それでも、まだ生きてる。~第5話~

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翌日は、朝から何やら慌ただしかった。

上の子(キーくん)が
急に、絵の具の準備が必要だった!
青色が切れてる!赤色も切れてる!
とか、、、
下の子(けいちゃん)は、
その日は、課外授業で
お弁当を作ったのだが、デザートの
リンゴが気に入らない!梨がいい!とか、、、

普段、穏やかな子供たちが、
いつになく、ギスギスしている
感じだった。


「なんで、今、言うの?」
と、私も少し苛立ちつつ、
子供たちを宥め、玄関を出て、
庭先まで見送った。

「いってらっしゃい!絵の具、買っとくから、、、
けいちゃんも、今日はリンゴで我慢してね!」

「うーん、、、いってきまーす、、」

二人とも、まぁ仕方ないか、、、
という様子で、学校へ向かった。

子供たちの後ろ姿を、
見送っていると、天気の良かった空が、
少し陰り、風が吹いた。

と、同時に、黒い大きな影が地面に映り、
バサバサと音を立てて、通り過ぎていった。

私は、何事かと思い、
すぐさま、上を見上げた。

空は、さっきと変わらない晴天で、
雲一つない・・・

「・・・気のせい?」

私は、おかしいな、、と、
首を傾げ、玄関のドアを開けた。





私は一足先に、コーヒーショップにいた。

倫也との待ち合わせは、
12時だが、少し話を整理したくて、
早めに到着していた。

「この間、色々言ってくれたけど、
正直、まったく理解できてないし、、、」

とにかく、そういう世界が存在してる・・
ということは、納得した。

「納得した?・・・してるかな~?、、」

私は眉を潜め、うーん・・・と唸った。


『龍』が、居なくなって、1週間。

居ない時間が長くなればなるほど、
あの時のことが、まるっと
幻覚だったのでは?、、、と思えてくる。

「でも、倫也も見えてるのだから、、」

そういうことよね、、、と、
ブツブツ独り言のように、
自問自答していると、
カウンター席に腰掛けていた
60代位の女性が席を立った。

女性が、私のテーブルの横を、
通り過ぎようとした時、
何気に女性の顔を覗いた
私は、ギョっとした。

女性の顔は、
目玉が左右別の方を向き、
口は大きく裂け、
とても、人間の形相ではなかった。

「!?」

私は、通り過ぎる女性の後ろ姿を、
振り返り、目を見開き見ていると、
女性と入れ替わるように、
倫也が店内に入ってきた。

倫也は、チラッと、
女性の顔を見て、すぐさま目を反らし、
私に気が付くと、手を挙げた。

「早いね。待った?」

倫也は特に変わった様子は、
なかったように、席に着いた。

「・・・ねえ、私さ、今・・・
いや、気のせいかな、、、うん。」

「なに?今のでしょ?すれ違った女の人、、、」

倫也は私の言いたいことが、
解ったように応えた。

「・・・うん。」

「『魔』が入ってたね。」

「えっ?『魔』!?」

その時、ハッと『龍』の言葉を
思い出した。

そう言えば、『龍』も、
『魔』が増えてるとか言ってた・・・


「なんなの?『魔』って?
この間、『龍』もそんなことを言って
姿を消したの、、、」

私は、倫也に食いつくように、
質問した。

「わかったから、落ち着いて。」

と、倫也は両手のひらを私に向け、
ドウドウと制止した。

すぐに、若い店員が、
オーダーをとりにきた。
倫也は、私の前にあるコーヒーを
指さし、「同じものを」と注文した。

しばらくすると、
テーブルに、コーヒーが運ばれ、
倫也はゆっくりと、
コーヒーカップに口をつけた。

私は制止されたまま、
倫也の答えを待っていた。


倫也は一息つくと、
カップを置き、テーブルに肘をついた状態で
両手を重ね、その上に顎を乗せ、私を見つめた。

私は、急に見つめられドギマギしつつも尋ねた。


「『魔』って、なに?」


倫也は、少しため息交じりに、話し出した。




第6話へ  つづく。






















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