介護施設の現場から見えたIT

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Accessで介護支援記録システムを作った理由-6

公務員を定年退職後、私は縁あって社会福祉法人に採用となり、特別養護老人ホームで主に管理事務の担当として働き始めました。
介護・看護職をはじめ、多くの専門職が働く職場は初めてであり、好奇心が呼び起こされる毎日となります。
特に食事や排泄の介助など、介護業務の大変さを目の当たりにすることになるのですが、介護職員の動きを観察しているうちに、意外とパソコンに向かっている時間も長いことに気づきます。

職員数に比べパソコン台数が少ない上に、日々の入居者の介護記録を作成し、それらを整理したり、事故などの報告書を作成する必要があったためです。
日中の記録は夜勤者への引継ぎに必要となり、夜勤時の記録は翌朝の引継ぎに必要となるため、時間に追われているようにも感じました。
夜間、入居者に様々な動きが重なると、翌朝の引継ぎまでに日誌の作成が間に合わず、口頭で行われることも時々あったからです。

介護記録の作成にはExcelが使われており、しかも最初から日誌の体裁を取る形で作成されていましたので、最初のうちは、こんなものかと思っていたのですが、ある日驚くべき光景に出会います。
それは、職員の一人が、過去の日誌を何日分も印刷した中から、特定の入居者について記録した部分をハサミで切り抜き、それを白紙に順に並べて貼り付け、一定期間中の動静記録書として作り変えている作業でした。

動静記録書とは、入居者の容態の変化を確認し、次期の介護計画を策定する上で必要になるものですが、あたかも小学生が工作しているようなやり方に大きな衝撃を受けます。
その職員はExcelワークシート上のデータをコピペし、別の動静記録用ワークシートに貼り付ける方法を知らなかっただけのようでしたが、このとき介護現場におけるデジタルデバイドの存在を知ります。

当時の介護職員の多くは、高校卒業後、専門学校で介護福祉士の資格を取り、すぐ職員として採用されるケースがほとんどで、Excelを含むパソコンの操作は採用後に必要な部分だけ先輩に教えてもらうというのが普通でした。
このため、社会福祉士やケアマネなど、資格を取得していく過程でパソコンを学ぶ機会の多かった職員と比べ、情報スキルには大きな差があったようです。

そこで、介護記録を日誌の形式ではなく、ソートや抽出が可能なデータとして記録する方式に変え、入力方法も、誰でも簡単かつ効率的に行えるような手段を探し始めました。
ところが驚いたことに、それは実に身近なところにありました。
既に、大手情報通信会社が開発した「介護事業者支援システム」と呼ばれるオンプレミス型アプリがパソコンに組み込まれており、何と介護記録の入力が可能であるにもかかわらず、介護報酬の請求など他の一部の用途にしか使われていなかったのです。

これまでのやり方に慣れた職員から多少の抵抗はありましたが、このシステムに使い慣れるとすぐ不安も消えたようでした。
デジタルデバイドを克服する方法として、職員すべてに難しいソフトの習得を迫るよりも、始めから使い方が直観的で分かりやすく、誤入力にも対応できるシステムを使う方法のほうが現実的であることを知ったわけです。

このときの経験が、介護の現場で私が介護支援記録管理システムを作る大きな動機付けとなりました。
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