コラム60 給食

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コラム
 幼い頃、学校の給食時間は、まるで小さな冒険のようでした。それは、未知の料理との出会い、友達とのわいわいがやがやした交流、そして何よりも、その日に何が出るかというわくわくする期待感がありました。カラフルな野菜、香ばしいパン、時には外国の料理が出てくることもあり、それは私たちの小さな世界を広げる窓でした。学校給食は、単なる栄養補給の場ではなく、感性を育む教室だったのです。その食事には、栄養バランスが整えられており、成長する子供たちの身体だけでなく心も豊かにするよう計算されていました。私たちは、その時には気付かなかったかもしれませんが、食の大切さ、共に食べることの楽しさを、そこで学んでいたのです。  
 そして今、私は40代の医師として、病院での食事の重要性を、日々の業務を通じて深く感じています。病院食は、患者さん一人ひとりの状態に合わせて、最適な栄養を提供することに集中しています。病院食と聞くと、味気ない、食べにくいといったネガティブなイメージを持つ人もいるかもしれません。しかし、私の経験上、それは大きな誤解です。実際には、病院食は驚くほど美味しく、栄養面だけでなく、見た目にも心を込めて提供されています。毎日、患者さんと同じ食事を検食することが私の日課ですが、それは決して義務感からではありません。私にとって、その時間は一日の中で最も楽しみな瞬間の一つです。
 病院食を前にすると、私はいつも思います。「こんなに美味しいものを、患者さんに提供できるなんて素晴らしいことだ」と。例えば、やわらかく蒸された魚には、ふんわりとした味わいがあり、それでいて、栄養満点。野菜は色鮮やかで、食欲をそそります。糖尿病の患者さん向けのメニューであっても、味の深みと満足感を損なわないよう、工夫が凝らされています。塩分を控えめにしても、ハーブやスパイスでしっかりとした味わいを出しているのです。毎日の食事を通じて、私たちは患者さんに寄り添い、彼らの回復を全力でサポートしています。食事は、ただの栄養補給ではなく、心を癒し、身体を強くする力を持っているのです。
 このようにして、病院食を検食する毎日は、私にとって深い感動と喜びをもたらしてくれます。それは、学校給食で感じた純粋な楽しみとは異なり、患者さんの健康への貢献、そして食の可能性を改めて認識する機会となっています。食事が持つ力は、時に奇跡にも似た変化を人の身体にもたらすことがあります。栄養バランスが整った食事が、病気と闘う力を与え、回復への道を切り開くのです。私たちが提供する病院食は、単に病気を治療するためのものではありません。それは、患者さん一人ひとりの人生に寄り添い、希望を与えるメッセージでもあります。食事の瞬間は、病気との闘いの中での小さな休息であり、明日への活力を与えてくれるものです。私自身、患者さんと同じ食事を味わうことで、その深い意味を日々感じ取り、医師としての使命感を新たにしています。私たちの人生において、食事はただの物理的な栄養源以上のものです。それは、人々をつなぎ、感情を豊かにし、時には人生を変える力を持っています。私は、子供の頃に感じた給食の楽しさを今も心に留めつつ、病院食を通じて、患者さんの健康と幸福に寄与できることに、深い感謝と喜びを感じています。食事が持つ可能性を信じ、それを患者さんと共有できることは、医師としての私の大きな財産だと認識しています。

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