「約3万円?!民間心理カウンセラーは超簡単に取れる?!」

記事
コラム
[野良心理カウンセラー?]

 ココナラ電話相談をよくご存知の方は気づいているかもしれない。ここは、民間の心理カウンセラー資格を有する者で溢れ返っている。ここからはその資格について論を進めるのだが、冒頭一度話題を脱線させることを断っておく。


まず、ココナラではその資格を本当に有しているかどうかは分からない。ココナラは資格証明書の提出義務を出品者に課してはいないから捏造もありうる。要するに「嘘」であっても黙認されている状態である。


例えば、私がプロフィールの「資格」欄に「医学博士」と書くこともできる(当然持ってない)。私がすでに書いている「教員免許」も、もしかすると嘘かもしれない(証明書を出せと言われたら出せるが...)。


電話相談サービスのオススメ順ランキングに浮上したいがために、SEO対策としてプロフィールいっぱいに文字数を埋め、あるいは自分のブランディングのためにやたらと資格を列挙している者もいるかもしれない。いずれにせよ、ココナラでは経歴も資格も全部捏造可能であることを、頭に入れておきたい。

 話を本筋に戻す。とりあえず資格の類が「嘘」ではないとした上で、話を進めていく。

ココナラを始めて以来、あまりによく目にするので知った資格がある。それは、「上級心理カウンセラー」と「メンタル心理カウンセラー」だ。

「上級ってなんだ?!」と本当はいちいちツッコミを入れたいが、まあいい。ネットで検索すると、民間心理カウンセラーを「野良心理カウンセラー」ともいうらしい。すごいネーミングセンス…。


これら民間心理カウンセラー資格について、病院で臨床心理士をしている友人に尋ねたところ「知らない」とのこと。日本におけるカウンセラーのプロが知らない資格がなぜココナラに多いのだろうか?


そこでネットで調べてみると、次のことが書かれていた。まずは「ケア資格ナビ」さんから。

カウンセラー.png



「メンタル心理カウンセラーは、講座から資格試験まで自宅で受けることができます。通信講座は、送付されたDVDとテキストを使用して学んでいきます。DVDは聞き逃しがあっても繰り返し学習できますので、知識もしっかり定着させることができます。DVDプレーヤーがない方は、動画の視聴も可能です。いつでも学習できますので、忙しい方にもおすすめといえるでしょう。カリキュラム修了後に資格試験を在宅で受験しますが、講座で使用したテキストを見ながらの受験も可能です。丸暗記をしなくても大丈夫ですし、自宅受験ですので過度に緊張することなく落ち着いて受験できます。(「ケア資格ナビ」HPより)



なんと!!
在宅で受験ができて取得できる資格とのこと。
テキストを見ながら受験できるなら誰でも取れるのではないか?


そもそも、一般財団法人 日本能力開発推進協会(JADP)って何だ?

日本能力開発推進協会(JADP)がどんな団体なのか調べてみたが、そんな変な団体ではなかった。
2023年には同協会から「JADP論文集」第一号も出ていて、もっと団体をアカデミックにしていこうとするようにも見える。査読論文の審査には京大名誉教授の高名な社会心理学者もいて、なるほど職業能力開発や雇用促進等、社会福祉の観点で同協会が設立したのかとその考えに納得するところもあって興味深く、まあ協会自体が怪しさ満点といったわけではなかった。  

[民間心理カウンセラーは事実上約3万円で買えるのか?]


さて、これら民間心理カウンセラー資格は同協会のみならず資格取得サイト「キャリカレ」でも申し込めるらしい。


以下は、そのHPで公開されている資格取得にかかる費用の一部である。

これをすべてスクショするよりまとめた方が見やすいので、スクショの下に、一覧を作成した。料金とともに摩訶不思議な民間資格の数々をご覧いただきたい。

画像.png

スクリーンショット 2024-01-05 184958.png

これを見て皆さんは何を思うのだろうか?
私がまず思ったのは、お金を出せば資格は買えるんだな、というものだった。

「メンタル心理カウンセラー」も「上級心理カウンセラー」も、web価格で「28,600円」だ。

後述するが、臨床心理士になった友人は大学の心理学部に4年間在学中、実習やら研究やら大学院受験の勉強やら(彼女は特に心理学英語を頑張っていた)で、その後大学院2年通って(ここまで数百万)、試験に合格し、就職先に採用されてカウンセラーとして働いている。


長年にわたって心理学ならびに近接領域を学ぶ彼女の姿を見ていた私からすると、民間心理カウンセラー資格を「お金で買えるんだな」と思ったとて、仕方あるまい。

スキルを売るココナラで、資格欄に「カウンセラー」と書けば、購入者は「心理のプロだから」とか「電話ですぐカウンセリングを受けられる」と、その資格保持を信頼し、商品を買う者が出てくる。

そのための約3万円だとしたならば、回収容易な安い買い物ではないだろうか。資格を飾り立てる手段としても手っ取り早い。ネット上に跋扈する「野良カウンセラー」が蔓延る理由はここにある。

 その他の資格についても、何だかよく分からないものも多い。少しだけ突っ込んでおきたい。

「一流の子育て」の一流の定義は何だろう?
どうやってそれをはかるのだろう?
どのような結果が見込まれるのだろう?
定義があまりに不明瞭すぎる。

他にも、表の最後にある「英会話」という資格は何だろうか?
英会話に資格が必要なのか?
英会話アドバイザー?英会話スペシャリスト?なのか。
「英会話」だけでは何を意味するのか分からない。
英会話の資格ってことなら、せめて英会話〇〇〇〇〇という風に、他の資格同様、分かる名称にしてほしいものだ。



[心理カウンセラー資格の難易度比較]

 さて、民間資格の数々に驚きながらここまで見たが、話題を心理カウンセラーに戻そう。以下の表は、「資格Times」に載っていた難易度比較表であるので参考にしたい。

画像比較.png


この表によれば、「メンタル心理カウンセラー」も「上級心理カウンセラー」も難易度は最も低い(=要するに簡単)Dとなっている。そりゃそうだろう。2ヶ月で取れて在宅受験&カンニングo.k.なんだから…。

興味深いのは、公認心理士(難易度B)と臨床心理士(難易度A)である。少し民間心理カウンセラーの話題から逸れるが、どうして臨床心理士の方が難易度が高いのかみておきたい。

公認心理士と臨床心理士は違う資格である。公認心理士は国家資格であり2018年度に初めて国家試験が始まった新しい資格でもある。

一方、臨床心理士は国家資格ではないけれども、指定の大学院を出て「公益財団法人日本臨床心理士資格認定協会」の試験に合格すれば臨床心理士の資格を与えられる。

両者の業務に至っては、野末の論文を読む限りよく似たところもある。例えば、臨床心理士では、臨床心理査定,臨床心理面接,臨床心理的地域援助があって、これらを公認心理師資格で比較すれば、観察と分析、本人と関係者への相談・助言・指導などに該当する、とのことである(野末pp.43-44)。
この辺り、色々と深堀するとこのブログの趣旨から離れるので割愛するが、公認心理士資格ができてまだ日が浅いこともあって心理学業界においてまだ手探りな状態が続いているように見受けられる。

その上でも、臨床心理士の方が難易度が高いとされるのは、例えばおそらく指定大学院卒が義務化されていることや、試験方式としてマークシート方式の100題に加え、1,000字程度の論文記述試験や口述試験が課されるため、そこまで求められない公認心理士よりも難しいと考えられるからだろう。


[上級心理カウンセラーvs公認心理士]

 せっかくなので、新しい心理専門職である公認心理士と、ココナラを代表する上級心理カウンセラーの養成について、比較した表をつくってみた。

民間資格vs公認心理士 養成比較表(諸資料によりサラフワ作成)

スクリーンショット 2024-01-05 190154.png

        (文科省・厚労省「公認心理士のカリキュラムについて」より抜粋)



[野良カウンセラー批判]

 ここまででもうお分かりだと思うが、民間の心理カウンセラーはお金を出してテキストを見ながら試験を受けて7割取れれば簡単になれる。一方、臨床心理士、公認心理士はそうはいかない。

臨床心理士も公認心理士ともに、心理学はもちろん、その他の専門及び教養科目と実習等、長期にわたって学び訓練してなるものであり、れっきとした専門職である。

 しかし、これの何が問題なのかと思われる人もいるかもしれない。そして、なぜ私が自分の出品紹介文の文字制限に明るい文章ではなく、わざわざ警鐘を鳴らす文言を入れているのかが分かっていただけるように思う。

 筑波大学の原田隆之氏は次のように言う(ぜひ、このブログの最後にある参考引用から彼を取り扱ったニュース記事に飛び読んでいただきたい)。

「メンタルヘルスに関して、話を聞いてもらってすっきりする人もいますが、重大な問題を抱えて自殺のリスクが高かったり、精神疾患をもう発症したりしている人もいるかもしれません。それなのに専門知識がない人がお金を受け取り、『相談に来たから話を聞けばいいんだろう』で済ませて、病気が悪化したり、最悪の場合、自殺をしたりするかもしれないことが問題ですね。また、弱っている相手に性的な接触をして倫理的な問題を起こすこともあり、いろいろな害が発生する可能性があることが一番大きな問題だと思っています。」(Yahoo!ニュース特集「なぜネット上に「野良カウンセラー」が跋扈するのか――自称可能な肩書が生む、メンタルヘルスの危険性」)


同記事で、記者は次のことも指摘する。

「公認心理師でもある原田さんに相談すると、条件を満たせば保険が適用され、費用は数千円。保険適用外でも大学の相談室での相談料金は数千円以下である。ところが「野良カウンセラー」では1時間数万円の費用を請求しているところもある。」(同上)


そして最後に原田氏は、野良カウンセラーと公認心理士との大きな違いを3つ挙げる。

「一つは専門的な知識やスキルがある事です。公認心理士の場合、実習が450時間以上必要です。それに、話を聞くだけではなくて、相手が病気かどうか、どのような心理状態にあるかなどのアセスメント(評価)や、それに基づくさまざまな介入ができるなど、非常に幅広い専門的技能を持っていることが一番大きな違いですね。二つ目は倫理です。守秘義務、身体的接触の禁止、カウンセリング以外での個人的関係の禁止など、倫理に関しては厳しく指導されますし、公認心理師法には罰則の規定もあります。三つ目は研究です。卒業論文や修士論文を書いて、いろいろなアカデミックなトレーニングも受けます。『野良カウンセラー』にはこの三つともありません。」(同上)




 これら原田氏と記者の指摘をどう捉えるだろうか?私にはクライアントに誠実で、学問への信念も感じられる妥当な主張に聞こえる。

 私が自分を「カウンセラー」と言わないのは、私はその専門家ではないという自覚を自分に戒め自分が心理の専門家であると勘違いしないようにするためでもある。そして、これが最も重要だが、本当に精神的に弱っている人が、私のことをすぐに電話で対応してくれる「カウンセラー」だと信じることと、その方への対処に責任を持てないためである。これが私の誠実さの限界である。

 当然のことながら、専門家である公認心理士の中にも専門家として未熟な者もいるだろうし(どの業界にもいる)、ココナラの未資格者や民間心理カウンセラーの中には素晴らしいカウンセリングを行う者もいるかもしれない。

しかし、だからといって、時に命の危険をはらむ精神を扱う極めてセンシティブなところで、「野良カウンセラー」たち、それからそれを蔓延らせているココナラにその倫理観とその正当性を問うてみたい。

最後に。私は文系学者の端くれで、一応文章を読む人生を送ってきた。
出品内容と紹介文を読めば、本質的なことを見抜ける自信がある。
ココナラを始めた約3年前から、「この出品者さん、素敵そうだな」、「電話してみたいな」と思う極めて少数の出品者たちがいた。

その方たちはかつても今も「野良カウンセラー」の資格をプロフィールに書いていない。そして、みな、私がココナラを始めた約3年前からずっと100円から価格を上げていない。その意図をご本人たちに確認したこともないし、するつもりもないが、私の見立ては外れていなかったように思う(何だか偉そうでごめんなさい)。

 前のブログでも触れたが、「生き残り競争」時代に生きねばならない私たちは、見る眼を肥やさなければ生涯に得る財産に大きな格差が生じると書いた。

 人生を豊かにするには、質の良い本、質の良い人、質の良い環境に身を置くことが大切だと私は思う。その質を決めるのはあなただ。あなたが何を選び、誰を選ぶのか、それによって刻一刻とあなたの人生の質も変化していく。


引用・参考文献
・一般社団法人 日本能力開発推進協会
・ケア資格ナビ
・公益社団法人 日本臨床心理士資格認定協会HP
・サポートメンタルヘルスHP「【産業医監修ニュース解説】なぜネットに『野良カウンセラー』が跋扈するのか」
・資格のキャリカレHP
・上智大学総合人間科学部心理学科HP
・竹内成彦「公認心理師のカウンセラーと非公認心理師のカウンセラーの違い。『野良 カウンセラー』『エセカウンセラー』」『Yahoo!JAPANニュ
ース』
・野末武義「【特集 2】公認心理師の養成をめぐる課題—臨床心理士との比較から—」明治学院大学心理学部付属研究所年報 第11号 pp.43-48
・文部科学省 初等中等教育局 健康教育・食育課、厚生労働省 社会・援護局   障害保健福祉部 精神・障害保健課「公認心理士のカリキュラムについて」
・Yahoo!ニュースオリジナル特集「なぜネット上に『野良カウンセラー』が跋扈するのか――自称可能な肩書が生む、メンタルヘルスの危険性」

サービス数40万件のスキルマーケット、あなたにぴったりのサービスを探す