盲目の少女

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小説
はじめに断っておきますが、この物語の主人公は私です。盲目の少女ではありません。

 街なかの信号待ちで車を左の車線に止めていた。中央寄りの車線より心地よく落ち着く気がする。となりの車線に並ぶ知らない男性を覗かないで済む。わざわざ見なくていいのに、信号待ちの手持ちぶささで顔を向けてしまう嫌な癖があるからだ。だから何となく左の広い歩道に目を向けていた。

白い杖で黄色い点字ブロックをたたく少女がいた。その歩みは不安で車の窓越しに見ても心配になる。新学期から歩行練習を始めたのか、後ろに先生のような大人が寄り添っている。ちょっと進んで立ち止まる、怯えた小さな心が足元の可愛い運動靴を震わせていた。

私は車の中で「がんばれ」とくちを動かしていた。

 生まれた時から見えないのか、それとも事故か病気で見えなくなったのか、私にわかるわけはない。そして今、それがどうしてあの子なのか、関係ないのに、ただ通り過ごしただけなのに胸がザワザワする。かわいそうにという無責任な言葉も一瞬心に浮かぶ。

それでも信号が青になれば私は前に進むしかない。   
こうして心のザワツキは終わる。
こんな思いを何度も繰り返してきた。

家に着いたら、少女を感じて強く娘を抱きしめようと思う。
心のザワツキが蘇る。いつまでも収まらない。

街なかで少女が震えていたら今度は腕を差し出そう。急ぐ理由なんて何も無かった。ただ逃げていた。
彼女のこれからの人生を軽い言葉で想像しても私には追いつけない。
でもそれくらいなら私でも出来る。

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