分かりにくくなり、しまいには、所有者不明土地となってしまうわけです。
この意味において、甲土地のような土地は「所有者不明土地の予備軍」であると表現されることもあります。


相続土地国庫帰属制度が実施されてからは、Bは甲土地の所有権のみ手放すこともできるようになりました。

ただ、甲土地が必要なければ、無条件で手放せるわけではありません。

相続土地国庫帰属制度は、所有者不明土地の発生を抑制するための制度なので、使い道がなく放置されがちな土地については、極力、国庫に帰属させられるようにすべきと考えられます。
一方で、土地が国庫に帰属することにより、土地を管理する負担を国が負うことになるわけです。換言すれば、本来の所有者が管理責任を放棄して、税金によって管理してもらうことになるわけですから、やたらと認めるべきではないとも考えられるわけです。

そこで、相続土地国庫帰属制度においては、国庫に帰属させることができる土地を限定しています。

まず、手放したい土地の所有者は、法務大臣に対し、その土地の所有権を国庫に帰属させることについての承認を申請します。
手放したい土地があればいつでも、承認申請できるわけではなくて、「相続等によりその土地の所有権の全部又は一部を取得した者に限る」とされています。
よって、自分で購入した土地が、二束三文の荒れ地だったから、手放したかったとしても、相続土地国庫帰属制度を利用することはできません。

また、相続土地国庫帰属制度を利用できる土地も限定されています。
相続等によりその土地の所有権の全部又は一部を取得したとしても、その土地が以下のような土地であれば、相続土地国庫帰属制度を利用できないことになります。

1、建物の存する土地
2、担保権又は使用及び収益を目的とする権利が設定されている土地
3、通路その他の他人による使用が予定される土地として政令で定めるものが含まれる土地
4、土壌汚染対策法(平成十四年法律第五十三号)第二条第一項に規定する特定有害物質(法務省令で定める基準を超えるものに限る。)により汚染されている土地
5、境界が明らかでない土地その他の所有権の存否、帰属又は範囲について争いがある土地

6、崖(勾配、高さその他の事項について政令で定める基準に該当するものに限る。)がある土地のうち、その通常の管理に当たり過分の費用又は労力を要するもの
7、土地の通常の管理又は処分を阻害する工作物、車両又は樹木その他の有体物が地上に存する土地
8、除去しなければ土地の通常の管理又は処分をすることができない有体物が地下に存する土地
9、隣接する土地の所有者その他の者との争訟によらなければ通常の管理又は処分をすることができない土地として政令で定めるもの
10、6から9に掲げる土地のほか、通常の管理又は処分をするに当たり過分の費用又は労力を要する土地として政令で定めるもの

それぞれの詳細については、この記事では言及しませんが、結構、条件が厳しいことが分かると思います。

仮にこれらの条件をすべてクリアしたとしても、タダで手放せるわけではありません。
法務大臣がその土地の所有権を国庫に帰属させることについての承認した時は、土地の所有者には、負担金の納付が義務付けられます。

具体的には、「国有地の種目ごとにその管理に要する十年分の標準的な費用の額を考慮して政令で定めるところにより算定した額の金銭」の納付が義務付けられます。

負担金の納付は、負担金の額の通知を受けた日から三十日以内に、法務省令で定める手続に従い納付しなければなりません。負担金を納付しないときは、法務大臣の承認が効力を失うことになります。

負担金の額は、土地の区分と土地の地積により異なります。
例えば、宅地の場合は高額な負担金がかかりますが、農地や森林であれば、負担金の額は少なくなります。
広い土地であればあるほど、負担金の額が高額になることは言うまでもありません。
ちなみに、最低の負担金額は、二十万円となっています。


まとめると、相続土地国庫帰属制度を利用して土地を手放すためには、

1、相続等によりその土地の所有権の全部又は一部を取得したこと。
2、その土地が相続土地国庫帰属制度を利用するための条件をクリアしていること。
3、最低20万円からの負担金を納付できること。

この3点をクリアすることが求められるわけです。

いらない土地だからと手軽に手放せるわけではありません。
相続土地国庫帰属制度を利用する際は、利用できるかどうかの判断は難しいので、一度、専門家にご相談ください。

ちなみに、私はこうした記事を普段からお書きしています。
相談だけでなく執筆のご依頼もお待ちしております。


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