ーーー(続)ーーー
日本酒で頬を赤らめた祖父の話は、まだまだ続きます。
「いいか。職人と言っても“商い”だ。
偉ぶってなんかいないで、お客さんにはちゃんと頭を下げなきゃいかん。
中途半端に勉強だけをやっているやつはこれができない。変に自信(プライド)だけを持ってしまうからそういうことができないんだ。
だから勉強だけをたくさんやればいいっていうわけじゃない。いいか、ちゃんと頭は下げるもんなんだ。
でも、ずっと頭を下げてるだけでもいかん。半分頭を下げたら、半分頭を上げておく。
ペコペコしてるばかりじゃあなくて、相手のこともしっかり見てなきゃあならんのよ。
お客さんに合わせてばかりじゃなくて、ちゃんと自分の仕事にプライドも持っておかなくちゃならん。
人を相手に仕事をするっていうのは、そういことなんだ。とくにお前みたいな仕事しているやつにはな・・・。」
ほとんど酔っぱらってしまっている様子ではありましたが、この話をしているときの祖父の眼差しが一段と光っていました。
あとは「お前が小さいときは、本当に大変だったんだから...」と、去年とまったく同じ話をされて恥ずかしいところもありましたが、ニコニコとこちらを見つめてくる眼差しの温かさがまた戻ってきました。
そして1人前の焼肉を平らげたにも関わらず、
「ここ(新宿)はわしの庭みたいなもんじゃからな。」
と闊歩していく後ろ姿は一段と元気そうに見えました。
子どもたちが数年単位で成長していく様を見られることは、とても幸せなことです。ただその一方で、自分の成長を温かく見守ってくれている人がいると感じることも、同じくらい幸せなことだと思うのです。
いつも見守ってくれている人がいる。成長を願ってくれている人がいる。
そう実感できること以上の大切なお守りは、なかなか手にできないかもしれませんね。
伊瀬山 けんご