ドイツ語暗号解読~自主トレ編~

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コラム
前回、ドイツ語の手書きポストカードの解読を依頼され、案外、手書き解読って面白いな?!と気づいた。特に、ポストカードだからこその面白さがあると気づいた。

ご依頼してくださった方は、古いポストカードのコレクションをしているそうです。
お聞きしたところ、古いポストカードがインターネット上で販売されているということなので、私はそういうサイトを探し、古いポストカードを見てみることにしたのです。

ドイツ語の手書きの場合、戦前と戦後で書き方がかなり大幅に違っているのですね。
今まで私は、戦前の手書き文字はちょっと無理だな・・・と思っていたので手を出してません。一度、ご相談を受けたのですが、速攻で断りました。

日本語でも旧式の綴り方、つまり明治時代、戦前では書き方ちがってますよね。
分からないと思い込んでいたんです。
ああいうのは、歴史や文学研究者とかが必要に迫られてやるものであって、普通に現代で生きていたら必要のないもの。そんな古い、今では使われていない文字の解読よりは、今の現代のドイツ語をマスターする方が先じゃないのか?と、そんなこと、自分でも分かっていたからです。

翻訳の仕事を内職程度やっていたからといって、ドイツ語を完全マスターしたわけではない。しかも、会話は聞き取りがあんまり・・・なので、受け答えがおっかなびっくりという惨状・・・。コミュ障ということも災いして、ドイツ滞在しても、会話はあんまり上達しない。

翻訳でも、専門的なものの場合、どんなに語彙力があったとしても下調べの必要性は同じだし・・・。その案件が終わってしまえば、その専門的な単語なんて忘れちゃうしねー。

不必要なこと、求められてもいないことをやったって意味なんかない・・・そう思っていたのです。

だけど、前回、ちょっと背伸びして、古い手書きのポストカードの解読依頼をお引き受けしたのですね。
古いといっても戦前ではない。1960年代だ。
できるかどうか分からない、だけど、できたら素敵!そんな気持ちでチャレンジしてみたんです。
1960年代の一枚のポストカードから、様々なイメージが浮かび上がって、私は本当に夢中になって解読作業を進めたわけです。
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そこで、お仕事が終わってから、自主トレを兼ねてパズル感覚でネット上で見つけた古いポストカードの解読をやってみることにしたんです。

いや、本当に、ポストカードの解読は面白いです。

一枚のポストカード、最初はなんのとっかかりもなく、何について書かれているのか、誰がどんな目的で書いたのか分からない。
だけど、徐々にぼわーっと浮かび上がってくるんです。

最初はなんの光もない闇の世界です。
毎回思います。「こんなの無理」「できるわけない」って。
だけど、それでも、それを凝視していると、ちらりと光が見えてくる。
真っ暗闇の中、海の中にいるけれど、それでもじっと目を凝らしていると、灯台の光のように確かにキラリと向こう側に何かが見えてくる。最初はかすかに、だんだんとはっきりと光の線が見えてくるのです。

最初はぼやっと歪んでいます。思い込みや勘違いで、まったくあらぬ方向に世界観が違って見えてしまうこともある。まるで万華鏡の中を覗き込んでいるみたいな感じです。

だけど、めげずにじーっと眺めていると、一つのはっきりした光が見つかる。方向をはっきり示している光がある。それを目指していけば、鮮明にそのポストカードの世界観がぐわっと立体的に浮かび上がってくるのです。

一つの単語が、その時、その場面の空気を確かに、私のところに持ってきてくれるんですね。
時代も国も飛び越えて。
文字が私たちに何かを運んでくれる。
どこかに連れて行ってくれる。

自主トレなので、思い切って1880年代に書かれたポストカードにチャレンジしてみることにしました。
それが、上にアップした写真。
文字数が少ないので、手始めにやってみるか・・・と手を出したのですが、これが意外に面白かったです(笑)

まず、Aの文字がぐるぐるしてる~!!
装飾文字っていうんですかね。
住所宛先がBurginnen(城内)なので、お城関係者に宛てて出された手紙なんでしょう。どの都市かは分かりません。おそらく市内から発送されたため、都市名まで書いてなかったのです。

で、この解読作業の一番の肝は、一番最初の単語。
ドイツ語人(ドイツ語を勉強している人)なら、このショックが分かってもらえると思うのですが・・・どう見ても、動詞の過去完了形なんです。
Ange・・・・enというような、分離動詞の過去完了形なんですね。

動詞の過去完了形が文の頭に来る、別にこれ自体はそんなに不思議でもない。
文法によっては、そういうこともありだし、動詞の過去完了形が副詞や形容動詞として使われている場合も考えられる。

だけど!!
これ、なんと、人の名前だったんです!!
苗字だったんです。

どうしても分からないので、他の箇所から解読を始めたら、意味的にも文法的にも、人の名前がこなきゃオカシイ・・・と気づいた。これに気づくのに、私は5日かかりました。(あ、といっても、ドラマ見ている合間とか、隙間時間に数独感覚でやってただけですけど・・・笑)

5日の間、私は、たった一枚のポストカード、ほんの一つのドイツ単語にきりきり舞いさせられていたんですねぇ。

苗字ではないか?と気づいて、ドイツ人の苗字リストで調べたら、確かにけっこう珍しい苗字ではあるけど、そういう名前がある。

私の感じたイメージを出すために雰囲気超訳(笑)

アンゲンハイスターは、真面目で働き者だよ。
私の見たところ、ちょっと融通が利かないところがあるがな。
シューマン

・・・働き口の推薦文だと思う。
推薦してるのか?する気あるのか?
で、このアンゲンハイスターさんは、この推薦文でお城の仕事をもらえたんでしょうか?

なんか「くすっ」と笑いたくなる内容が書いてあったのでした。
だって、仰々しい飾り文字で、内容がコレなんですもん!!
そして、ご自身の署名が、ものすごく芸術的にのびのび書かれていますね・・・
DSCN1747[1].JPG


装飾しすぎではないでしょうか?
アンゲンハイスターさんをうっすらディスっておきながら!!
とんだちょい悪ナルシストですね、シューマンさん。

ポストカードの覗き見、ちょっと他人の秘密を覗いた気持ちになれて、とっても楽しいですよ。お勧めです!
外国語の練習にもすごくいいと思います。
あれこれ単語を引っ張り出して、これでもない、あれでもないとやっているうちに、単語力がつくかもしれません。想像力が刺激されることは確か。推理力も鍛えられるでしょう。

文法的に正しいかどうか、そういうことも気にしなきゃいけない、書き手が文法ミス・スペルミスすることもある。勝手に省略することだってある。一人一人、癖が違うしね。

そして歴史的な背景知識が必要な場合もありますので、総合学習にピッタリです。もし、英語の先生とか見ていらしたら、今度、授業に取れ入れてはいかがでしょうか?!

次回、引き続きドイツ語暗号解読の話。
前回の依頼主様が新しい案件を持ってきてくれたので、そのお話をご紹介したいと思います!
題して、「ドイツ語暗号解読 イギリスの息子編」!
お楽しみに☆
前回と同様、5~6回続きます。書き溜めてから一気に投稿する予定です。
しばし待たれよ。
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