高校2年生の春、僕は男性に一目惚れをしました。
あの出会いの瞬間の衝撃は、今でも鮮明に覚えています。
高校時代、水泳部に所属していました。
4月、新入生の部活見学の日。よく晴れた日でした。プールサイドでストレッチをしていると新入生が数名、顧問の先生に連れられて来ました。
(どんな子たちかなー。)
なんて思いながら、後輩たちに視線を向けると一人の後輩の姿が目に止まりました。
(え、なにこれ...。ドキドキする。)
彼の姿を見たときに一瞬、時間が止まったような感覚がありました。大げさにじゃなくて、本当にそんな感覚でした。心臓がドキッとして、うまく表現できないですが...電気が走ったような、そんな感覚でした。こんな感覚を経験したのは、このときが最初で最後でした。
そして彼は、入部しました。
その日から、彼のことが頭から離れなくなりました。
考えるとドキドキするし、仲良くなりたいというか、特別になりたいというか、今までに感じたことのない感情が芽生えていました。
しばらくはこの感情の正体がなんなのか分かりませんでした。分からないというよりも、分かりたくなかったのかもしれないです。
部活に行くと、彼に会える。
それだけで嬉しい。
ニコって笑うとかわいい。
楽しそうにしてくれると嬉しい。
一目惚れをしたあの瞬間には、彼のことをなにも知らなかった。
なにも知らないのに、なにも分からないのに好きになってしまった。
それから一緒に過ごしていく中で、彼のことがどんどん分かるようになった。
彼のことが分かるようになればなるほど、好きな気持ちも膨らんでいって、確実に彼に惹かれていっている自分がいました。
気づいた頃には、この気持ちが“恋”だと認めざるを得なくなっていました。
それからは、葛藤の毎日でした。
自分が高校生のときは、まだ同性愛とかLGBTQという言葉は聞き慣れなくて情報も少なく、はるな愛さんなどのオネエタレントをときどきテレビで見る程度の情報でした。
日常生活の中で、自分と同じように同性を好きになる人がいるっていうことがイメージできなかった
もしかしたら、こんな風に男が男を好きになるのって自分だけなのかもしれない。
自分って、すごくおかしい存在かのかもしれない。
そんな風に思うようになりました。
友達との関わりの中でも、友達同士でスキンシップが少し過度だったりすると
「お前、ホモなんじゃないの?」「キモイ」「ホモとか死ねばいいのに」
とか、そういった言葉も耳にするようになりました。(自分が直接言われたわけではないです。)
ホモはキモイ、死ねばいいのに
自分が直接言われた言葉じゃなかったとしても
聞こえてきたその言葉に過度に反応し、勝手に一人で傷ついていました。
一番辛かったのは、日々大きくなっていくどこにも持って行きようのない彼に対する大好きな気持ちと彼に対する罪悪感でした。
罪悪感というか、気持ちのズレというか。
自分は恋愛対象として彼のことを見ていて、部活の先輩後輩の関係でもあるから距離は縮まりやすくて、どんどん仲良くなっていく。
でも彼にとって自分は恋愛の対象ではなくて、部活の先輩としての自分を慕ってくれている。
そんな純粋な彼を、自分は性的な対象としても見てしまうことがありました。
彼は、純粋に部活動の先輩後輩として自分のことを慕ってくれているのに、自分にはそうじゃない不純な感情がある。
それって相手に対して嘘があって、本当は下心もある状態で、自分がすごく悪いことをしているような、そんな感覚が強くなっていって
自分が気持ち悪くて、気持ち悪くてしょうがなくて
でも、この好きな気持をどうすることもできなくて
誰にも相談できなくて
このまま一生こんな感じで、自分は一人ぼっちなんじゃないかっていう思いがずっと頭の中を巡っていました。
高校2年生の冬ころから体調にも影響がでるようになってきました。
頻繁に、漠然とした不安が強くなって過呼吸を起こすようになったり、高校3年生になった頃には幻聴も聞こえるようになっていました。
「死ねばいいのに」「いなくなればいいのに」そんな声が一人になると聞こえていたように記憶しています。
家に帰りたくなくて、一人になりたくて、学校の帰りによく海に寄り道して
海岸で一人でよく泣いていました。
携帯で自殺の方法とかよく調べていました。
それくらい追い込まれていました。
今だからこそ、当時の経験を前向きに捉えられるし、自分の成長のために必要な過程だったと解釈できるけど、本当に辛い2年間でした。
当時の自分に会えるとしたら、全力で抱きしめてあげたいです。
「大丈夫だよ。未来の自分は、キミが思っているよりもずっと生き生きしているし、毎日たのしく過ごしているよ。これから先の人生は、今は想像もできないような素敵なたくさんの出会いが、キミのことを待っているよ。そして、たくさんの友達に恵まれる。キミは、一人ぼっちなんかじゃないよ。」
って教えてあげたいです。
この苦しい状況で、何もしなかったわけではないです。高校3年生の冬。思い切って担任の先生に相談しました。
先生は30代前半くらいの姉御気質な人で、クラスメイトや保護者からとても慕われている人でした。僕自身も慕っていて、とても信頼できる人だと思っていました。
どこまで相談するか悩みましたが、一人になると声(幻聴)が聞こえることと、不安になると過呼吸になることを相談しました。男性が好きだということは、どうしても言えませんでした。
友達にも親にも兄弟にも、誰にも相談できなくて、唯一打ち明けていいと思った存在でした。とても緊張しました。勇気を振り絞って伝えました。
これを打ち明ければ何かがきっと変わる。大丈夫。
そんな期待があったと思います。
でも実際は、何も変わりませんでした。
「あんた、そんな暗い顔してたらいかんで。あんたは受験も終わって志望校にも受かって、もう明るい未来しか待ってないやん!明日からもちゃんと学校きなさいよ!」
一字一句とまでは覚えてないですが、そんな感じのことを言われた記憶があります。そして、それで話しが終わってしまいました。
頭が真っ白になりました。
え?それだけ?もっと真剣に、もっと親身になって色々聞いてくれるんじゃないの?
そんな気持ちでした。その日、家に帰ってからいっぱい泣きました。唯一、話してもいいと思った人にちゃんと聞いてもらえなかった。ずっと一人で抱えてきたものをやっと誰かに打ち明けられたのに、受け入れてもらえなかった。最初は、そんな気持ちでした。
ひとしきり泣き終わったあとは、意外とスッキリした気持ちでした。
多分、ずっと溜め込んでいたものを少しでも吐き出すことができたからだったんじゃないかなと思います。
それと同時に、
これは誰かに頼っちゃいけない問題なんだ。
自分で考えて自分で解決しないといけない問題なんだ。
そんな、諦めというより覚悟に近い気持ちに変わりました。
どんなに考えても、考えても、考えても
死にたいくらい苦しかったけど、結局自分には死ぬ勇気もなくて
かと言って、どうしたいかも分からなかった。
そして彼に気持ちを打ち明けられないまま、気づけば高校3年生の3月、高校卒業の日を迎えました。