死亡。4

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「ホテルは朝食つきらしいから、朝は良いけど、今は?」
「あ~、そういえば私、午前中にテルミさんのおやつ作ってて、テルミさんがああなったから途中から放り出して来ちゃったんだ。」
「何作ってきたの?」
「フツーに、アイスボックスクッキーを…って、ネタがネタが…」
「え?何何何?」
「アイスボックスクッキー、ネタをテーブルの上に置きっぱなしだ。」
「あうち。でも、アンタもお菓子なんて作れるようになったんやね~(笑)」
「元パティシエ見習いを舐めるな~。」
「えっ、ケーキやお菓子作る仕事なんかしてたっけ?」
「フツーに高校の時に。」
「何担当だったの?」
「別にみんなでいくつかのケーキをよってたかって一斉に作るんだけど、日曜日とかは誰も居ないから指示書の通りにスポンジケーキ焼いて…て、アキさん、コンビニ一個通り過ぎた。」
「え?ええ?どうしよう!?」
「焦らなくてもこっちにもう一個セブンあるから。」
「あ、ドキッとした~。」
「どんとうぉーりーです。」
「(笑)何気に発音いいね。」
「英語なんか落第してもおかしくなかったけど、テルミさんがハリウッド映画…しかも字幕スーパーしか見せてくれなかったから、一緒に見てて身に着いた。幼稚園児でも展開が気になるから一生懸命だった。あと、にいちゃん(おじ)もディズニー観せてくれるのはいいけど、ほとんど字幕スーパーだったし、」
「そういやそんなこともあったね~。」
「おかげで虐められたけどな。椅子の発音を教師がぐるりとひと回りして喋らせるんだけどみんな日本語発音な『チェア』『チェア』『チェア』『チェア』って言うのばっかりで回って来て私が『Chair!』って言ったら教師の方が「!!!」」って感じで。周りは皆「チェアだろーが!チャーじゃねーよ」とか言うんだけど教師が「One’s more」って何回やらせても『Chair!』」
「あははははははは!!!」
「アキちゃん、コンビニ。」
「って、うわああああ!!」
「うっかりしたね?」
「悪い悪い。」
「まあ、事故らなくて幸いだったね。」
「はい、到着~。って、くうき?夕飯だよね?何故にウイダー?」
「うん、こういう日は頭使ったからぶどう糖とか欲しくなるんだよね。」
「でもそんな、折角何でも食べて良いのに。」
「大丈夫、食べるものは食べるから。」
「ウイダーに午後ティーのミルク2本と、スイーツ…スイーツ…。(餌を求める犬の如くにアキを見つめる)」「もう、何でも好きな物食べな―。」
「( ´д)人(´д`)人(д` ) イエー じゃあ、角切りレアチーズと~」
「雪見大福と~、後は鮭の押し寿司と~。トルティーヤと~。」
「( ´,_ゝ`)プッ」
「何?」
「いや、コンビニごはんってっていうとこっちから…って思ってたけど、そういう回り方もあるんだって目から鱗が(笑)」
「テルミさんはもっと酷かったよ。」
「そうなの?」
「うん、まず甘いお菓子が一番で、次がアイスクリームで…―――。」
「うわ~。」
「あの人、欲求に忠実な人だったからね。」
「お母さんっていくつだっけ?」
「歳?72歳。」
「短命なのは欲求に忠実過ぎたからなのかも…。」
「まあ、娘にシモを取られながらまで生きたくないような事も言ってたし、介護って口では綺麗なこと言うけど、結局死に損ないの世話をして最期を看取る仕事でしょ?そんなんを赤裸々に扱う仕事もしてたから、こんなんになってまで生きたくないって思ったのかもね。実際、私はそれを経験したわけだけど、酒断ちまでして介護してたし。」
「……。」



でも、最終的に五体満足に産んでもらって小中高と勉強させてもらって、バイトもして、興味のある仕事も全部経験して、最終的にはヒキコモリになってしまったが、支えているのは私。シモの世話までさせたい、側に置きたいのが私で、アキは遠ざけられたと思っていたが、あの、死ぬ直前のテルミさんの寝顔を見ていると、それが反対だったのだと思い知らせられる。

続く。
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