コラム59 宿日直許可の是非

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 医師の働き方改革が2024年4月から本格的に施行されました。これに伴い当直業務が制限され、医師の過重労働が制限される可能性が高まるとされています。しかし、旧来の医療体制を維持するべく様々な対策が練られ、医師の過重労働が法の抜け道を潜り抜け継続されうるリスクがあります。本日はその抜け道の一つである宿日直許可制度について考察いたします。 
 宿日直許可制度とは詳しくは厚生労働省のホームページに載っているので参照いただきたいのですが、要は寝当直の病院に関わる制度です。寝当直とはその名の通りほとんど寝ながら夜間の病院内待機ができる当直です。救急患者をほとんど受け入れない病院や慢性期病院であっても、入院患者さんのもしもの対応に備え「病院」と定義されている施設では医師の常駐が必要です。そこでの当直業務が通称寝当直と呼ばれているのです。寝当直であると厚生労働省に申請して認められた病院は、夜間の医師当直業務は宿日直許可制度に則られ運用されます。これに従うと、寝当直は勤務ではなく時間外労働でもなく、病院内で待機しているだけと定義されます。これにより、寝当直する前の日勤勤務からそのまま寝当直、そして次の日の日勤勤務が法律上可能になります。つまり、朝8時過ぎくらいから病院に来て通常業務をこなし、そのまま病院内の当直室で過ごし、翌日朝から17時過ぎまで働くような33時間以上の連続労働が可能となるのです。と言うか今までと同様にほとんど義務化されます。
 私自身の考えではいくら宿日直許可が認められるような施設における労働でも、33時間も病院内で滞在し続けるのは少しおかしいのではないかと思います。自分でお金を稼ぎたいなどの理由で希望する場合は別ですが、大半の医師は33時間も病院に留まる勤務は希望しない気がします。古い考えからの慣習で我慢して今までこなしてきた医師が多いのではないでしょうか。
私が所属する循環器内科はなぜか宿日直許可制度が非常に注目されています。その訳は24時間救急体制を取り続けるのが、事実上今の人員では働き方改革の制度に従うと不可能だからです。基本的には24時間体制で救急を受け入れるような病院に宿日直許可が下りる訳がないと思われがちですが、書類作成の妙などで宿日直許可が2024年度は取得できている循環器内科当直が散見されています。ご存知の通り夜間の心筋梗塞は一分一秒を争ってその場で治療を開始せねばならず、そのような患者さんが来院した場合には一睡もできない当直もあります。宿日直許可が下りてしまうとそういった場合に合法的に33時間以上の連続勤務を循環器内科医が強いられることになってしまうのです。働き方改革における宿日直許可制度はこの古い慣習を踏襲するのに非常に便利な抜け道です。せめて宿日直許可が下りていても病院滞在は24時間以内に止めるとか、それ相応の追加制度を設けないと、いつまで経っても医師の働き方は改善しないのではないでしょうか?

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