98歳のおばあちゃんの娘さん。
「入れ歯って、つけてあげてはダメでしょうか?。」
訪問に行ってこんな相談を受けました。
まだ訪問看護が開始になって2週間ほどです。
「入院するまではしっかり食べたいものを食べていたんですが、
入院すると『誤嚥するから』といって入れ歯は外され、
流動食のようなものばかり。
もう、こんな年なのに食べたいものも食べれないなんてね・・・」
「わかるんです。誤嚥したら・・・・肺炎になったら命取りですもんね。
でも・・・」
「入れ歯をつければ食べれそうな気がするんです」
娘さんは現役バリバリのヘルパーさん。
仕事でたくさんの高齢者のお世話をされてきています。
きっと長年の経験から、「入れ歯をつければもう少し、
好きなものが食べれそう」
そう思われたのでしょう。
退院時に何かあったときのためにと、吸引器がレンタルされていました。
もちろん病院からの指示です。
でも退院してから一度も使ったことがありません。
入院期間は3か月ほど。
3ケ月前まではトイレにも自分で行き、好きなおせんべいをバリバリ食べ、
デイサービスにもいかれていました。
3ケ月の入院生活で、日常生活がすっかり何もかも変わってしまいました。
ご本人に話を聞くと
「おせんべいが食べたい。タコ焼きが食べたい。
〇〇のタコ焼きおいしいねん」
しっかり話されています。
入れ歯もきれいに保管されていました。
さすがに入院期間中に歯茎も痩せてしまったので
入れ歯を入れてもしっかりとくっついてくれるわけでもなく、
装着は難しいかな…と思っていました。
でも、「訪問歯科診療が使えるから、口腔内の状態を見てもらって、
入れ歯のフィッティングをしてもらったら、何とかなるかもしれない」
そう思い、娘さんに「おうちに来てくれる歯医者さんがあるから、
一度見てもらってはどうですか?
入れ歯をきちんとつけることができたら、もう少し食事が食べられると思う」
と話しました。
娘さんも「そんなサービスがあるんですね~!ぜひお願いします」
とのことだったので、ケアマネジャーに相談し、
訪問歯科診療をお願いしました。
1週間後、歯科の先生が往診に来られ口腔内をチェック。
「確かに歯茎は痩せてるけど、入れ歯安定剤を使えばなんとか入れ歯は使えるかも」
「2週間後にもう一度来るときに作っておくけど、市販の入れ歯安定剤で代用してみて」
といわれたとのことで、娘さんは早速薬局に入れ歯安定剤を買いに行きました。
そして・・・
看護師の定期訪問時。
おばあちゃんの顔が少し違う。
なんだか・・失礼ながらいつもよりしっかりしているというか・・・
あれ?
歯が入ってる!!!
娘さんは市販の入れ歯安定剤を見よう見まねでつけて、
おばあちゃんに装着。
すると見事にぴったりフィットしました。
そして
「昨日はおせんべい食べれたんです!」
娘さんは嬉しそうに看護師に話しました。
「入れ歯のこと、話してよかった。ずっと気になってたんです。
もうこのまま、好きなものも食べれないのはかわいそうだって。
誤嚥性肺炎も怖いけど、でも、もう、こんな年まで生きてきて、我慢させるのはかわいそうって思ったから。
何かあっても私の責任だから…いいです。
おせんべい食べたときの母の顔は、本当にうれしそうでした。
相談してよかった。
ありがとうございました。」
そういってくださいました。
おばあちゃんといえば、
「おせんべいおいしかった。もう食べれないと思ってた。
タコ焼きも食べたいわ」
と笑ってくれました。
危ないから、もしものことがあったら・・・・
そりゃそうでしょう。
でも、少し前向きに考えて、何かちょっとでも
本人の希望をかなえることはできないか。
ちょっとでも家にいれてよかったと思ってもらいたい。
そうな風にみんなで考えることができるのは、
在宅医療のだいご味。
QOLを優先した医療ができるのは在宅だからだと思っています。
相談してください。
無理かもしれないと自分で決めないで。
きっと何かしらのアドバイスができるはず。