(扉が開く音)
なんじゃ、こんな時間までまた残業か。人間は本当に大変よのぅ
まだ寝てなかったのかだと?愛弟子がこんな夜遅くまでがんばっておるのに、師匠のワシが寝ていられるか。それに、出迎えられるというのは嬉しいものじゃろ?
照れるでないわ。……酷いクマじゃの、どうせまた一人で抱え込んで、なんでも自分だけでやろうとしているのじゃろう。ったく、いい加減、他人を頼ることを覚えよ
ふむ、言い返す気力もないほど疲れているようじゃな……どれ、こっちに来い。ワシが寝かしつけてやろう
お前の好きなもふもふの尻尾じゃ、今だけ思う存分触っても良いぞ
何を照れておる、お前が小さい頃は寝付くまで歌を歌ってやっただろう
ワシからしたら、お前はいつまでも小さいこどもじゃ、ほれ、恥ずかしがることはない
師匠が来いと言っておる、いつまでたっても手のかかる子供よのぅ。
(ベッドがぎしぃっていう音)
そうじゃそうじゃ、素直でよろしい
よしよし、いい子じゃ……ん?ワシの手が冷たくて気持ちいいか?お前の頭はパンク寸前だからの、熱を帯びているんじゃろう。マッサージしてやるからの
気持ちいいか? ほほほ、凝っておるのぉ。ここを強く押すと気持ちいいじゃろう?
ん?な、なんじゃにやにやしおって。べ、べつにお前のためにマッサージを覚えたわけではないわ。じ、自分自身にいつかやろうと思って覚えただけであって……
そういうことにしておいてやる?くっ、生意気な……そんなことを言うやつの頭はグリグリしてやるのじゃ!
ははは、もう降参か。ふむ、許してやろう…お前が笑うと、ワシもなんだか嬉しくなるのじゃ。ういやつめ。
かわいい良い子、がんばりすぎる優しい子。今日もがんばったな、誰がなんといおうと、今日一番がんばったのはお前じゃ。誇るが良い、お前のような弟子を持ってワシは幸せじゃ
社の前で捨てられていたお前を拾って、もう20年以上の月日が経ったのか
魔法を一生懸命勉強するのは嬉しかったが、人間社会になかなか馴染もうとせんのは悩みのタネじゃったのぉ
そう膨れるな、初めて友達ができた時の嬉しそうなお前の顔が忘れられんのじゃ
大人になっていくにつれて、人間社会での生活への時間が増えていって……ワシは少し寂しかったぞ
幼い頃に教えてやった魔法は、まだ使えるか?
冗談じゃ、お前が寝る前に毎日復習していることなぞ知っておる
真面目で勤勉、こりゃ嫁ができる日も近いな。将来は安泰じゃ
……あの日、ワシの手の中で泣いていた小さな赤ん坊がこんなにも大きくなったんじゃなぁ
もうワシがいなくても生きているじゃろう……どうした、泣きそうになって
ワシがいないと生きていけないというのか、はは、甘えおって
泣きたいときは思う存分泣け。涙と一緒にうちに溜めている感情を流しだすんじゃ
いっぱい泣いて、明日も歯を食いしばって立ち上がれ。できるじゃろう?お前はワシの唯一の弟子なのじゃからな
、もう眠くなってきただろう? お前はワシがいつも見ておる。ほら、安心して目を閉じなさい
おやすみ、我が愛しい弟子よ。夢の中でも、ワシが見守っておるからな
……ふぅ、寝たか
どうせお前とワシとでは生きる寿命が違いすぎるんじゃ、別れはすぐにやってくる
それまでは、人に頼るのが苦手なお前をワシが存分に愛でてやるからな