メメント・モリ ~坂本龍一さんの生き様に触れて~

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先日、「Last Days 坂本龍一 最期の日々」(NHK)を観ました。約1年前に坂本さんは亡くなりましたが、亡くなるまでの数年間の坂本さんの姿を追った内容でした。また再放送がどこかであると思いますので、機会を捉えてぜひご覧になってほしい番組です

 坂本さんか亡くなる前年の9月にNHK509スタジオで全世界同時配信コンサートの収録がされています。私は同年12月に配信されたそのコンサートをリアルタイムで視聴しました。その時は坂本さんが闘病されていることはもちろん知っていましたが、まさかその翌年まもなく亡くなってしまうなどとは思いもよらないことでした。闘病下でありながら、すばらしい音楽を届けてくれたことにただただ感動していました。

 そうして、その全世界配信コンサートが坂本さんの最後のコンサートとなったこと、闘病下でもご自分の音楽をスケッチし続け、それを「化粧を施さず(坂本さんの言葉)」ほぼそのままの形で「12」というアルバムにして世に出したこと、命が尽きるその時まで音楽に向き合っていたことが坂本さんの訃報を知った時に分かり、生き抜くことの凄さに思いをやりました。


その1年後、「Last Days 坂本龍一 最期の日々」が放送され、1年前には知ることがなかった坂本さんの闘病の様子について知ることになりました。坂本さんは日記をつけていて、日々起こることに対して坂本さんの感情が大きく揺れ動く様子が伝わってきます。「現実感が無い」「残す音楽」「チキショウ」「2202年まで生きる」・・・坂本さんの生の声が私の心を揺さぶりました。

 映像からも、病室での坂本さんがコミカルにおどけてみせる様子、退院が叶い仮住まいのシンセサイザーを触る姿、死の2日前に東北ユースオーケストラの演奏を病室で聴いて涙するシーン、死の1時間前に意識が無くなっても音楽を楽しんでいるように動く手指、人がその一生を閉じてゆく過程を垣間見せる映像は「世界のサカモト」ではなくて、「一人の人としての坂本さん」というような、何故か親近感すら覚えてしまうものでした。

 そして、音。坂本さんは病室に小さな楽器を常に置き、たまに音を鳴らして聴き入っていました。音が無いと坂本さんは生きてゆけないくらい、音が坂本さんの命そのものだったことが伝わってきました。最期の家族との別れの時、娘さんと鈴の音を楽しんだ話は、人の幸せとはどういうものなのかを教えてくれているように感じました。

 私は、この素晴らしいドキュメンタリーを観て、一生を「真に生きる」とはどういうことなのか、を考えざるを得ませんでした。坂本さんはご自分のこれまでを「野生」と表現していました。嘘偽りなく、自分の行きたいところに向かってゆく生き方。「成功者」だからそれができる、ということでは順番が逆で、そのような生き方を貫けるから「成功者」にもなれるのだ、と思います。坂本さんは最期が近づいた時、ご家族に「いい人生だった」と話しています。

 坂本さんは、ご自身の病気について「甘く見ていた」「悔やんでいる」と言っていました。だから、家族に「ちょっとでもおかしいなと思ったら、すぐに検診に行ってほしい。」と経験した者だからこそ言える言葉で伝えています。このことは、今健康である人には本当に伝わりづらいことなのかもしれませんが、映像の中の坂本さんの姿を見ていると、何とか伝えたいと願う切実な訴えであることが分かります。


私にとって、ライフキャリアデザインに向き合うということは、今ここにあるその人の人生を映し出す鏡になろうということだと考えています。その鏡面を磨かなければ・・・と坂本さんのLast Daysに触れて思いましたし、今ここを映し出すことはもちろん、過去、現在、未来をも見てもらえるような鏡になりたいとも思いました。

 メメント・モリ。「死を想え」という意味のラテン語です。お聞きになったことがある言葉ではないでしょうか。聞いた人によっていろいろな捉え方があると思います。死を恐れるのか、恐れないのか、生がある以上、楽しむのか、楽しまないのか、自分の死なのか、誰かの死なのか、みなさんはどのように捉えるでしょうか。

 私はライフキャリアデザインにおいて、メメント・モリは絶対に外せない事柄だと思います。どう生きるかは、どう死ぬか。そのためには、自分自身の生き方をどのようにしたいのか、主体的に意思決定を繰り返してゆくことが定めと言えるでしょう。24時間そんなことに気を張りつめて考え続けていては生活ができませんからおすすめしませんが、1日のどこかで、1年に何度か、ご自分のペースでゆっくり自分の人生のことを考える時間と場を持つことはとても豊かなことです。

 坂本さんは闘病生活に入って初めてそうしたことの大事さについて、身をもって知ることになったのではないかと思います。ずっと「野生」で生きてきた、生きることができてきた坂本さんが闘病生活で大きな転機をむかえた。その転機を嘆くのではなく、さらに新しい音楽を生み出すエネルギーとして使ったことは本当にすごいことだと思いました。世界同時配信コンサートもアルバム「12」もその成果ですし、さらには音の響きを追い求めるオーケストラのための楽曲も完成段階に入っていたと言います。ぜひ世に出てほしいと思っています。すべて、メメント・モリが根底にある、坂本さんの新境地の音楽であるはずです。


今回は、メメント・モリ、について坂本龍一さんの番組を題材にお話しました。私は会社勤めとの複業でライフキャリアデザインカウンセラーとして個人や世帯の職業生活設計や資産設計のお手伝いを志しております。保持資格としては国家資格キャリアコンサルタントとAFP(日本FP協会会員)をコアスキルとして、これまでの会社生活や人生経験で学んできたことを活かして会社内や地域社会に向けた価値創造につなげてまいります。ご関心を持っていただいた方、ご相談事がある方は、どうぞお声がけください。

 最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
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