水と油。

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コラム
ハッキリ言って、筆者はテルミさんが嫌いだ。
なのにどうして其処に居るの?とお思いの方もおられるだろう。

引かれるかもだが、単純に、テルミさんの収入も無いと生活できないからだ。
テルミさんはテルミさんで、私に出て行かれると不便というか、経済的にも困るし、お風呂で背中も自分で流せない。

テルミさんは、アレくらいの年齢でタダで自分を介護してくれる道具として娘をひとり獲得した勝者なのだ。いいお年頃なのに何処にも嫁がず、自分が死ぬまで介護してくれて、美味しい(?)ごはんを食べさせてくれて、車椅子を押してショッピングにも連れて行ってくれて、服も上手く着られないので筆者を呼ぶと隣の部屋から飛んできてちゃちゃっと着替えを手伝ってくれて、医者通いにも同伴してくれて、そして自分が死ぬまで介護をする覚悟ができている。

その立場を蹴って逃げようものなら電話の嵐。
下手するとタクシーとかで逃げた先まで追いかけて来たりする(笑)
一度、隣の隣の隣の市まで逃げたことがあるが、引き戻され、絶望。
疲れたので逃亡ゲームはもうやらない。

別に介護が嫌なワケじゃない。テルミさんのあの「空気読めよ( ゚Д゚)」と言いたくなるデリカシーの無さ、空気の読めなさが嫌なのだ。「フリーランスで働いているだけで、パソコンとインターネット使って仕事してるだけだからね。音楽とか流れても、それで寛いでるとかそういう事じゃないからね。気やすく呼ばないでね。」と、口が酸っぱくなるどころか渋柿でも噛んでいるような心境で言って聞かせているのだが、「でも、遊んでる時もあるよね?」と、いうワケで遠慮なく呼ぶ。

一旦、仕事のキリをつけてから珈琲タイムの為に買い揃えてある豆を選んで、挽く。…と、テルミさんが杖でファイトでキッチンまで来る。
まあ、そういう展開になると分かっているので、というか、以降の仕事のお供になるのが日替わりで珈琲だったり紅茶だったりチャイだったり緑茶だったりほうじ茶や番茶だったりで、何だかんだと多めに淹れても余らないので、ティーセット等も最大で12人前まで淹れられるように大型のを買って使っている。

で、仕方が無いのでテルミさん用のマグカップにも珈琲を注いで、アイスボックスクッキーをどうせテルミさんが匂いを嗅いで寝所から出てくるだろうと予想していたので、ふたりがちゃんと食べられるようにスライスして焼いたクッキーを出すと「美味しいね!くうきちゃんは何でもできるなぁ!」と、こっちに気を使っていますアピールで言う。それが毎日なので別にハイハイといなしてテルミさんの分をテルミさんの部屋へ持って行くと、ふーふー言いながらついてきていつも座る椅子に座り、テレビをつけるので筆者はテルミさんの椅子の左にある机にクッキーと珈琲を置き、寝所にポイしてあるテレビのリモコンも左の机に置いてやると、テルミさんが「ありがとう」のあの字も言わずテレビをつけて意識がそっちに行っているので、その間に自分は自分で食べたかったので多めに焼いたクッキーを器によそって自室に戻る。

「よう、ジキル。」
「何?ハイド。」
「なんか、俺らって奴隷じゃね?」
「は~。」
「なんだよ、何もかも悟り切った面しやがって。」
「分かってないなぁ。」
「何を分かってないんだよ?」
「こうやってて、テルミさんが保険金受取人に長女姉を指定してたのを、最近になって私に書き換えたの知ってる?多少面倒でも親切にしてやれば、あの人が死んだ時に多少なりとも保険金が手に入るんだよ。」
「……。」
「何?」
「おまえって偽z「偽善者め!って言いたいんでしょう?」
「け「計算高いって言うんでしょ?」
「あああ、うん。」
「偽善者上等、計算高いとか笑うw」
「まあ、貧乏生活には辟易としてるけど、あのテルミがそんなに早く死ぬと思うか?」「じゃあ、婚活アプリでも使ってみる?荒野さんにめっちゃ叱られそうだけど(笑)」「うぐ……。」
「いいんだよ。我慢したらしただけのご褒美が待ってるんだから。」
「あ~、こないだも保険屋が来てたなぁ。」
「気は済んだ?」
「まあ、合点はいった。」
「というわけで、テルミさんももう72歳になったし。」
「後は親切にし続けるのみか。」
「そういう事。」
「まあ、今は珈琲とクッキーを楽しんでから、作業再開するよ。」
「この仕事も上手くいくかな。」
「『いくかな』じゃなくて『いかせる』でしょ。そのうちひとり分の収入でしか食べて行けなくなるかもなんだから。」
「老後も仕事は続けなきゃダメっぽいな。」
「子供産めないからね。」
「ヤなコト言うな!」
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