世界で一番美しい場所⑩

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これは世界で一番美しい場所、ローフォーテン諸島(ノルウェー北西部)を私がヒッチハイクで旅して回った時の記録。

第0話はこちら


(前回のあらすじ)
ホビットハウスでの一夜は白い地獄だった。

バイキングに連行される

朝の8時50分、40分の旅を終えた私はレクネスに到着した。ご好意で眠らせていただいたおかげで身体はいくらか軽くなっている。ビーチ入り口の駐車場から乗せてくださった若いカップルのお二人が車の窓を閉めて走り去るのを見送るまで、私は何度もお礼を言った。(お二人は昨晩ホビットハウスのあるビーチでテント泊をした後帰るところだったとか。)

すでに開いていたスーパーで焼きたてのパンを朝食用に買って食べつつ、レクネスの街を眺める。レクネスはスボルベルとレイネのちょうど真ん中くらいにあるこの辺りでは大きめの街で、学校もあるようだった。
 昨日レイネに向かう時はお昼に近い時間だったため車が途切れない程度の交通量もあったが、今はまだ朝方なのでほとんど車がない。それでもスーパーマーケットの建物や学校が見えたことで、ホビットハウスがあるビーチのような、途中リタイアで行き倒れたら死ぬかもしれない僻地から「人里に帰ってきた」という実感が湧いて私は「ほっ」と安心した。昨晩はそれくらい疲れていたし、それくらい心身ともに凍えていたのだ。
 無事にここまで帰って来れて本当によかった。

ビーチのあたりでは晴れていた空はレクネス到着の時点で曇ってしまっている。天気予報は曇りから雨なので、もしかしたらお昼にかけて天気が悪くなるのかもしれない。
 ヒッチハイク初日のように雨だけは降らないでほしいと私は祈った。


朝食と仮眠を終えた午前10時過ぎ。
 ラウンドアバウト近くで立っていると学校の先生をしているというお姉さんに拾っていただいた。お姉さんはオスロ生まれでローフォーテン育ち。レクネスの東(スボルベル寄り)に15分ほど行ったところに住んでいるらしい。お姉さんが働く学校は Bostad のバイキングミュージアムの近くとのことで、今日はサマースクールの準備のためにこの時間に通勤しているの、とお姉さんは言った。来週で学校が終わって夏休みなので、夏休み中のサマースクールの案内をこれからするのだとか。

「ここまで来たんだし、せっかくならバイキングミュージアムに行きなさいよ。」
とお姉さんは言う。
「絶対に行く価値があるから。」

私は迷った。バイキングミュージアムの存在は知っていたものの、お姉さんと会うまで行くことを諦めていたからだ。スケジュール的にも体力的にもヒッチハイク旅は今日が最終日。初日以上の長距離をナルヴィクまで帰らないといけない。そのため、寄り道している時間はないと思っていた。

「最悪、バス使えばいいのよ。大丈夫。それまでには見終わるから!」
お姉さんの口から人を惑わす声がする。いや、しかし、、、

「行きます。」

言ってからハッとして正気に戻った。気づいたらお姉さんの甘い誘惑に負けている。ナルヴィクまでの行程を考えるとやっぱりそんな時間はない、と思うが後の祭りだった。
 お姉さんのまっすぐな目を前にして、口に出した言葉は取り消すわけにはいかない。

「決まりね。」
お姉さんの笑顔と地元愛に押される形でバイキングミュージアムへと連行される。
 さすが日頃子供たちを相手にしているだけある。まんまと乗せられてしまった。

途中お姉さんが働く学校を通り過ぎる。
 …お姉さん、仕事はいいのだろうか。


バイキングミュージアム

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結論から言って、バイキングミュージアムは最高だった。

ふいごを使った製鉄、手投げ斧を的に当てる訓練、バイキングの食生活を再現したコーナー、バイキング将棋など、アクティビティ重視の施設はどこを切り取っても新鮮で時が経つのを忘れるほど。
 ホスピタリティもよく、私が背負うバックパックをしまうロッカーがなく困っていたら、バックヤードにこっそり置かせていただけた。おかげで身軽になって施設内を歩き回ることができたのは本当に嬉しかった。

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また、スタッフの方々がバイキングの衣装を着て当時の生活を再現していたのも個人的によかった。後で聞いて驚いたのはスタッフたちはツーリズムを学んでいるヨーロッパ内のインターンということで、私に将棋を教えてくれた方はイタリアから来たローラさんだとか。
 こういう体験型施設はよくスタッフが高齢すぎたり、バイト感が強くて内容よりもそういった運営の方に気が散ってしまうのが残念だ思うので、熱量があればノルウェー人にこだわらないというのは良いアイデアだと私は思った。
 文化を魅せるのが先で、史実はその後というのは順番としても合っているように思う。先を急ぐ私でも気づけばバイキングミュージアムで2時間半も過ごしてしまったのだから。

まず興味を引いて、深く知ろうというきっかけを作ること。
 ここをお勧めしてくれたお姉さんは、本当の意味で「先生」なんだなと思う。私は気付かないうちに彼女の教え子になっていて、まんまとバイキングについて学ばされてしまったようだ。

先生、おすすめありがとうございました。




次回、最終話。
帰路。
お楽しみに!

*更新は毎週日曜日です。
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