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これは世界で一番美しい場所、ローフォーテン諸島(ノルウェー北西部)を私がヒッチハイクで旅して回った時の記録。
第0話はこちら
(前回のあらすじ)
世界一美しい漁村を一望した。
エメラルドグリーンの海
下山した私は時間を見てドキッとした。
時刻は18時40分。そろそろ車を探さないとスボルベルに帰れない。アレックスには「仕事終わりが20時を回るから、そのくらいまで時間を潰しておいて」と言われたものの、帰りが遅くなりすぎると余計な心配をかけてしまう。
スボルベルまではスムーズに行けば車で30分。まだ多少時間に余裕はあるが、あまりにも遅くなりそうなら最悪ヒッチハイクに拘らずバスかタクシーでも…と思った。が、「そういえば」とふと思った。ヘニングスヴァール村に着いてからどちらの姿も見ていない。
村人にスボルベルまでのバスやタクシーはある?と聞いたところ、ないとのことだった。時間帯的にないのか、そもそも全くないのかはお互い拙い英語でのやりとりなので分からなかったが、どうやら期待は出来なさそうだ。
タクシーすらないとなると、ヒッチハイクで帰るしかない。元々の予定通りではあるが、いざという時のプランBがないのはちょっとしたピンチ。
私はまず村内の島々をつなぐ橋を渡り、ローフォーテン諸島を東西に結ぶメイン道路方面へ向かいながら、とりあえず車が止まれる場所を探すことにした。
しかし全然車が来ない。そういえばヘニングスヴァールはメイン道路から少し入ったところにある行き止まりの村。元々車があまり通らないのだ。
時計を確認すると、あっという間に時刻は19時を回り始めていた。こういう気持ちに焦りがある時、北極圏の白夜=日が落ちないというのは気持ちが悪い。
19時でも太陽の明るさが14,15時くらいとあまり変わらないので、私はまるで時間が進んでいないような錯覚に陥った。
視覚からの情報は「そんなに急いで帰らなくていいんじゃない?だってまだお昼過ぎだよ?」と言う。それに対して、脳が「もう19時を回ってるんだから急いで帰らないと」と視覚情報を否定する。その繰り返し。
混乱する頭を振り払うように、私は車を待つのを諦めてやけくそで徒歩で帰ろうとした。そのとき、一台のバンが見えた。
私の合図で止まってくださったバンは、エレサさん、ルイスさんはじめ5人組のカメラマングループが借りているレンタカーだった。
彼らはスイス人女性カメラマン3人とアメリカ人男性カメラマン2人。スリランカで出会って、今回の撮影旅行を企画することになったらしい。素敵な出会いだなあ!
一行はファントムというドローン2台を駆使して空からローフォーテンの海岸を撮影して回っているとのことで、ちょっと進んでは撮影、ちょっと進んでは撮影を繰り返した。数百メートル進むのに5〜10分かけて、ヘニングスヴァール村近辺の海と山を撮影していく。ドローンがあまり遠くまで行くとコントロールできないためらしい。
ドローンを操作する2人と運転する1人以外の2人は特にすることがないらしく、のんびり景色を眺めていた。
「こんなペースだけど、それでもいい?」
と30分経った頃、エレサさんに確認された。
「もちろんです!」
と私は答える。
対向車も、追い越す車もいない。この状況では他に選択肢がなかったというのもあるが、ドローン撮影をするプロたちの手付きに見惚れて、もっと一緒にいたいと思ったからだった。
途中、自分たちの乗るバンをファントムに追わせて「まるで常夏の島のようなエメラルドグリーンの海を前景に、海岸を走っていく車」というおしゃれなシチュエーションのムービーを撮影した。車のCMみたいなおしゃれムービーに映る車に自分が乗っているのを想像して、なんだか少しくすぐったい気持ちになった。
2日目の夜
20時13分、スボルベルに到着。エレサさんたちにお礼を言ってお別れ。
フラットに戻ると、ちょうど帰宅したアレックスがバタバタと準備をしていた。
「どうしたんですか?」
と聞くと、これからカウチサーフィンで知り合ったスペイン人カップルと白夜ハイキングに行くとのこと。スペイン人カップルは明日の夜から私と入れ替わりでアレックスのフラットに泊まる予定らしい。
22時ごろ、アレックスはシャワーを浴びるなど準備を終えると
「じゃあ行ってくる。明日の朝には帰ってくるけど、もし帰れなかったらそのまま出て行っていいから。鍵はオートロックだから心配しないで。」
と言い残して出ていった。
これからハイキングか…と思いつつ、窓の外を見る。ノルウェーの首都オスロはこの時期22時でようやく日暮れだったが、スボルベルの空はこの時間でもまだ16時くらいの明るさ。白夜ってすごい。
視線を下ろして街を一望する。スボルベルの街自体は山に囲まれているので、山の影で覆われて日の出前くらいの暗さになっていた。日の出前、というのは白夜の夜にふさわしい表現かもしれない。まさにあんな感じなのだ。空は明るく、地は暗い。
トレッキング後ということもあってか、シャワーを浴びると疲れがどっときた。お茶を淹れてほっと一息つく。私は気付けば自然とこれまでのヒッチハイク旅を振り返っていた。
ヒッチハイク旅は素敵な出会いのおかげで、点と点を飛んで行くような旅行にはない「線」で旅する感覚がある。これはその場所その場所の空気を肌で感じられるので、ヒッチハイクして良かったと思うポイントだ。
反面、拠点にできる場所がない心許なさがつらいな、と思った。ヒッチハイクでは誰かに拾ってもらえることが奇跡のようなものなので、常に「このまま荒野で1人野垂れ死ぬのでは」という不安と戦う事になる。正直、昨日の朝ナルヴィク出発したとは思えないくらい長く遠い2日間だった。そういうヒッチハイクに疲れてしまった。
本当のところ、全て投げ出して帰りたいとも思わないわけではない。
でも、それでも。
その苦しさから逃げる以上に前に進みたいという欲があるのを自分の中に感じた。この先に何があるのか分からないけれど、途中で投げ出してしまうのがどうしても嫌だ。そう思った。
だって、これは私が自分で決めて始めたことなのだから。
それに、ここまでヒッチハイクでお世話になった方達の気持ちを裏切ることはできないし。
自分がどうしたいかがはっきりしたことですっきりしたのか、その日は泥のように寝た。
アナ雪のモデルになった町
翌朝、私は8時に起床した。ぐっすり寝たおかげで気力は十分。
結局アレックスは帰宅しなかったので、メッセージを残して出発する。
Kabelvagに住むおじいちゃん、スボルベルに住みレクネスの工場で働くルーマニア人夫婦、おじいさん母息子の三世代家族に乗せていただき、時には黒猫と一緒に車を待ち、
旅行中の見知らぬ白人おばちゃんから「ヒッチハイクは無理やからバスにしな。」とありがたい助言をもらいつつも、
最後は里帰り中だという寡黙なフレデリックさんに拾っていただいて14時前にレイネに到着した。
このレイネこそディズニー映画のアナ雪のモデルになった場所という。
(つづく)
次回。
アナ雪のモデルになった場所へ(後編)。
お楽しみに!
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