「愛してる」は、何度でも。【完結】

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愛してる①/結城くんと再会(言えないさよならを飲み込んで、続編)




 結城くんにさよならを言わずに別れたこと、最後に「好き」って伝えなかったこと。

 すごくすごく、後悔した。

 あのとき、最後のときに「好きだよ」って言えていたら。

 これが最後になるの、だから、「さよなら」って言えていたら。

 心に残った後悔は、わたしに新しい恋を運ぶのを許してくれなかった。
「…ごめんなさい、気持ちに応えることはできません」

 桜が舞う体育館裏、言い慣れてしまった言葉を返した。

 最後のクラスで一緒だった彼は、私の答えを知っていた様子で、すんなりと受け止めて、別れの挨拶を口にする。

「元気でね、ありがとう」

 彼に言葉を返して、背を向けた彼の姿を見送った。

 ふぅーっとため息をつき、頭上を舞う桜の木を見上げる。

 今日で高校を卒業した。

 3年間、運が良いことに、いくつもの告白を受けた。

 いいな…と思う人もいたけど、その人の影に、結城くんを重ねていることに気づくと、もう、気持ちは動かない。

 いつまでも私の心が追うのは結城くんなんだ、と、自覚をさせられる。

 ちゃんとした初恋が結城くんだった。

 だったら、最初から諦めずに、連絡先を交換するとか、言葉を残すとか、約束をするとか、告白するとか、何か1つでも彼に残すことをすればよかったのに、私はその選択すら作らないまま、お別れを選んだ。

 あの時の私の選択を後悔しているわけではないけど、いつまでも引きずっては抜け出せない状況は、思った以上に苦しい。

「果歩ー?あ、いた!」

 私を探しに来た柚月が顔を出す。

「最後の告白終わった?」

「うん」

「卒業式だから、いつも以上に多かったねー…。で、果歩のお眼鏡にかなう人はいなかったの?」

「…うん、だめだった」

 苦笑する私に、柚月が大きなため息をつく。

「美女の無駄遣いってこういうことだよね。”ゆうきくん”がそんなに忘れられない?」

「…後悔してないつもりだったけど、バカな選択したかもしれない」

「そうだよ、大バカ。華の女子高生を棒に振って…。大学生になったら、一緒に彼氏つくるよ!」

 肩に腕を回して歩き出す柚月に、私の足も前へと向かう。

(そうだよね…、もう、ちゃんと、吹っ切らないと)

 5年間、私の中に居座った結城くんは、もう終わりにしないといけない。

 そう決めて、卒業と一緒に結城くんへの想いを終わりにしたはずだったのに…。




 -----大学1年生の春。

 柚月と一緒に入った講義の部屋に、結城くんが、いた。

「え…」

「え…、果歩…?」

 大人びた結城くん、最後に見たときより、顔つきがもっと男らしく、端麗で、イケメンになっている。

 その横にいる顏は、結城くんと仲良しだった山本くんの面影がある。

「結城くん?」

 私の口から出た”結城くん”に反応した柚月が、私と結城くんを交互に見る。

 会いたかった、好きだった、終わりに出来なかった…、会いたかった、会いたかった、会いたかった…!

 こみ上げてくる気持ちは色々入り交じるのに、会いたい気持ちが一番強くこだまする。

「あ、会いたかった…」

 涙があふれてきた。

 止まりそうもない涙に、急いで両手で顔を隠す。

 いきなり泣き出した私に、結城くんはドン引きしてもおかしくないのに、座っていた席を立ち、私の肩を掴んで抱きしめた。

「俺も、会いたかった…」

 結城くんの切なげな声が耳に届く。
 ”会いたかった”

 この一言が、すごくすごく、嬉しくて、余計に涙が溢れた。

【再会】
(もう会えないと思ってたよ)
(何も言わずにいなくなったの、果歩のほうじゃん)
 感動の再会は、しばらく話題にされました。



愛してる②/結城くんと寝顔


「…、夢か」

 目が覚めて、最初に見えた天井を見て、私が見ていた記憶が夢だったと気づく。

 夢だけど、夢じゃない。

 結城くんと再会したのは、実際に本当のことで、あの後、大学中でちょっとした話題になってしまった。

 隣で眠る結城くんの無防備な顔を見て、思わず頬に触れたくなる。

「結城くん、年取らないな…」

 再会したときから、6年の月日が流れたのに、結城くんの肌は変わらずきれいだし、目を閉じる顏も整ってるし、髪の毛もさらさら。

 寝癖がつかないのかな?ってびっくりするぐらい、どこを切り取ってもかっこよかった。

 中学の頃と違うのは、髪色が茶色になったこと。

 本当は茶色が地毛で、中学のときは黒く染めていた事実にも驚いた。

 結城くんの寝顔をしばらく見てから、私はベッドから移動する。

 寝室の扉を開けて、リビングを抜けて、キッチンのシンク前に立ち、コップ1杯の水を飲んだ。

 結城くんと再会したときの夢。

 今でもあの時の気持ちを鮮明に覚えている。

 長かった後悔が報われたと同時に、結城くんに2度目の恋をする覚悟を決めた。

 再会してすぐ、結城くんがもっとかっこよくなっていたことに気づいたし、抱きしめる腕は細いのに力強く、胸板の硬さから鍛えていることもわかる。

 中学の頃から身長が高い方だったのに、女性にしては身長が高い私が見上げるぐらい、さらに結城くんの身長は高くなり、離れている間のことが不安になった。

 絶対モテたよ、絶対彼女いたよ、だって、こうやってすぐに抱きしめるぐらい慣れてるもん。

 再会の涙が違う涙に変わりそうだった気持ちを思い返したときに、腰に巻きつく慣れた腕に気づいた。

「…結城くん、起きた?」

「回想中だった?意識飛んでたよ」

「……」

 回想中、という言葉に、そんなしょっちゅう想い出に飛んでないよって思ってむくれたけど、「果歩、よく意識飛んでるよ」と結城くんが追い打ちをかける。

「うわの空で、目の前の俺より過去の俺を大事にするじゃん」

 ぎゅーーーっと抱きしめる腕を強めて、肩に顔を埋めた。

 身長差があるのに、大きな体を丸めて私に抱き着く結城くんは、中学生の頃の面影がない。

 あの頃には知ることが出来なかった結城くんの一面。

 甘えん坊なところも、意外と抜けてるところも、あの頃より男らしくなったところも、全部含めて好き。

 いくつになっても、今の結城くんに恋をする。

 お腹に巻かれた結城くんの腕に触れようとすると、結城くんの腕が先に動きだしたのがわかった。

 意思を持った手はTシャツの裾から中に入り込み、敏感な上の部分に向かって進み出す。

「ゆ、ゆうきくん…!!」

「中学生の俺が出来なかったことしたら、今の俺に夢中になってくれる?」

「今でも充分…!」

 夢中だよ…というセリフは最後までいうことができず、もう片方の手で振り向かされた唇は結城くんの舌で塞がれた。




 ナイトブラを上に捲し上げ、結城くんの大きな掌で優しく胸を包み込む。
熱を持った私の体より少し冷たい結城くんの体温さえも刺激になって、びくっと跳ねた。
 優しく揉みながら、主張する敏感な部分を指の腹で刺激する。

「っ…結城、くん…」

 抗議の声を上げるけど、自分でわかるぐらい甘さを含んでいるものに、効力はない。
 「気持ちいい?果歩、ここ弱いもんね」

 優しく、だけど、逃がさないように、強い刺激を交えながら愛撫を続ける。

「ずるいよ…」

「今の俺を果歩にしっかり教えないとね。いつまで経っても、過去の俺らを抜け出せないみたいだから」

「そんなことな…っあっ…!」

 反論しようとしても、容赦なく感じるところを責め立てる結城くんのせいで、意思とは違う声が出る。

 後ろから主張する固いものが、結城くんの意思を激しく伝えてきた。

「大人の俺らだからできること、しようね」

 少しだけ甘さを含んだ結城くんの声。

 弱い力で振り向くと、結城くんはあの頃の面影を見せる優しい顔をしているのに、服の中と下着の中で容赦なく暴れ回る指たちは、全然幼さを感じさせない。

(寝てる顔の結城くんは、純粋で可愛かったのに…)

 目の前の男の顔を見せる結城くんに、思考はノックアウト。

【寝顔】
(結城くん、寝てるときの顏って、中学生のときの面影あって好き。)
(…第二ランドしたいって、催促でいい?)
昔の自分への焼きもちが、止まりません。



愛してる③/結城くんとアルバム


 普段使わない部屋の整理をしていたら、結城くんの卒業アルバムを見つけた。

 中学校の卒業アルバム。

 私が、最後までいることが出来なかった、転校する前の中学校。

 懐かしさと寂しさを感じながら、表紙をめくる。

 見慣れた顔、仲の良かった友人たち、少しだけ大人びて見える卒業写真の数々。

 その中で、すぐに目に飛び込んでくる「結城 亮」の文字と写真。

「結城くん、卒業写真でもかっこいいよ…」

 実際の結城くんと変わらない、まっすぐに見つめるイケメンの顏がそこにあった。

 クラスの名簿をばーっと見ると、結城くんに恋してるって噂のあった女子がちらほらいて、修学旅行、結城くんと一緒に行ったんだ、とか、結城くんと運動会も、文化祭も、一緒にやったんだって。

 羨ましい気持ちと嫉妬が湧いてきて、胸がぎゅーっとしてつけられた。

 中学校のボタン、誰かにあげたのかな…。

 めくるアルバムの中に、私が見れなかった結城くんを見つけては、愛しさを感じていく。

「果歩ってそんなに中学のときの俺が好き?」

 声が聞こえて、はっと顔を上げると、あぐらをかいて私の顔を見つめる結城くんが目の前にいた。

「…中学のときの結城くんが好きなんじゃなくて、”結城亮”が好きなの」

 目の前の結城くんをまっすぐ見つめて言葉を発する。

「私が転校した後も、モテたでしょ。麻美ちゃんも結城くんのこと好きだったし、尚子ちゃんも結城くんのこと好きって言ってたし…」

 結城くんのクラスの女子たちの写真を指差しては、結城くんに問いただす。

「修学旅行は誰と一緒の班だったの?運動会は、3年のときも応援団に入ったの?リレーは参加した?文化祭は…誰と回ったの?」

 溜めに溜めた気持ちを吐き出す私を、結城くんは優しい瞳で見つめていた。

「修学旅行の班は果歩と一緒になりたかったし、団長する姿は果歩に見せたかった。リレーだってアンカーで1番取ったんだよ、めちゃくちゃかっこよかったと思うのに、応援席に果歩の姿ないんだもん。文化祭だって、果歩と2人で回りたかった。実際は泰輔たちと回ったよ」

 結城くんの返事が耳に届くたび、泣きたい衝動に駆られる。

 取り戻すこともできない後悔だけど、結城くんが想い出の中に私を置いていてくれたことを聞けて、嬉しかった。

「告白された?たくさん」

「…された、かな。でも、果歩だってたくさんされたでしょ」

「……」

「…俺以外と、恋愛したかった?」

「できなかった。いいなってちょっと気持ち動くときがあっても、結城くんを重ねてるだけって、わかったから」



「俺もだよ。果歩しか眼中になかった。だから、誰とも付き合ってないし、告白もオッケーしてない」

「……本当に?」

「本当の本当に」

「結城くんのファーストキスは?」

「果歩だよ」

「っ!本当に!?」

「え、そこから疑ってたの?」

「だ、だって、慣れてる感じあったし!初めてって感じしなかったよ!」

「それを言うなら、果歩だって緊張してる感じなかったし、…俺が初めてだよね?」

「そうだよ、私の全部、結城くんが初めてだもん」

「俺もだよ」

「…っ信用できない!」

「なんで」

 私の反応が面白いのか、結城くんは怒らず笑い飛ばしてくれる。

「だって、なんか、手慣れてたし…」

 あれ?と、空気が変わった気がしたけど、違和感を覚えたときには、結城くんが私の方に近づいていて…。

「こういう風に?」

 背中からするっと入り込んだ手は、慣れた手つきでブラのホックを外した。

 いつの間にか目の前にあった整った結城くんの顔立ちは、私をじっと見つめたまま…。

 観念して瞳を閉じる私を、最後まで見届ける。

「んっ…」




 重なる唇と、結城くんの腕に支えられながら後ろに倒れ込む瞬間が、同時に訪れた。

【卒業アルバム】
(思い返しても、結城くん、慣れてる感じがあった)
(素質があっただけじゃない?…初めて同士でも、気持ちよかったってこと?)
…結城くんは、意外と意地悪です!




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