百万回の「いいね」より大切なもの

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百万回の「いいね」より大切なもの

 皆様こんにちは。BB工房です。つい最近ブログの真似事のようなことを初めて悦に入っています。私にとってブログは独り言みたいなもので「王様の耳はロバの耳」と小さく叫ぶような密かな楽しみに酔いしれています。気が付けば心優しい皆様からフォローしていただき、独り言を聞いてもらえたようなプチ満足感に浸っています。フォローして頂いた皆様、本当にありがとうございます。しかし私はこのドメインでどうしても言いたいことがあります。百万回の「いいね」より大切なものがこの世には有るということです。

ひとり寂しく作例を作り続け

 私は物心ついた頃からの模型好きです。子供のころから模型を作ることが何より好きな変な少年でした。現在ではインスタグラムなどで自分の作品をお披露目出来ますが、そんな便利なツールが無かったころは、車模型専門誌に作例の写真を送って掲載してもらったりしていました。インターネットが発達していなかったころは、模型の同士と意見交換する機会はほとんどなく一人寂しくそんなことを続けていました。それでも作例が専門誌に掲載され、ミニカー収集のお仲間さんたちから「見たよ」と言われると嬉しいものでした。

社会的責任と模型貧乏

 私は子供のころから貧乏で、結婚して二人の子供が成人した今でも貧乏です。「社会的責任を果たした上で模型三昧する」が私のポリシーです。当たり前ですが働いて家族を養うという社会的責任を果たすことが優先されるため、模型に回せる資金は貧乏という意味です。貧乏な私はジャンク(破損したり傷ついていたりする不完全品)ミニカーを安価で入手してレストアすることを楽しみとしていました。もちろんジャンクミニカーを改造したような作例も幾つか専門誌に掲載して頂きました。

貧乏人のジャンク再生術

 貧乏モデラ―には洒落た工作室も高価な工作ツールも有りません。BB工房とは名ばかりで私の模型工作机は引き戸を外した押し入れの棚板です。お金が無いので工具や材料は一流品を揃えられません。そこでは数々の貧乏モデラ―の工夫が生み出されました。例えば別れた彼女に貰ったマニュキアを塗装に使うとか、透明スプーンからキャノピーを削り出すとかの涙ぐましい技です。こうした貧乏人のジャンク再生術は模型誌に掲載された作例にコメントとして記載されました。

ジャンカー クジラさん

 ミニカー収集のお仲間さんは複数いましたが、その中にジャンクミニカーが好きな(仮名)クジラさんがいました。クジラさんはジャンクミニカーをあの手この手で再生する達人でした。クジラさんは象に踏まれたようなミニカーも再生してしまいます。私もジャンク再生は大好きな分野ですのでいつもクジラさんとはジャンク談義で楽しいひと時を過ごしていました。

模型誌の片隅の記事

 ある時クジラさんは「透明スプーンでキャノピーを作る記事、覚えていますよ」と言いました。その記事が掲載されたのは20年も前のことです。まだ若いクジラさんは学生だったころのお話です。車模型専門誌の読者作例掲載コーナーに小さく掲載された記事をクジラさんは覚えていました。他にもマニュキアで塗装した作例や木製スプーンからサーフボードを削り出した作例などことごとくを覚えていました。
 模型誌の片隅に切手くらいの大きさでひっそりと掲載され続けた記事を、覚えていてくれた人がいたことに深く感銘しました。私はそうした奇想天外な工夫を誰かにわかって欲しかったのです。自分が言いたかったことをわかってくれる理解者がこの世にたった一人でもいたことに本当に救われました。
(カバー画像が透明スプーンからキャノピーを削り出したミニカーです。)

百万回の「いいね」より大切なもの

 例えば私はスポーツに無関心で誰かが何かの試合に勝ったと聞けば御祝儀のように「いいね」と言うかもしれませんが、何がどういいのかわかりませんし知りたくも有りません。そんな無関心な私に心の無い「いいね」を言われた方も嬉しくないでしょう。その狭い世界で同じ苦労や喜びを分かち合った人にわかってもらえてこそ価値が有ると思うのです。
 よく大戦中に敵味方だったパイロットが戦後に会して敵味方だった憎しみを超えて深くお互いを理解し称えあったような話を聞きます。彼らは戦争と言う不条理に押されながら大空で孤独に戦った悲しみや苦しみを敵味方超えて分かち合えたから理解しあえたと思うのです。
 ジャンクをレストアする。そんなニッチな世界の楽しさや苦労を共有できるひとがいて、その人にわかってもらえてこそ価値があると思うのです。
 私が百万回の「いいね」より尊いと感じた大切なものとは、このジャンクレストアという狭い世界の楽しさや苦労を共有できる理解者がわかってくれたことだったのです。

クジラさんのその後

 クジラさんとはジャンクミニカーを通じて長年交友を深めました。幾多の有意義な時間を過ごし私の模型人生は満足度を増しました。
 あるとき他のミニカー仲間から利用されて嫌な思いをしたクジラさんは仲間から距離を置き疎遠となってしまいました。その後クジラさんは、模型以外の分野に興味が移ったらしく模型店で偶然会う機会も無くなりました。良き理解者と会えなくなって悲しいですが、好きなことは変わるものです。私より30歳近く若いクジラさんなら、いろんな分野に興味が移るのは当然です。若者が他の世界に羽ばたこうとするのを引き止めるべきではありません。かく言う私とて、実車やバイク、サーフィンにスキー、異性交遊と色んなものに興味が遷り、そのたびに模型は疎かになりました。しかし人々は最後に必ず一番好きな分野に戻って来ます。
 私はいつかクジラさんと再び模型談義が出来る日を夢見て、それまで気長に生きようかと思っています。

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