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部活動での体罰、学校での不適切指導… 法的責任を問えないのか弁護士に聞いた


兵庫・姫路女学院高校のソフトボール部顧問が部員に体罰を加えた問題や、2019年に熊本市の中学生が、小学6年時の担任の不適切な指導が原因で自ら命を絶ってしまった問題など、心を痛めてしまうニュースが後を絶ちません。
こういった問題は、法的責任を問われにくいのでしょうか。
佐藤みのり法律事務所の佐藤みのり弁護士に聞きました。
暴力は刑事罰の可能性 刑事責任の追及に至らない理由は…



Q.教育現場で体罰を加えることは、学校教育法11条で禁止されています。しかし、教育委員会や学校による、内部での懲戒処分で終わることが多い印象です。なぜ、刑事責任を問われにくいのでしょうか。
佐藤さん「学校教育法11条は『校長および教員は、教育上必要があると認めるときは(中略)児童、生徒および学生に懲戒を加えることができる。
ただし、体罰を加えることはできない』と定めています。
確かに『体罰』を禁じてはいますが、問題となる教師の行為が、教育上必要な『懲戒』に当たるのか、禁止されている『体罰』に当たるのか、判断に迷うケースもあります。



文部科学省は、体罰に当たるか否かは『当該児童生徒の年齢、健康、心身の発達状況、当該行為が行われた場所的および時間的環境、懲戒の態様などの諸条件を総合的に考え、個々の事案ごとに、客観的に判断する』としており、『体に対する侵害を内容とするもの(殴る、蹴る、たたくなど)や、肉体的苦痛を与えるもの(正座などの特定の姿勢を長時間にわたって保持させる、トイレに行かせない等)と判断されれば、体罰に該当する』としています。
このように、学校教育法11条の体罰にはいろいろな態様があり得ますが、その中でも、殴る、蹴る、たたくなどの行為は明らかに刑法で定められた傷害罪(刑法204条)や暴行罪(刑法208条)にあたり、刑事罰に問われ得るものです。



教育現場において、このような行為があったにもかかわらず、刑事罰に問われにくいというイメージを持たれているのは、被害者(児童、生徒の側)が被害届を提出しないケースが多いことが一因でしょう。
被害者のいる犯罪では原則、被害届がないと捜査は開始されないため、刑事責任の追及に至らないのです。
社会が体罰に寛容だった時代は『学校内での出来事で、教育目的で行われた行為だから』と被害届を警察が受理しないケースもあったのでしょうが、最近は社会の目も厳しくなっており、被害届を出せば、警察がきちんと捜査してくれるケースが増えています。
実際、2019年に熊本県で、小学校教諭が男子児童の頬を1回平手打ちしたケース(男子児童にけがはなし)では、保護者が警察に被害届を出し、教諭が暴行罪で罰金刑(5万円)に処されました(※冒頭の熊本市の不適切指導とは違う問題)」




Q.教育現場や部活動における暴力は、法的な責任は問われにくいのでしょうか。問われにくい場合、それはなぜでしょうか。
佐藤さん「教育現場や部活動中でも暴力である以上、法的責任は問われます。法的責任が問われにくいというのは、加害者の誤った指導や教育によって、被害者自身が『こうした暴力も適切な指導の一つだ。
成長させてもらっているのだ』と誤解させられ、法的責任を追及するに至らないことも一因です。
法的な責任を問うためには、先述した通り、被害者側が行動を起こす必要があります。
刑事罰を求めるのであれば、被害者が被害届などを警察に提出しなければいけませんし、けがの治療費や慰謝料なども自ら請求しなければ、放置されることが少なくありません」




Q堺市教育委員会が市立小学校で教諭による生徒への体罰があり、校長が保護者や市教委に隠していたというケースもありました。
佐藤さん「報道や堺市の発表によると、『体育の授業中、ふざけていた男子児童に腹を立てた教諭が尻を蹴り、男子児童が泣いて尻を手で押さえていた様子を目撃した学級担任が教頭に報告、教頭が校長に報告した。
校長は教育委員会に報告する必要があると理解していたが、校長として当該教諭と関わって改善していきたいという思いから、教育委員会および被害児童保護者に報告しないと判断した』とのことです。




体罰の禁止を徹底するためには、閉ざされた学校内で行われる体罰について、気付いた時点で速やかに情報共有し、教育委員会も含め、組織的に適切な防止策を講じることが大切だと思います。
また、家庭とも情報を共有し、体罰を受けた子どもの心のケアに努める必要もあります。
学校は、子どもの利益を一番に考え、対応することが求められているように思います。




Q.主に体育会系の部活動における暴力が根強く続いていますが、要因は何だと思われますか。
佐藤さん「体育会系の部活動では、暴力を振るいながら指導するやり方が『伝統』として横行していたようです。
こうした狭い世界の中では、加害者は暴力を『熱意ある指導』と考え、被害を受ける学生側も『殴られ、蹴られて上達するもの』と受け入れる感覚が一般的だったのでしょう。
かつて、暴力を受けてきた者が今度は指導者になり、こうした誤った認識を伝え続けるため、今でも暴力が完全になくならないのだろうと思います」




Q.体罰や不適切な指導を可能な限り根絶させるためには、どのような対策が必要でしょうか。
佐藤さん「先述した通り、部活動内だろうと学校外だろうと、人を殴ったり蹴ったりすれば犯罪になります。
けがを負わせれば傷害罪にあたり、15年以下の懲役、または50万円以下の罰金に処される可能性がありますし(刑法204条)、けがを負わせるに至らなかったとしても、暴行罪として、2年以下の懲役もしくは30万円以下の罰金または拘留(1日以上30日未満、刑事施設に拘置される)、もしくは科料(1000円以上1万円未満の金銭を徴収される)に処されることがあります(同208条)。




法的な処罰が用意されている以上、あとは学校関係者の意識を変えるとともに、社会全体がこうした暴力を断固として許さない意識を共有することが大切だと思います。
社会全体の意識が変わることで、声を上げる被害者が増え、法的責任を追及される加害者も増えるでしょう。
そうなれば、さらに社会の意識が高まるという好循環が生まれ、悪い伝統を断ち切ることができるのではないでしょうか。
メディア報道などの影響もあって、体罰に対する社会の目は厳しさを増しており、今まさに意識改革が進んでいる最中だと思います」


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