ドイツ語暗号解読 「新世界より」②~時間の波に消えたold my friends~

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コラム
2024年3月、マサチューセッツ総合病院、まさにこのポストカードの病院ですが、大きな発表がありました。
遺伝子組み換え豚腎臓を人に移植するという手術が成功、患者さんは順調に回復、退院。だけど、5月に入って、この患者さんは亡くなってしまったようです。
勇気ある患者さんのご冥福をお祈りいたします。

夢に見た世界に足を踏み入れると、思っていたのとは違う・・・そんなガッカリを抱くものです。
私も、ドイツに行く前は、「ドイツ♡」とかなりいいイメージを持っていて、理想の世界がそこにあると勝手に勘違いして、向こうで現実を知り、がっかり・・・「思ってたのと違う」と幻滅してしまった経験があります。

多分、ほぼすべての人がそうではないでしょうか。
夢に見た世界というのは、現実化すると、途端に安っぽく、見かけだおしの、ウソまみれであったと、勝手に騙されたような気持ちになって腹立たしく、裏切られたような気持ちになって悲しくなってしまうのです。

だからといって、夢は夢のままの方がいいとは思いません。ちゃんと現実化してがっかりして子供みたいに「こんなの、私のイメージしてたのと違う!」と悲しくなる・・・ここまでが一つのセットで夢の付属品なのだと思います。

ポストカードの送り主も、アメリカにがっかりした、そんな一人のようです。
「このポストカードの建物が地獄、じゃなかった、僕の職場です!」
「見かけは立派ですが、実体はそれほどじゃありません」
彼がアメリカに来て、がっかりしてしまったという心情が分かります。

憧れの新世界にやってきた。「冒険はこれからだ!」の気持ちだった。だが・・・・。思い描いていたようなものではなかった。
理想と違う現実を自分のせいにしたくないので、アメリカのせいにする。
アメリカが悪い!全然ドリームじゃねぇ!見かけばっかり、全部プロパガンダじゃねーか!

「楽しい話題といえば、テニス全米オープンで、オーストラリア(大陸)出身の二人組が優勝したこと。全移民が大喜びしたよ」
アメリカで行われたテニスの国際大会。全米オープン、男子ダブルスで、オーストラリア人の二人組が優勝したことで、アメリカ人以外のすべての在米外国人が一体となって喜んだ。

希望を持ってアメリカに渡った。故郷を遠く離れて、誰も自分のことを知らない新世界へ。それなのに・・・・。夢と現実、腹立たしいような、がっかりした気持ち・・・
これは、同じ立場である移民、移住者にしか分からない。アメリカ生まれ、アメリカ育ちには理解できない感覚でしょう。

最先端の技術、人材、設備。夢も理想も実現できる場所がアメリカ!
しがらみもない。親の階級も関係ない。親戚のコネだとか出身地だとか、先祖がどうだとか、そういうのも一切関係ない。素の自分で勝負できる世界!
そんな野心と希望をもって、アメリカに渡った若者たち・・・。

あんなにも思い焦がれたアメリカで、夢の残骸を拾うその後の日々。
「自由の女神がアバズレ」だったと知る(→なんの歌の歌詞だったか忘れた。詩だったか、ブコウスキーだったか?映画のセリフだったっけ・・・)
一体なんの罰だよ、夢を見た罰なのか?!

「光あるうちに光の中を歩め」
現実に追いつかれる前に、現実に引き戻される前に、光のスピードで突っ走ってしまう方がいい。光が見えている間に、とにかく突っ走る。行けるところまで行ってしまうのが多分正解。光の中でしか見られない光景があるのです。

やがて現実が追いついてくる。足を取られる、立ち止まってしまう時が来る。
だから、その前に、誰にも追いつけないところまで、追いつけないスピードで・・・
方向が正しいか、間違っているかなんて、知ったことか!

間違った方向に進んでも、アメリカだったら運が良ければ「ライ麦畑で」つかまえてもらえるかもしれません(笑)
確実にその後に来る、がっかりタイム、立ち止まってしまう時。現実と理想の差が埋められないと気づく時。
まさに今のキャンセルカルチャーみたいなもので、過去に偉大な功績で讃えられていた人たちがある時代を境に突然手のひら返しで悪者として裁かれる。
光を見てしまった人たちが、自分で払わなきゃいけない代償なのです。

それでも、光の中にいたことがある人たちしか言えない言葉がある。
アメリカン・ドリームに浮かされたことのある人にしか見えない光景、言えない言葉がある。
憧れに近づこうと手を伸ばしたことのある人にしか、分からないことなのかもしれません。

この遺伝子組み換え豚腎臓移植も、将来性がありますし、今まさに腎臓を患っている方、透析をしている方にとっては、希望の光です。
だけど、その後ろには・・・一種の「おぞましさ」がある。

光の中を歩んでいる人は、光のスピードの中にいる人たちには、立ち止まって考えるヒマなんてありません。必要もないですしね。
普通の人が感じる一種の「おぞましさ」は、光の中にいる人たちには、気が付かないものなのかもしれません。
おぞましさを感じる感受性を切り捨てなければ、その先には進めない。
光のスピードの中では躊躇するヒマなんてありません。

だから、一度光の中にいた人たちは、いつか「国破れて山河あり」という心境になるのですね・・・・。

アメリカを夢見て、アメリカに幻滅する・・・それで終われる夢ならば、まだいい。まだ山河はある、帰れる場所がある。

このポストカードの送り主は、この後、アメリカの最先端の病院で、何を見て、何を感じて、そして・・・その後、どうなったのでしょうね。

倒れこんだライ麦畑から空を見上げて、「山河あり」な心境になったかも?
その後、ウイーンに戻ったかもしれませんね!
アメリカ人がどんなに求めても、欲しくても、どう頑張っても手に入れられない、「故郷」。ウイーンというかつてのヨーロッパ、文化の中心地でのんびり老後を過ごしたかもしれません。

それとも、「ここは地獄だ」と言いながら、アメリカに悪態をつきながら、なんやかやで家族を持って、アメリカに馴染んでしまっていたかもしれませんね。能力と経験が上がれば上がるほど、忙しくなり、そしてその見返りがもらえれば、人は地獄でも折り合いをつけて生きていけます。
それに、住めば都と言いますから、案外、最初のカルチャーショックを乗り切ったら、しがらみのない自由さと気軽さの方が性に合ってると気が付く、なんてこともよくあります。

もしかしたらまだギリ生きているかも・・・きっと、私が想像できないような人生を送ってきたに違いないです。

ウイーンの親戚だと思われるポストカードの送り先。
きっと受け取った叔父さん・叔母さんたちは「まぁまぁ、この子も立派に楽しくやってるのね」と安心したことでしょう。

憧れの企業に就職できた!そんなワクワク感は一瞬で終わり、入社して数か月すると、使えない上司がいたり、意味不明な社内ルール、暗黙の了解があったり、「こんなクソみたいなことまでしなきゃいけないのかよ?!」と幻滅してしまうものです。
「うちの会社はもうダメ」「上が無能だからな~」なんて愚痴りながらも、「うちの会社の新規事業♡」とか「うちのチームのプロジェクト☆」なんて、人には自慢しちゃったりしてね。
このポストカードの内容に、共感できる人、多いのではないかな?と思います。


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