今回は、「のれん」に焦点を当ててみたいと思います。
突然ですが、「のれん」という言葉を聞いたことがありますか?
ビジネスの世界では、この「のれん」が非常に重要な役割を果たしています。
特に、国際的なビジネスを展開している企業や、M&Aを頻繁に行っている企業にとっては、避けては通れないテーマとなっています。
のれんとは何か
簡単に言うと、企業が他の企業を買収する際に、買収価格が被買収企業の純資産を上回った場合のその差額を指します。
のれんは、買収する側の企業のバランスシートに資産として計上されます。
数値例でみてみましょう。
A社がB社を買収するケースを考えます。
■B社の純資産の価値:
資産:10億円
負債:4億円
純資産(資産 - 負債):6億円
■A社がB社を買収するために
支払った金額:8億円
■のれんの計算:
買収価格(8億円) - B社の純資産(6億円) = 2億円
この場合、A社の財務諸表上には「のれん」として2億円が計上されます。
この2億円の差額は、B社のブランド価値、顧客基盤、従業員のスキルやノウハウなど、財務諸表には具体的に表示されないが、A社がB社を買収する際に評価された要素を反映しています。
では、なぜのれんが問題となるのでしょうか。
それは、のれんが被買収企業の将来の収益力を示すものであり、その収益力は不確かなものだからです。
のれんの減損リスク
日本の会計基準では、のれんは一定期間にわたって減価償却されます。
これにより、各年の負担は比較的抑えられます。
しかし、国際会計基準(IFRS)では、のれんの定期的な減価償却は行われません。代わりに、被買収企業の収益力が落ちた場合、のれんを減損する必要があります。
こののれんの減損は、一時的なものであっても、その額が非常に大きくなることがあります。
例えば、日本企業ののれんの巨額減損では、
■キリンホールディングスのブラジル「スキンカリオール」(2015年12月期)
■東芝による米国「ウェスチングハウス」(2016年3月期)
■日本郵政によるオーストラリア「トール・ホールディングス」(2017年3月期)
などが挙げられます。
これらの事例は、原因は様々ですが、数百億円から数千億円の赤字要因となり、そのインパクトから、大きく報道されることになります。
のれんの減損は多額に計上されている会社で特に注目されます。
投資家の方々は、のれんが減損された場合に企業が本当に大丈夫なのか不安になることもあります。
2022年9月期において、のれん金額が大きい30社を見てみると、
ソフトバンクグループは5兆4592億円、
武田薬品工業は4兆9946億円と、
非常に大きな額となっており、減損したときの業績インパクトが非常に大きいのです。
自社のブランド力はのれんに計上できない?
ここまで読まれた方の中には、
「「自社のブランド力」はのれんに計上できないの?」
と思われる方もいらっしゃるかもしれませんね。
コカコーラを例に挙げると、誰もが認めるその強力なブランド力を思い浮かべることができます。
言うまでもなく、コカコーラは、コーラ市場において圧倒的なブランド力を持っています。
もちろん、ペプシコーラなどの競合も存在しますが、多くの人々が最初に思い浮かべるのは「コカコーラ」でしょう。
では、このような強力なブランド力を、コカコーラ社の資産として計上することは可能なのでしょうか?
答えは「現行の会計基準上、認められていない」というものです。
どの会社も自社のブランド力というものを資産に計上していません。
なぜなら、ブランド力の価値を具体的な金額に変換するのが非常に難しく、その金額が妥当であるかどうかを確認する手段が存在しないからです。
のれんを計上することができるのは、他社を買収した際にその会社の価値と買収額の差額として計算されるものです。
この価値は客観的に計算することができるため、のれんとして計上することが認められています。
まとめ
経済ニュースなどで「のれん」という言葉を耳にすることが多いかと思います。
今回の話を背景知識として持っておくと、ニュースの内容をより深く理解することができると思いますよ。