世界で一番美しい場所⑧

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これは世界で一番美しい場所、ローフォーテン諸島(ノルウェー北西部)を私がヒッチハイクで旅して回った時の記録。

第0話はこちら


(前回のあらすじ)
バスに乗りたい誘惑と戦って、勝利した。

最果てへ

オーの手前のソーヴァーゲン村にさしかかった時、道路の角でマットか絨毯のようなものをくくりつけた大きなバックパックを足元に置いて私が来た方向を見ている、眼鏡をかけた背の高い白人のお兄さんと目が合った。
「ヒッチハイク中ですか?」
と私から聞くと、彼は「そう。オーまで行くところだよ。」とにっこりと笑う。

私もだと言うと、なら一緒にここで待とうということになった。

彼の名前はフェイビアン。フランスのアルプス地方出身らしい。背は高く190cmくらいありそうだが、細身のため威圧感はなかった。
 フランスから今までずっとヒッチハイクで旅をしてきているらしい。バックパックにくくりつけた大きなマットのような毛皮はトナカイのものらしく、途中ノルウェーでヒッチハイクしていた時に拾ってくれた漁師からもらったとのことだった。
 なんというか、私と比べてヒッチハイクのスケールが違う。。

このヒッチハイクの大先輩と車を待っている間に、ヒッチハイクの極意を聞いておきたいと私は思った。
「どうやってヒッチハイクをしているんですか?」
と私は聞く。すると、フェイビアンさんは
「コツは3つあるよ。」
と言って
「一番大事なのは満面の笑みで待つこと。2つ目はコミカルにサインを出すこと。行き先を書いたスケッチブックよりも、まずは止まってもらわないとね。」
と続けた。
「3つ目は、1箇所で待つのは30分まで。30分待って来ないなら次の場所に行こう。」

なるほど、と私は大きく頷く。
 確かに、今まで私はコミカルさが足りなかったかもしれなかった。
 それに30分待ってもダメなら次に行くというのもこれまでの道中で何となくやってはいたが、こうして大先輩のお墨付きがもらえたことで自信を持てたと思う。

「そういう訳だから、そろそろ動こうか。実は、僕ここで待ち始めて30分くらいになるんだよね。」
 フェイビアンさんはそう言うと、バックパックをよいしょと背負った。
 ちょうどその時、一台の車がやって来た。フェイビアンさんと私、2人でにっこり笑って両手の親指を立て(ヒッチハイクをしているという仕草)コミカルにぐるぐると腕を回す。まるで下手なヒップポップダンスだ。

果たして、その車は止まった。
 さすが大先輩の教え。。。

まずフェイビアンさんが車に近づいて、2人乗れるか確認する。もしダメなら私は居残りだと思った。先に待っていたフェイビアンさんを優先するのが筋というものなので。

運良く2人乗れると言うことだったので、私もご相伴に預かることができた。
 車に乗っていた老夫婦はフランス人らしく、オーまでの短い時間ではあるものの、フェイビアンさんとフランス語で色々話して盛り上がっていた。どんな話の流れだったのか分からないが、2人ともおやつにどうぞとルートフィスク(ノルウェーの伝統的な白身魚の保存食)までいただく。
 ルートフィスクはとても独特な味がした。決して不味くはないけれど、美味しい美味しくない以前に慣れない味だった。フェイビアンさんが言うには、老夫婦も買ったはいいものの持て余してしまっているらしい。

そうこうしているうちにオーに到着した。
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オー

オーはナルヴィク方面からローフォーテンを抜ける道の終着点だ。
 道路の最後は大きな駐車場になっていた。老夫婦にそこで降ろしてもらい、お礼を言う。

時刻は18時40分。もういい時間だが、この時期の北欧は白夜のシーズンなので空はまだまだ青々としている。
 フェイビアンさんが野宿スポットを探すと言うので、オーの散策を兼ねて一緒に行くことにした。キャンプサイトはあるのだが、フェイビアンさんのこだわりとして絶対にキャンプサイトでは泊まらないらしく、それ以外の場所で野宿に良さそうな場所を探すのだそうだ。彼はスマホどころか携帯電話も持っていないらしく、代わりに地図を広げて現在地を確認し始めた。
 自分が言うのもなんだが、ヒッチハイク旅をする人は頭のネジが何本か外れているのかもしれない。

オーには何件か赤い壁と芝の屋根の建物があり、他の場所は基本的にタラが干されていた。ヘニングスヴァール村との違いは、干されているタラが頭の部分しかないこと。そういえば、レイネまで送ってくださったフレデリックさんがタラの体の部分はアフリカに持っていって加工するんだと言っていた。この辺りのタラはその残りなのかもしれない。


ホビットハウスへ

私はフェイビアンさんと違ってテントなど野宿用品を持っていなかったので、彼が「この辺りはいいスポットがなさそうだから町外れまで行く」と言ったタイミングでお別れすることにした。
 時刻は19時を回っている。私もそろそろホビットハウスに向かわないと。

キャンピングカーを借りて旅をしているカップルにレイネの入り口まで送っていただいたところで、今度はバンをキャンピングカー仕様に改装した車に乗って一人旅をしているスイス人のおじさんに拾っていただいた。
 普段はスイスのルサーンで産業医をしているそうで、私が日本人と知ると「I know KAROUSHI(過労死)!」と言って笑う。それを聞いて、日本の過労死事情はスイスにまで届いているのか、、と私は苦笑した。

おじさんは最近カメラを趣味にしたらしい。話の流れで私の持っているデジタル一眼がSONYのα7だと知ると、おじさんはとても喜んだ。何でも同じαシリーズのデジタル一眼カメラを買ったものの、操作が分からず困っていたらしい。
 私が設定の方法やおすすめの撮り方などを拙いながらも英語で教えると、
「これで思った写真が撮れる!」
とニコニコと喜ぶので私まで嬉しくなった。ヒッチハイク旅の3日目にして、ようやくお礼らしいお礼ができたかもしれない。

道中何度か止まって景色を撮影したり、写真について話を弾ませたりしながら、ゆっくりと進んでいく時間。
傾いてきた日差しのせいか、その光景は金色に色付いているように感じた。


21時11分。名残惜しかったものの、ホビットハウスのあるビーチの入り口手前でおじさんに降ろしていただく。岬の方に海を眺めるキャンプスポットがあるらしくおじさんは今晩そこで白夜を眺めながら眠るらしい。
 別れ際、
「楽しかった。君も一緒にキャンプできるのならそうしたいんだけど、あいにくこのキャンピングカーは1人用なんだ。残念だけど、君は君でホビットハウス楽しんできてね。気をつけて!」
と声をかけていただいた。

消えていく車の後ろ姿を見送る。
 目の前には丘と、ビーチまで1時間と書かれた看板。この道から見えない隠れビーチは、丘を歩いて越えていかないといけないようだ。日光は丘で遮られていて、道は影に覆われている。これなら涼しいので、歩いても汗はあまりかかなさそうだ。

よし、と息を吸って私は覚悟を決めた。前後合わせて20kgを超えるバックパックの肩紐をぎゅっと握りしめる。
 本日最後のトレッキングと行きますか。


ビーチへの道は、レイネブリンゲン山に比べればなだらかな丘ではあるものの大きな岩が足元でゴロゴロしていて結構歩きにくかった。すでに満身創痍で痛む足を、一歩一歩重力に逆らって持ち上げる。正直、道路からビーチに向かう道とは思えない険しさだ。隠れビーチな理由も分かる。

30分ほどで峠に差しかかった。
 これであと半分。そう思って峠に上り切った時、沈まぬ白夜の太陽が正面から容赦なく日光を浴びせかけてきた。

あまりにも真正面から日光が来るので、眩しくて道が見えない。岩に足を取られる。日差しが暑い。汗が噴き出す。荷物が肩に食い込んで痛い。。。


ふらふらになりながら何とか道を下っていく途中、辛すぎてふと顔を上げた。

「うわあああ」

声が漏れる。

何だ、ここ。


そのビーチは金色に輝いていて、とてもこの世のものとは思えない。
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おとぎの国に迷い込んでしまったようだった。


ビーチに降りる。
私はビーチを歩きながら、岩が転がっていない足元のありがたさを噛み締めた。平地最高。

「海岸沿いの崖の斜面のどっかにあるよ。」
という、アレックスからの情報を元にホビットハウスを探すと、、、確かにあった。
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これは間違いなくロードオブザリングに出てくる、ホビットの家や。
入り口の円型のドアの高さは1メートルあるかないかで、私の腰の高さくらい。小柄なホビットにはちょうどいいかもしれない、と思った。
 これに比べたら人間サイズに作られたニュージーランドのホビット村の映画セットなんて、偽物みたいなものだろう。

私はドアをノックして中に誰もいないことを確認すると、ドアに開いている小窓を掴んでホビットハウスの中へ入っていった。



次回。
眠れぬ夜。
お楽しみに!

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