スコッティVSエリエール

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法律・税務・士業全般
御存知の通り、トイレットペーパーのブランドですが、
「スコッティ」を擁する日本製紙クレシアが、
「エリエール」を擁する大王製紙を、特許権侵害で訴えたというニュースを聞きました。

国内シェア1位の「エリエール」を2位の「スコッティ」が訴える、という形になっています。「スコッティ」は2016年から「3倍長持ち」するトイレットペーパーを売出しており、今回、「エリエール i:na(イーナ)トイレットティシュー 3.2倍巻」が販売の差止等を請求されているとのことです。

関連している特許は、
 ①特許第6735251号
 ②特許第6186483号
 ③特許第6590596号
です。今回は、上記の特許の内容がどんなものか覗いてみます。

そのうち、特許第6735251号の特許請求の範囲は、トイレットロールについての発明であり、以下のような内容で権利が設定されております。

【請求項1】
 2プライに重ねられ、エンボスを有するトイレットペーパーをロール状に巻き取ったトイレットロールであって、
 前記エンボスのエンボス深さが0.05~0.40mm、
 巻固さが0.3~1.4mm、
 巻長が63~103m、
 巻直径が105~134mm、
 巻密度が1.2~2.0m/cm2であり、
 前記トイレットペーパーの比容積が、4.0~6.5cm3/gであり、
 前記エンボス1個当たりの面積が、2.5~6.0mm2である
トイレットロール。

 ※請求項2以下は省略

発明が解決しようとする課題は、
「坪量を下げずにシートおよびロールの柔らかさに優れると共に1ロール当りの巻長を長くし、販促効果を高め、持ち運びや保管時の省スペース性に優れたトイレットロールの提供を目的とする。」
というものです。

坪量(つぼりょう)というのは「洋紙、及び板紙1m²当たりの重量」の事です。
つまり、上記の発明は、
紙の単位面積あたりの重量は変えずに、1ロールあたりの巻長を長くするためのもので、手触りなどの感触を犠牲にすることなくそれを達成する、というのを目的としたものです。

この発明は、各パラメータ値の範囲で規定されており、ややもすると、願望クレーム(発明者が望むパラメータの値を記載したのみのクレーム)?とも思われますが、明細書には複数の実施例とその評価結果が記載されております。

また、進歩性が認められるにあたっては、
最終的に「エンボス深さ」のパラメータの値が従来技術と異なる、という点が
決め手となったようです。

エンボス深さ、巻固さ、巻長、巻直径、巻密度、トイレットペーパーの比容積、エンボス1個当たりの面積、のそれぞれのパラメータについては複数の引用文献に記載されています。
引用文献は、それぞれのパラメータの値の組み合わせが請求項1と同じものはなく、請求項1とパラメータを同じ値にするには、複数の文献を組み合わせる必要がありました。拒絶理由通知に対し、代理人はうまく文献の組み合わせを否定して特許査定に導いております。

具体的には
 ・巻固さの範囲及び巻長の範囲の両方が請求項1に共通
 ・エンボス深さの範囲及びエンボス面積の範囲の両方が共通
の文献は存在していなかったようで、それぞれの文献のパラメータの「一部のみを抽出」して引用するのは不当である旨を主張して、容易に想到し得ないと主張してます。

上記の請求項1の発明の場合、
「1ロール当りの巻長を長く」という点が解決しようとする課題に記載されていることから、「巻長が63~103m」というのは解決しようとする課題そのものなのでは?(願望なのでは?)という質問を受けることもあります。

この発明の場合、
シートおよびロールの柔らかさを犠牲にすれば、巻長を長くするのはおそらく容易であり、
それを犠牲にすることなく巻長を長くする、
というのが課題になってます。
よって、正確には、
「巻長が63~103m」の場合において、シートおよびロールの柔らかさを犠牲にしない、
というのが解決しようとする課題になるかと思います。「巻長が63~103m」は、発明の前提条件とも言えます。

「シートおよびロールの柔らかさを犠牲にしない」という点のみを課題にしてしまうと、多くの文献と課題が共通してしまうため、進歩性が否定されやすくなります。共通の課題を有する先行文献は組み合わせる動機があるとして、簡単に進歩性が否定されてしまうからです。
なので、特許の明細書を作成する人は、一生懸命、発明の解決しようとする課題を先行文献からずらして(ずらせるように)記載するように心を砕いております(いると思います)。

「巻長が63~103m」の場合において、シートおよびロールの柔らかさを犠牲にしない、という課題を考えると、
これは同業他社製品も実現したいでしょうから、
この発明はとても邪魔になると思います。
訴える側(特許権者)は、この発明のパラメータに関する限り、相手方の製品の値を把握した上での提訴でしょうから、おそらく製品が特許の権利範囲から外れている、ということはないような気がします。
進歩性判断の妥当性についての争うのかと思いますが、今後経過がでれば(すごい先の話になると思いますが)ウォッチしたいと思います。


















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